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「わしは日の本の、一豪族の頭領だった。だが、戦に敗れ追われることになり、奥と子には害が及ばぬよう縁(ゆかり)のある者に任せて落ち延びた。そして、かねてから望んでいた“兵法の道を究める”という志のために海を越え、大明国へと渡ったのだ」
そんな事情があったのか、と三蔵たちは反応さえ返すことができずただ耳をすました。
「兵法者と立会い、あるいは教えを乞いながらわしは各地を流浪した――その末に出会ったのがおぬしたちだ」
……――彼の言葉で、甚助との出会いがいかに運命的だったかがわかり、三蔵は奇妙な感慨に襲われる。
「そして数年のときが経った。近隣の兵法者と交流し自身の業に工夫を加え、わしはさらなる高みを目指しておった――だが、そんなわしのもとへ、かつての家臣が姿を現した。その者も、わしと似たような事情で海を渡っていた」
無表情だった甚助の表情がそこでかすかに歪んだ。
「あ奴はわしに『殿の奥とご子息は、歓心を買いたい某(なにがし)によって龍造寺方へと差し出された』と信を置いていた者に裏切られた事実を明かした」
感情を必死に抑えているようだが、声には憤怒がにじんでいる……
その様子に、三蔵はやる瀬ない心持ちになった。
同時に、かつて庵から出てきて稽古の中止を告げたうろたえた様子の師、その後から出てきた男の姿が脳裡によみがえる――
「日の本へ無我夢中で戻ったわしを待っていたのは、家臣の言葉を裏付ける現実だった……」
当時に立ち返ったように師の語調から力が抜けた。そして、
「戦国のならいとはいえ、妻子の命を奪った龍造寺のことがわしは許せぬ」
と血を吐くような表情で告げる。
「頼む、わしとともに龍造寺と戦ってくれ」
甚助の視線が、まっすぐに三蔵を捉えた――彼女に決定権があることを知っているのだ。
諾(だく)、と容易にはこたえられない。
百武賢兼――その室の円久尼には、どこの馬の骨とも知れぬ異国人を士分に取り立ててくれた恩がある。
そんな事情があったのか、と三蔵たちは反応さえ返すことができずただ耳をすました。
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「そして数年のときが経った。近隣の兵法者と交流し自身の業に工夫を加え、わしはさらなる高みを目指しておった――だが、そんなわしのもとへ、かつての家臣が姿を現した。その者も、わしと似たような事情で海を渡っていた」
無表情だった甚助の表情がそこでかすかに歪んだ。
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感情を必死に抑えているようだが、声には憤怒がにじんでいる……
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