忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 しかも、
「どうした、小僧」
 先ほどの威勢はどうした、と敵は嘲笑を浴びせてくる。
「うぬこそよいのか? もはや、勝敗は決しているが」
「破落戸などいくらでも都合がつく」
 小平次の問いかけに敵の忍びは鼻を鳴らした。
 周囲ではやくざ者の大半が骸と化しているが関係ないというのだ。
 やはり、逃してはならない――小平次はその思いを強くする。すでに島民から犠牲が出ているのだ。
 二度も三度も似た事態が繰り返せばたとえ最終的に勝利をおさめたとしても小平次の負けだ。
 そこで小平次は仕込み杖の柄を右の片手での構えに変える。
「鹿島の太刀には片手での構えの多用があると聞くが、香取にもつたわっておるのか?」
「そうだすればいかがした」
「片手での構えは、大刀行きの範囲を広げるのが本義であろう。軍立場(いくさたてば)での介者剣術で、多勢を相手にした折での工夫だ。そんなもの、今持ち出してどうする」
 またも敵は小平次を嘲笑った。その間に小平次は肉薄している。目付の結果を受けての行動だ。呼吸の“間”を盗んだのだ。
 が、相手もまたそれを読んでいた。一閃は受け流される。今度こそ必殺の一撃の気配があった。刹那、敵の腹に脇差による刺突が深々と突き刺さる。
「なに」と相手は瞠目した。
「手前の得意とするのは両刀使い。今までは隠していました」
「忍び、としたことが、謀られた、か」
 小平次の言葉に、敵は悔しげな声をもらしその場にゆっくりとくずおれる。
 それから四半刻も経たずして、島の奪還は成った。
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