24 / 141
24
しおりを挟む
● ● ●
小平次にとって、父の太平次は自慢の父親だった。
誰からも慕われ、忍びとしての業前も将軍家御庭番の者にも劣らぬと噂されていた。だが、ある日。
死体で見つかった。降って湧いたような御家騒動の最中でのことだ。
町屋の路上で首を裂かれて事切れていた。
屋敷へと運び出された、無念の表情で冷たくなった父が、自分の父親であることが小平次は信じられない。
確かに見目形は太平次だった。身なりも最後に小平次が見たままだ。
しかし、それでも心がそれを受け入れようとしなかった。
衝撃が大きすぎて、それ以上考えが及ばない。冷静に思考を巡らせれば、誰かに忍びが命を奪われたのだから御家の先行きを心配しなければならないはずだった。だが、その事実を受け入れられないというのに、不慮の死がもたらす弊害など思いつくはずもない。
だが、小平次の心持ちなどと関係なく時間は粛々と流れる。
通夜が行われ、葬儀も終わった。そして、気づけば失われたのは父の命だけに留まらない。藩がお取り潰しになったのだ。
その事実を知らされ屋敷にもどったところ、
「おや、どうしたんじゃ、茂平治。随分と背丈が縮んだのう」
祖父の茂平治が惚けていた。
父、仕えるべき主、そして最後に頼るべき相手のはずだった祖父までもある意味失った、その事実に小平次は呆然となる。
小平次にとって、父の太平次は自慢の父親だった。
誰からも慕われ、忍びとしての業前も将軍家御庭番の者にも劣らぬと噂されていた。だが、ある日。
死体で見つかった。降って湧いたような御家騒動の最中でのことだ。
町屋の路上で首を裂かれて事切れていた。
屋敷へと運び出された、無念の表情で冷たくなった父が、自分の父親であることが小平次は信じられない。
確かに見目形は太平次だった。身なりも最後に小平次が見たままだ。
しかし、それでも心がそれを受け入れようとしなかった。
衝撃が大きすぎて、それ以上考えが及ばない。冷静に思考を巡らせれば、誰かに忍びが命を奪われたのだから御家の先行きを心配しなければならないはずだった。だが、その事実を受け入れられないというのに、不慮の死がもたらす弊害など思いつくはずもない。
だが、小平次の心持ちなどと関係なく時間は粛々と流れる。
通夜が行われ、葬儀も終わった。そして、気づけば失われたのは父の命だけに留まらない。藩がお取り潰しになったのだ。
その事実を知らされ屋敷にもどったところ、
「おや、どうしたんじゃ、茂平治。随分と背丈が縮んだのう」
祖父の茂平治が惚けていた。
父、仕えるべき主、そして最後に頼るべき相手のはずだった祖父までもある意味失った、その事実に小平次は呆然となる。
0
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる