忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 祖父の惚けのない状態というのは、厚い雲の向こうから差し込む一筋の陽光のようなものだ。期待するだけ虚しい。祖父の言葉には答えず、未だ姿を見えない拐しの真の下手人を探しに行こう、と手下に声をかけようとした刹那、小平次たち忍びの表情は瞬時に険しくなった。
 闇の中、茂みの奥に兎の瞳の輝きを見つけるように、かすかな殺気を察知したのだ。次の瞬間、家屋に何かがぶつかる音が聞こえる。
「なんだ」と独語し瀬兵衛が立ち上がった。
 そこに吟の制止の声が飛ぶ。「不用意に動かないでおくれ、旦那」
 一方、小平次たちは目線を交わし向後の動きを打ち合わせた。
 まとっていた打裂羽織(ぶっさきばおり)を脱ぎ、戸口の脇へと移動する。反対側には重左エ門と吉足がついた。ゆっくりと戸口を開け放つ。誰の姿も確認できないことを確認した瞬間、羽織を勢いよく外へと放り投げた。
 刃風一颯(はかぜいっさつ)、羽織の布地がななめに大きく裂ける。次の瞬間、吉足が外に躍り出た。四足獣の低い姿勢に、初太刀を放ったのとは別の者が反対から送った一閃はその体をかすめて過ぎるに留まる。
 一瞬裡のうちに事態は展開した。悲鳴が聞こえる。同時に小平次は外へと飛び出していた。二の太刀を放った者の方へ体を向け、相手を視界にとらえる。忍び装束の相手が逆袈裟に斬りつけてきた。電光石火、体を開いた小平次は相手の腹に刺突を見舞う。
 並行して、喉笛を吉足に咬みつかれた忍びが重左エ門に拘束される。
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