28 / 141
28
しおりを挟む
「承知した、小平次さん」だが、それを瀬兵衛がさえぎった。
「年寄様」「おまえは黙ってろ」
抗議とおどろきが半々の表情の若者を、瀬兵衛は厳しい顔で睨みつける。荒々しい海賊を率いる四人の島年寄のひとりであるたけにその貫禄は下手なやくざ者の親分では負けてしまいそうな迫力だった。さらに、
「こちらの仁の手並みは倅をまたたく間に取り戻してくださったことで承知済みだ、おまえの異見なんぞ聞いてねえんだよ」
と恫喝されては黙り込むしかない。
「平吉、おまえはひとっ走り行って、鐘を鳴らすように伝えてこい」
早く行け、と怒鳴られ若者は弾かれたように走り出す。
「助かります」
これでいいだろうか、という顔で自分を見る瀬兵衛に小平次は大きく顎を引いた。
五
一艘の小舟が夜の海を進んで行く。互いがぶつからないようにか、敵方は提灯の明かりが灯っているから目標を見つけるのは簡単だ。もちろん、派手に動く連中が陽動という可能性も鑑み、船上の馬二は他の方角にも時折視線を配っている。が、周囲の警戒はおもに同じ舟に乗っている太蔵が担当していた。
この稼業、うまくいくといいなあ――馬二は心から祈っている。
「年寄様」「おまえは黙ってろ」
抗議とおどろきが半々の表情の若者を、瀬兵衛は厳しい顔で睨みつける。荒々しい海賊を率いる四人の島年寄のひとりであるたけにその貫禄は下手なやくざ者の親分では負けてしまいそうな迫力だった。さらに、
「こちらの仁の手並みは倅をまたたく間に取り戻してくださったことで承知済みだ、おまえの異見なんぞ聞いてねえんだよ」
と恫喝されては黙り込むしかない。
「平吉、おまえはひとっ走り行って、鐘を鳴らすように伝えてこい」
早く行け、と怒鳴られ若者は弾かれたように走り出す。
「助かります」
これでいいだろうか、という顔で自分を見る瀬兵衛に小平次は大きく顎を引いた。
五
一艘の小舟が夜の海を進んで行く。互いがぶつからないようにか、敵方は提灯の明かりが灯っているから目標を見つけるのは簡単だ。もちろん、派手に動く連中が陽動という可能性も鑑み、船上の馬二は他の方角にも時折視線を配っている。が、周囲の警戒はおもに同じ舟に乗っている太蔵が担当していた。
この稼業、うまくいくといいなあ――馬二は心から祈っている。
0
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる