忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「おまえさんらに落ち度はない。あるとすれば、海賊の矜持を蛮勇と取り違えた島(うち)の連中にこそある」
 だが、とここで彼は口調を変える。
「頼みたいことがある」「男衆をとり戻す儀ですね?」
 小平次は相手の言葉を先回りした。吟がおらず、自分が他人とふつうに話しているのが不思議だ。
「そうだ。申し訳ないが、見捨ておくわけにもいかない」
「承知しています。元より、我らの引き受けた仕事は“島を守ること”。この“島”にも当然、住人も含まれましょう。されば、否やはありません」
 小平次の言葉に、瀬兵衛は安堵の表情を浮かべる。
 ついすこし前に落ち込んだばかりだが、小平次は四肢にまで気力が満ちるのを感じた。
 誰かを救える、余人のためになれる、この感覚はきっと家中の忍びであったときには実感することのなかったものだろう。それが萎えかけた心に活力を与えていた。
「むろん、俺たちも手をこまねいているつもりはない。拐された子供を取り戻すのは無理だが、得物を持って戦うことはできる」
「なれば、村上海賊の心意気を見せていただきましょう」
 瀬兵衛の申し出に小平次も大きく顎を引く。
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