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千太郎は百姓家のひとつに潜り込んでいた。
得意の大身槍をふるえない不利が生じるが致し方ない、鉄砲に対抗するためだ。大身槍は、柄を分割できる仕組みの物をもちいているためふたつに分けて背負っている。
そして代わりに弓を構えていた。戸口から三尺と少し引っ込んだところでひざ立ちになって敵を待ち構えていた。
視線の先にはやくざ者の骸がひとつ、ふたつと転がっている。
ひとりを仕留め、その死体にわざと矢を打ちこむことでもう片方を誘ったのだ。これに懲りたのか以後、雑魚は建物を取り巻いて動く気配がない。これが戦であれば火矢を射かけられるところだが、相手にはその準備がないらしく今のところ建物に火がつく気配はない。
一度、勘を頼りにした発砲とともに松明を手にしたやくざ者が突貫をかけてきたが、矢が頭をかすめるや顔色を変えて逃げていった。
けども、そろそろ相手がたも我慢の限界のはず――。
その考えはすぐに現実のものとなった。
突如として、闇にかすかな“火”が生じたのだ。おそらく、手で火縄を隠して移動してきたのだろう、ぎりぎり屋内を覗き見る角度に気づくと人影の輪郭が現れていた。おそらく、芋虫の動きにすら劣る速さで這ってきたせいで気づけなかったのだ。
千太郎は矢を弓につがえたままだ。これは闇のなかでは“目印”となる。
刹那、轟音が鳴りひびいた。銃丸が放たれたのだ。
同時に千太郎もまた矢を放っている。直後、強烈な衝撃が胸部に生じた。
「痛え」
しかし、死にはしない。鍋を失敬して着物のしたに隠していたからだ。
相手は必ず、矢のかすかな反射を頼りに、しかも一瞬裡に発砲する。当然のこと、頭部などを狙う余裕はなく胴を狙うだろう、と読んだ上での工夫だった。闇で目印になるのを覚悟で構えたままのだったのはこのためだ。三尺以上建物のうちに引き込むと、人間の姿はとらえづらい、それもまた計算に入れていた。
得意の大身槍をふるえない不利が生じるが致し方ない、鉄砲に対抗するためだ。大身槍は、柄を分割できる仕組みの物をもちいているためふたつに分けて背負っている。
そして代わりに弓を構えていた。戸口から三尺と少し引っ込んだところでひざ立ちになって敵を待ち構えていた。
視線の先にはやくざ者の骸がひとつ、ふたつと転がっている。
ひとりを仕留め、その死体にわざと矢を打ちこむことでもう片方を誘ったのだ。これに懲りたのか以後、雑魚は建物を取り巻いて動く気配がない。これが戦であれば火矢を射かけられるところだが、相手にはその準備がないらしく今のところ建物に火がつく気配はない。
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その考えはすぐに現実のものとなった。
突如として、闇にかすかな“火”が生じたのだ。おそらく、手で火縄を隠して移動してきたのだろう、ぎりぎり屋内を覗き見る角度に気づくと人影の輪郭が現れていた。おそらく、芋虫の動きにすら劣る速さで這ってきたせいで気づけなかったのだ。
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