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「どうもしねえ」
が、返答は正反対のものだ。
「あっしらに頼まれたのは、あくまで“帳簿を運ぶこと”だ。だったら、それ以外のことにかかわり合いになる義理はねえ」
「だけども兄貴、それじゃあ娘は」
「まあ、殺されるだろうな。そうでなくとも、少なくとも犯されるだろう」
勢い込む平太に、己之吉は鬱陶しげに声を返す。
「それがどうした?」
「どうしたって」平太は言葉を失った。
「仮に娘を助けに行ったとする。当然、向こうはそれなりの頭数をそろえてやがるだろう。万が一、あっしらが殺されちまえば帳簿は奪われ、渡世人飛脚の仕事はそれでご破算だ」
「そりゃあ、そうでござんすが」
「あっしらがやらんきゃならねえのは、一に荷を届けることだ。娘ともども帳簿を届けてくれと頼まれたのならともかく、依頼主の娘が拐されたからといって助けに行く義理はねえんだよ」
なおも抗弁しようとする平太に、己之吉が顔を寄せ声を低めて告げる。言外に、それ以上四の五のいうとただじゃおかねえぞ、といっていた。
が、絶妙な間で平太は相手の間合いからのがれる。剣術で鍛えた目付の賜物だ。
「でありやしたら、あっしだけでも助けに向かいやす。兄貴は先に行ってくだせえ。追手の足止めにもなって一石二鳥でありやしょう」
平太は瞬時に口実をひねり出す。そんな彼を、己之吉はしばし無言で見据えた。そして、
「勝手にしな。無宿人がいつどこで死ぬか、それはそいつの勝手だ。つっても、まあ、おめえはまだ無宿じゃあねえが」
ここで初めて、己之吉が感情らしい感情を見せる。それは嘲りだった。
何をどう言ったところで手を貸してくれそうにはない。それに平太も男だ。そんな相手に合力を求めるつもりなどなかった。
が、返答は正反対のものだ。
「あっしらに頼まれたのは、あくまで“帳簿を運ぶこと”だ。だったら、それ以外のことにかかわり合いになる義理はねえ」
「だけども兄貴、それじゃあ娘は」
「まあ、殺されるだろうな。そうでなくとも、少なくとも犯されるだろう」
勢い込む平太に、己之吉は鬱陶しげに声を返す。
「それがどうした?」
「どうしたって」平太は言葉を失った。
「仮に娘を助けに行ったとする。当然、向こうはそれなりの頭数をそろえてやがるだろう。万が一、あっしらが殺されちまえば帳簿は奪われ、渡世人飛脚の仕事はそれでご破算だ」
「そりゃあ、そうでござんすが」
「あっしらがやらんきゃならねえのは、一に荷を届けることだ。娘ともども帳簿を届けてくれと頼まれたのならともかく、依頼主の娘が拐されたからといって助けに行く義理はねえんだよ」
なおも抗弁しようとする平太に、己之吉が顔を寄せ声を低めて告げる。言外に、それ以上四の五のいうとただじゃおかねえぞ、といっていた。
が、絶妙な間で平太は相手の間合いからのがれる。剣術で鍛えた目付の賜物だ。
「でありやしたら、あっしだけでも助けに向かいやす。兄貴は先に行ってくだせえ。追手の足止めにもなって一石二鳥でありやしょう」
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「勝手にしな。無宿人がいつどこで死ぬか、それはそいつの勝手だ。つっても、まあ、おめえはまだ無宿じゃあねえが」
ここで初めて、己之吉が感情らしい感情を見せる。それは嘲りだった。
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