渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 だが、さらに表に人影が飛び出してくる。大刀を抜き放つや、天をすこし傾いで指すようにふり上げた。そこから先はまるで幻覚を見ているようだ。文字通り、まばたきひとつの間で普通の剣士の刃圏内をはるかに超える距離を詰めてきたのだ。
 瞬間的に平太は背筋に戦慄が走るのをおぼえる。大刀を受ける前から自分の死を幻視したのだ。
「あやつはそれがしが」
 疾風(はやて)と化して吉兵衛が動く。差料を抜き放つや剣を掲げる。
 瞬時に敵も狙いを定め、吉兵衛へと襲いかかった。

   七

 又一郎は鉄砲を背負い、代わりに大刀を抜いている。雑木林の木立のなかを縦横無尽に動き回りながら、幾度も大刀をふるっていた。
 前回、彼を苦しめた槍衾の戦術も木々が邪魔をするこの場所は使いようがない。
 兵法者の足運びで常人離れした距離をちぢめては襲いかかり、予測不能の動きで遠ざかる又一郎を前にやくざ者たちはひとり、またひとりと倒されていった。
 が、そのなかでひとりだけ例外が現れる。
 最後に残ったやくざ者だ。四角い顎に濃い眉が特徴的な乱世の兵を思わせる風貌の相手だった。
 けら首を切断しようとする一撃を巧みに柄を操作して空を切らせたのだ。
「おめえさん、なかなか槍を遣うようだ」「そういう、うぬもな」
 相手は面倒くさげに応じる。
「死左衛門がひとり、重左エ門だ。まあ、憶えずともいい」
「なんでだい?」
「死ねばすべてが終わりだ、憶える意味もない。殺されたとしてもまた然り」
 又一郎の問いかけに重左エ門は鉛色の声で答えた。
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