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そこで目が覚めた。
「どうした、史郎」
焚火の火が消えていた。それを右、左にと史郎と四千は分かれた形で寝ていたのだ。
四千は半身を起こし、こちらを見ている。
「なに、ちと夢見が悪かっただけだ」
史郎は顎の汗をぬぐって応じた。
都合のいい、と史郎は思う。大勢を斬っていたというのに、弟を斬ったときだけ女々しく夢枕に弟を登場させるなど身勝手に過ぎるだろう。
それにしても悪夢など、力ではどうしようもないものだ。これまで力を追求してきたというに、なんと脆いものか。三つ競べに参加する前には、何事かにつけ“面倒だ”と思っていが、弟を失った今、そんな考えは脳裏に浮かばないようになっていた。
「史郎様、善鬼にございます」
突如、闇から黒装束の老爺が姿を現わす。
とっさに四千が腰刀を抜いた。それを史郎は手で制す。
「待て。父が飼っている伺見だ」
伺見、と四千は眉間に皺を寄せた。
「石上家伺見、善鬼にございます。以後、お見知りおきを」
善鬼が片膝立ちになり告げる。
「近う、寄れ。話もしにくい」
史郎が火打石を使って火を起こした。
「されば」と前鬼が史郎と四千のななめ前に座る。
「して、何用だ?」
「ご報告を、と思った次第で」
史郎の問いかけに、善鬼がかしこまって応じた。
「他の走者のことにございます」
「聞こう」
史郎はうなずく。
「月卿の家人にございますが、存外かんばしくなく史郎様には遅れを取っております」
「そうか」
「ただ、中位以下の家の者は奮闘しております」
大方、主人が出世した暁には官職を、という約定でもあるのだろう、と史郎は推測する。
「されど、源三条様のところの佐康(すけやす)は奮闘しており、史郎様とはさほど離れておりませぬ」
その言葉に、史郎は眉間に皺を寄せた。
あの男との斬り合いは面倒だ、全身全霊の対処が求められる。
「明日はもそっと足を速めるか」
史郎は四千に視線を向けた。
「わたしを舐めるな、山で生涯を終えるわたしがお前の足に負けると思うか?」
強気な彼女の発言に、
「そうだろうな」
と史郎は微苦笑で顎を引く。
「ところで、今日はなにか変わったことがござったか」
「刺客を幾人か斬った」
善鬼の言葉に、そこまで言って史郎は言葉が淀む。それを振り切るように、
「犬丸の奴も斬った」
と告げた。
「なんと、犬丸君を」
善鬼は目を剥いた。ついで、悲しげな目をする。
「嘘をつくな史郎。死んだのは、あのわっぱがおのれの首に刃を当て引いたからだろう」
「したが、俺が死なせたようなものだ」
四千の叱責に、史郎は表情を翳らせた。
「さようでございましたか」
善鬼が真相を理解して二度三度とうなずく。
「犬丸様も、史郎様に見送られたことは救いでございましょう」
「そんなこと」
善鬼に対し声を荒げかけ、史郎は息を吐いた。こんなものは八つ当たりだ、と思ったのだ。
「犬丸様の亡骸は?」
「葬った」
史郎の言葉に、善鬼がおのれの倅の死を悼むような顔でうなずいた。
「おまえが我が家の伺見でよかった」
「それは幸いにございます」
史郎の言葉に、老いた伺見は淡い笑みを浮かべた。
「どうした、史郎」
焚火の火が消えていた。それを右、左にと史郎と四千は分かれた形で寝ていたのだ。
四千は半身を起こし、こちらを見ている。
「なに、ちと夢見が悪かっただけだ」
史郎は顎の汗をぬぐって応じた。
都合のいい、と史郎は思う。大勢を斬っていたというのに、弟を斬ったときだけ女々しく夢枕に弟を登場させるなど身勝手に過ぎるだろう。
それにしても悪夢など、力ではどうしようもないものだ。これまで力を追求してきたというに、なんと脆いものか。三つ競べに参加する前には、何事かにつけ“面倒だ”と思っていが、弟を失った今、そんな考えは脳裏に浮かばないようになっていた。
「史郎様、善鬼にございます」
突如、闇から黒装束の老爺が姿を現わす。
とっさに四千が腰刀を抜いた。それを史郎は手で制す。
「待て。父が飼っている伺見だ」
伺見、と四千は眉間に皺を寄せた。
「石上家伺見、善鬼にございます。以後、お見知りおきを」
善鬼が片膝立ちになり告げる。
「近う、寄れ。話もしにくい」
史郎が火打石を使って火を起こした。
「されば」と前鬼が史郎と四千のななめ前に座る。
「して、何用だ?」
「ご報告を、と思った次第で」
史郎の問いかけに、善鬼がかしこまって応じた。
「他の走者のことにございます」
「聞こう」
史郎はうなずく。
「月卿の家人にございますが、存外かんばしくなく史郎様には遅れを取っております」
「そうか」
「ただ、中位以下の家の者は奮闘しております」
大方、主人が出世した暁には官職を、という約定でもあるのだろう、と史郎は推測する。
「されど、源三条様のところの佐康(すけやす)は奮闘しており、史郎様とはさほど離れておりませぬ」
その言葉に、史郎は眉間に皺を寄せた。
あの男との斬り合いは面倒だ、全身全霊の対処が求められる。
「明日はもそっと足を速めるか」
史郎は四千に視線を向けた。
「わたしを舐めるな、山で生涯を終えるわたしがお前の足に負けると思うか?」
強気な彼女の発言に、
「そうだろうな」
と史郎は微苦笑で顎を引く。
「ところで、今日はなにか変わったことがござったか」
「刺客を幾人か斬った」
善鬼の言葉に、そこまで言って史郎は言葉が淀む。それを振り切るように、
「犬丸の奴も斬った」
と告げた。
「なんと、犬丸君を」
善鬼は目を剥いた。ついで、悲しげな目をする。
「嘘をつくな史郎。死んだのは、あのわっぱがおのれの首に刃を当て引いたからだろう」
「したが、俺が死なせたようなものだ」
四千の叱責に、史郎は表情を翳らせた。
「さようでございましたか」
善鬼が真相を理解して二度三度とうなずく。
「犬丸様も、史郎様に見送られたことは救いでございましょう」
「そんなこと」
善鬼に対し声を荒げかけ、史郎は息を吐いた。こんなものは八つ当たりだ、と思ったのだ。
「犬丸様の亡骸は?」
「葬った」
史郎の言葉に、善鬼がおのれの倅の死を悼むような顔でうなずいた。
「おまえが我が家の伺見でよかった」
「それは幸いにございます」
史郎の言葉に、老いた伺見は淡い笑みを浮かべた。
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