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愚図で鈍間(のろま)と周囲からいじめられていたのをかばってくれただけでなく、自分の弩での遠間での狙い撃ちの天稟を見出してくれたのは小平次の父だった。
だから、馴れない江戸で多くの赤の他人に囲まれながら息苦しそうにし、暮らしに汲々としている小平次を見るのは辛かったのだ。おいら、莫迦だからことばにはできないけれど――ずっと、小平次のことを心配していた。
だから、忍び働きで生きていけるのならこんなに嬉しいことはない。
おいら、お頭のためなら死ねる――忠誠の思いは先代へのそれに比べても劣るものではない。いや、むしろ歳下の若者を思いやる気持ちからかかえって強まっているようにも思えた。
「危ねえ」突如、太蔵が叫んだ。同時に舟の漕ぎ手となっている島民を引きずり倒した。
とたん、夜気が間近に落雷を受けたように揺れる。
てっぽう――馬二は小さな眼(まなこ)に精一杯の緊張を露わにした。
「ったく、当世の破落戸ってのは性質(たち)が悪(わり)い」
と独語しながらも、太蔵が「右端の船、一番前の奴だ」と指示を出す。
視野の狭まりがちな遠間を狙う者に変わり、広い視野を持つ相方が標的や周囲の状況を知らせる、後世でいう観測手の役目を太蔵はになっているのだ。
とたん、馬二は標的の男の周辺部に目の焦点を合わせた。このほうが暗いなかでは相手を視野にとらえやすい。一目で約一町の距離を図れるようになる訓練を経ているため、性格に対象との距離を把握できた。
だから、馴れない江戸で多くの赤の他人に囲まれながら息苦しそうにし、暮らしに汲々としている小平次を見るのは辛かったのだ。おいら、莫迦だからことばにはできないけれど――ずっと、小平次のことを心配していた。
だから、忍び働きで生きていけるのならこんなに嬉しいことはない。
おいら、お頭のためなら死ねる――忠誠の思いは先代へのそれに比べても劣るものではない。いや、むしろ歳下の若者を思いやる気持ちからかかえって強まっているようにも思えた。
「危ねえ」突如、太蔵が叫んだ。同時に舟の漕ぎ手となっている島民を引きずり倒した。
とたん、夜気が間近に落雷を受けたように揺れる。
てっぽう――馬二は小さな眼(まなこ)に精一杯の緊張を露わにした。
「ったく、当世の破落戸ってのは性質(たち)が悪(わり)い」
と独語しながらも、太蔵が「右端の船、一番前の奴だ」と指示を出す。
視野の狭まりがちな遠間を狙う者に変わり、広い視野を持つ相方が標的や周囲の状況を知らせる、後世でいう観測手の役目を太蔵はになっているのだ。
とたん、馬二は標的の男の周辺部に目の焦点を合わせた。このほうが暗いなかでは相手を視野にとらえやすい。一目で約一町の距離を図れるようになる訓練を経ているため、性格に対象との距離を把握できた。
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