渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 火付盗賊改には尋問の権限が与えられているが、それは罪を認めさせるという言い訳のもとに行われる死刑だ。ゆえにこそ火付盗賊改は恐れられるのだ。
 目つきを鋭くし、破落戸たちは視線を走らせる。ほどなく、すこし遠い場所の木陰からこちらをうかがっていた源太郎丸と目が合うこととなった。人の性として、こういうときにただ大人しく隠れているのは難しいものだ、ましてやそれが子どもとなれば。
 たわけ――胸中で叱責しながらも、平太は滑るように動いて殺到する破落戸たちを防ごうとした。
 が、そこに、
「ここで会ったが因果だぜ、案内(あない)役が消えちまってもこうしてなんとか探し出してやったんだ覚悟しやがれ」
 と第三者の声がひびいた。恰幅のいい親分らしき中年男を先頭に、やくざ者の一団を先導してあさっての方向から現れたのだ。
 誰何(すいか)せずとも、すぐにその正体は明らかとなる。
「平太ってのはどいつだい、倅の仇を直々に討ちに来てやったぜ」
 壮年の固太りの男が怒声を発した。周囲には十人からなる人影があり、その半数近くが浪人態の者たちだ。
「平太ってのはそいつだ」
 目端の利く者が敵の中にいたらしく、この騒擾のなかで平太を指さしてみせる。
「先生方、お願いしやす、あいつをぶち殺して下せえ」
 とたん、親分は平太を鋭く睨み、直後に浪人態の男たちが動き出した。
 まずい――平太は総身に震えが走るのを感じる。彼らと剣を交えては、どうしたところで源太郎丸を助けるのには間に合わない。
 とっさに平太は視線を巡らせたが、仲間たちはそれぞれが敵を相手取っておりとても自由に動ける状況ではなかった。
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