忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 一方、馬二が残りの敵を求めて弩を構えた。弩は奈良から平安の世にかけて用いられた得物で、長い射程と精度の高さで弓に勝る。動く標的に対して極端に弱いことや矢の装填に時間のかかることから廃れていったが、馬二は先祖から弱味を克服する工夫とともに弩の製造法その他をつたえられていた。
 吟、太蔵もそれぞれ、短刀、焙烙火(ほうろくび)を用意する。しかし、それ以上の攻撃はない。
 突如、馬二が闇のなかに向かって弩の矢を放つ。敵を直接狙ってのものではない。居場所を察知されたと相手を錯覚させ、攻撃を誘うためのものだ。
 けれども、やはり新手が現れる気配はない。
 そうしているうちに、最初に放たれたであろう焙烙火の火が家屋の屋根を燃え上がらせつつあった。
 陽動の焙烙火が当たった場所からして、それなりの距離から得物を投じたはずだ。それから、戸口の左右の脇にひそむのはむずかしいことを考えると最低もうひとり敵がいるはずだった。
 どうやら逃げたか――朋輩が殺られたのを見て遁走を決意したのだろう。その判断の早さに小平次は内心舌を巻いた。
「馬二、重左エ門はあたりを警戒、余の者は火を消してください」
 ただ、表面上は冷静さを保って次の指示を出す。
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