直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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   三

 右近との新陰流対策を立てる稽古をはじめて七日目、夕餉を終え眠りにつこうかという時間に、三蔵は庭に気配を感じた。周囲にはいつものごとく仲間たちの姿がある。彼らの顔も、それに気づいて鋭いものに変わった。
 ――当然、紅孩児はいの一番に気づいている。
 人数は何人だ? と三蔵は彼に眼で問いかけた。
 すると、紅孩児は指を一本立てる。もう片方の手で対手のいる方向を示した。
 ひとりか……――襲撃者にしては少ない、と三蔵は違和感を覚える。
 先の、龍造寺隆信の暗殺を防いだ件で自分たちを大友方の刺客が始末しにきたにしては奇妙だ。
 俺が行く、と得物が小さく室内で自由に動ける紅孩児が仕草でつたえてくる。
 頼む、三蔵なうなずき、彼を補助するために鏢を取り出して背後につづいた――
 三、二、一、と紅孩児が指で数をかぞえる。
 零になった瞬間、彼は庭に面する障子を開け放った。迷うことなく、あさっての方向に顔を向ける。
 彼の目線を追って、三蔵も眼を凝らした。
 いた――敷地を囲う塀の近くに、紺色の頭巾で顔を隠し同色の装束で身を固めた“賊”の姿があった。
(乱波(らっぱ)というやつか……)
 文字通り“曲者”だということを主の賢兼や家臣たちから聞いていた。
 乱波、忍者の遣う忍術というものは、いわば一種の山岳兵法だ。山岳地帯ではその狭隘な地形のため大兵力の展開はしにくい。また、道が細く急な坂であるため、高いところから見張っていても、木々の葉の陰で起こっていることはうかがえない。このような深い山のなかで、小部隊を移動させたり、物見をしたり、伝令を送ったりするためには、格別な技術が必要となる。山また山となる地域を根城とする豪族や野武士たちは、このような技術を代々発達させてきた。これが忍術の基礎だ。
 ――こちらの視線を受けても、対手は慌てる様子はみせない。
(それだけ自信がるということか、それとも――)
 考えながらも、
「かような刻限に何用だ?」
 と三蔵は鋭い声で問いかけた。
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