渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 風切り音が同時に無数に生じる。意表を突かれた、三度目は斬撃ではなく棒手裏剣による攻撃だった。
 放たれた無数の手裏剣をすべて防ぐことは不可能だ。
 大きく逃げれば源太郎丸に当たりかねない。体を開くことと、得物の一閃で対応した。とたん、腕に痛みを感じる。
 その隙に相手は寄り身した。剣光一閃、平太は袈裟斬りに大刀を喰らい命を落とす。かに思えたが、眼前に現れた人影がそれを防いだ。斜めに掲げた刀身でもって見事に斬撃を受け流した。
 刹那、ひるがえった剣尖が敵の体を求めて走る。
 だが、やはり常人離れした身体能力でもって敵は攻撃からのがれていた。が、その眉間には思わぬ新手の出現にしわが刻まれている。
 それでも動きを止めずに襲いかかろうと地面を蹴ろうとした瞬間、甲高い音が周囲にひびき渡った。これは――平太はとっさに正体が分からない。
「呼子だと」
 襲撃者がその正体を独語した。あたりの草叢を踏む音があちこちからする。それに襲撃者は険しい顔となり、「退くぞ」とほとんど逡巡することなく仲間に向かって怒鳴る。
 とたん、鎖鎌の男は又一郎に相対した姿勢のまま後ろにさがり、刃圏内をのがれたところで脱兎のごとく逃げた。むろん、それに合わせて平太たちを襲っていたほうの男もその場から遁走している。
「間違っても追うなよ」と又一郎に釘を刺されたが、平太は到底そんな気にはなれなかった。
 自分の力量が遠く及ばないのは火を見るよりあきらかだ。恐怖したわけではないが、気力がそこまで高まらない。
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