忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「いってえ、その話ってのはなんだよ」
 代わって、茣蓙(ござ)を囲む客のひとり渡世人が疑問の声をあげた。
「塩飽の島を“切り取り次第勝手”とする」
「切り取り次第勝手?」「意味がわからねえぞ」
 男の言葉に当然の反応が返ってくる。が、
「島の者どもにどのような無体を働こうが、町方は関与せぬ」
 このせりふを聞いた瞬間、破落戸たちの表情が変わった。
 高丸領京極家が塩飽の者たちと境目争いを起こしているのは周辺の者ならば一度は耳にすることだ。旅の途上で立ち寄った者にしても、世間話で土地者から語られるのはこのことに決まっていた。だから、聡い者は悟ったのだ。自分たちのような者を用いて、高丸領京極家は塩飽の島民を力づくで黙らせることにしたのだ、と。
“どこの”町方と明かさなかったことに引っかかる部分はあるがそれを無視させるほどに魅力的な話だった。
「ただし、島の者をひとりとして外に出すな」
「そうすれば、女を犯そうが、金子を奪おうが」
「おぬしらの勝手だ」
 事情を理解した者の問いに、男――高丸領京極家に仕える忍びは答えた。その口もとに、満面の笑みが浮かんだ。そう、彼こそ小平次たちから逃げ延びた忍びだった。
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