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七
翌日の明け方、小平次たちは再び舟に揺られていた。既に台風の本体は通り過ぎているが、相変わらず波は高い。雲が陽光をさえぎるせいで余計に景色は暗鬱なものとなっていた。
が、これこそが小平次たちにとっては天佑となる。
まさか、こんなときに、それも破落戸たちの陣取る島にもどってくるとは相手は考えない。彼らを操る忍びは警戒しているだろうが、やくざ者たちはそれを真剣に取り合わないだろう。
と思ったが、予想は裏切られた。数艘の船が海上において小平次たちを迎える。
「あれは」と小平次が乗る舟をあやつる瀬兵衛が愕然となり声をもらすのが聞こえた。
「昨日、敵を追っていった連中だよ」
吟の補足の言葉で小平次たちもすこし遅れて事態を理解する。
返り忠した者がいたか――小平次は眉間にしわを刻んだ。が、同時に納得もいった。
島年寄の息子、幸太をあざやかに拐した件といい、島の地理などの内情をある程度知っていないと逃走路の確保などは滞りなくはいかない。となれば、内通者がいると見たほうが自然だった。
「瀬兵衛、敵もろとも倒して構わないですね」「構わねえ、むしろ懲らしめずにすませられるか」
小平次の確認に、瀬兵衛は語気を荒げる。
双方の距離が三町にちぢんだところで馬二が弩を射始めた。後世でいう有効射程でいえば弩は鉄砲にも勝る得物だ。
舟を漕ぐ者に狙いをつけて放たれた矢が一瞬で宙を駆けて突き立つ。
肩口を射られた者に代わって乗り合わせた内通した島民がすばやく交代するが、陣形が崩れることは防げなかった。
他方、一隻の舟に乗った太蔵もまた毒宝禄火を放って敵勢を苦しめようとする。
翌日の明け方、小平次たちは再び舟に揺られていた。既に台風の本体は通り過ぎているが、相変わらず波は高い。雲が陽光をさえぎるせいで余計に景色は暗鬱なものとなっていた。
が、これこそが小平次たちにとっては天佑となる。
まさか、こんなときに、それも破落戸たちの陣取る島にもどってくるとは相手は考えない。彼らを操る忍びは警戒しているだろうが、やくざ者たちはそれを真剣に取り合わないだろう。
と思ったが、予想は裏切られた。数艘の船が海上において小平次たちを迎える。
「あれは」と小平次が乗る舟をあやつる瀬兵衛が愕然となり声をもらすのが聞こえた。
「昨日、敵を追っていった連中だよ」
吟の補足の言葉で小平次たちもすこし遅れて事態を理解する。
返り忠した者がいたか――小平次は眉間にしわを刻んだ。が、同時に納得もいった。
島年寄の息子、幸太をあざやかに拐した件といい、島の地理などの内情をある程度知っていないと逃走路の確保などは滞りなくはいかない。となれば、内通者がいると見たほうが自然だった。
「瀬兵衛、敵もろとも倒して構わないですね」「構わねえ、むしろ懲らしめずにすませられるか」
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双方の距離が三町にちぢんだところで馬二が弩を射始めた。後世でいう有効射程でいえば弩は鉄砲にも勝る得物だ。
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