直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

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「お前、中々綺麗な顔をしているな？　どうだ、俺と今夜？　どうも男の方が具合がよくてな」
　浪人の一人が三蔵の向けて劣情のこもった眼を向ける。
「黙れ、下郎」そこで悟浄が静かだが、怒りを感じさせる声を上げた。
「何ぃ！？」「人が大人しくしておればつけあがりおって――！」
　その一言で浪人たちの理性の箍(たが)が外れる。城下において、白昼堂々刀を抜いた。それで悲鳴が湧き起こり周囲が騒然となる。
　一方、三蔵はともかく、八戒と悟浄は得物が長兵器のためこの場に持ってきていない――浪人連中が早まった行動に出たのはそのことも影響しているだろう。それに、この場にいるのは三人、数の上でも敵の方が勝ってた。
　善く戦う者は勝ち易きに勝つ――師から学んだ兵法の言葉が三蔵の脳裏に浮かんだ。
　現状は既に“勝ち易き”状況が形づくられている。
　浪人たちは、三蔵の得意な得物が暗兵器（暗器）であることを知らない――つまり、当人たちにその気がなくとも、油断が生じているのだ。
　――浪人の一人、先ほど三蔵に下卑た言葉を投げつけた男が前に出ようとした。馬面をしていて、例え女であっても虫唾が走る顔立ちだ。
　刹那、三蔵は袖口に隠していた鏢を投じる。風を裂いて飛んだ刃は紛うことなく、対手の眼窩に突き刺さった。眼球を潰されただけでなく、脳髄までも貫かれ身体を痙攣させて男は絶命する……
　唖然となる浪人たち――だが、驚いている時間はほとんど与えられない。
　三蔵が立て続けに鏢を投じたのだ。
　二人目も眼窩に刃を突き立てられる――三人目、四人目はさすがに避けたが、顔を刃が掠める。
　――そこへ疾風(はやて)と化した悟浄と八戒が迫った。