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「あい」馬二は修羅場にいるというのに口もとをゆるませながらつがえ終えた弩の狙いをいわれた通りの人物につけた。
しかし、馬二が矢を放つ前に敵方の船上で騒ぎがまた持ち上がる。
狐隠れ、水上の漂流物に身を隠す隠形術で接近した小平次が距離が詰まったところで船縁につかまるや躍り上がったのだ。間髪いれずに銀光がひらめく。強風に見舞われた紙細工のようにあっけなく人影が立てつづけに倒れた。
そうしているうちに、急に風が強くなりだす。それだけでなく雨も降り出した。
「いけねえ、これは野分(のわき)(台風)の雨風だぜ」
舟の漕ぎ手の中年の男が表情を険しくするのが馬二の視界に入る。後世においても、漁師は一刻半のあいだならば気象予報士よりも予報を的中させる、決して軽んじることのできない言葉だ。
一方、八艘跳びとはいかないが、三艘、四艘飛びでもって小平次は船上を跳躍してまわり暴れる。
が、小平次が宙にいる瞬間、避けようがないところをひとりの破落戸が槍で狙うのが馬二には見えた。口もとを引き結び、馬二はくだんの相手に狙いを移す。狙いをつける瞬間に止めた息がふだんより長く思えた。
発射、妙に矢の飛翔が遅く感じられた。が、見事にその男の胸に矢は突き立つ。お頭の初陣は“じゃま”させねえさ――。
しかし、馬二が矢を放つ前に敵方の船上で騒ぎがまた持ち上がる。
狐隠れ、水上の漂流物に身を隠す隠形術で接近した小平次が距離が詰まったところで船縁につかまるや躍り上がったのだ。間髪いれずに銀光がひらめく。強風に見舞われた紙細工のようにあっけなく人影が立てつづけに倒れた。
そうしているうちに、急に風が強くなりだす。それだけでなく雨も降り出した。
「いけねえ、これは野分(のわき)(台風)の雨風だぜ」
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一方、八艘跳びとはいかないが、三艘、四艘飛びでもって小平次は船上を跳躍してまわり暴れる。
が、小平次が宙にいる瞬間、避けようがないところをひとりの破落戸が槍で狙うのが馬二には見えた。口もとを引き結び、馬二はくだんの相手に狙いを移す。狙いをつける瞬間に止めた息がふだんより長く思えた。
発射、妙に矢の飛翔が遅く感じられた。が、見事にその男の胸に矢は突き立つ。お頭の初陣は“じゃま”させねえさ――。
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