75 / 141
75
しおりを挟む
「いやあ、お頭。塩飽の仁らの説得といい、見事なもんだよ」
甲板に吟が姿を現し、称賛の言葉を投げかけた。その身なりは一端(いっぱし)の商人のもので、どこからどう見ても侍の気配は見受けられない。恰好だけでなく、腰の低さなどちょっとした所作に商売人の風情たただよった。
「そうでしょう、軒猿や風魔忍者も顔負けの活躍でしょう」
気が大きくなってつい冗談が口をついて出る。
「風魔忍者じゃ、公儀の手下に討ち取られちまいますよ」
「これは、しまった」
吟の軽口に小平次は盆の首に手をやった。
「手前がいないあいだ、祖父上はどうでした?」
「やっぱり、お頭がいないと不安なのかねえ。怒りっぽくなって難儀したよ」
口調を変えて問うた小平次に、吟もまた表情をすこし曇らせる。
「それは手間をかけました」
「なになに、先代、御隠居には世話になってるからね」
小平次は声を沈ませる。吟は明るい声音でそれに応じた。
と、甲板に豊が姿を現した。とたん、吟が意味ありげな視線をこちらに向けるや入れ代わりに姿を消す。結果、豊とふたりきりになって小平次は動悸をおぼえた。
が、豊から発せられた言葉はけっして友好的なものではない。
「調子に乗らないでください」
注意をうながすというより完全な叱責だった。
甲板に吟が姿を現し、称賛の言葉を投げかけた。その身なりは一端(いっぱし)の商人のもので、どこからどう見ても侍の気配は見受けられない。恰好だけでなく、腰の低さなどちょっとした所作に商売人の風情たただよった。
「そうでしょう、軒猿や風魔忍者も顔負けの活躍でしょう」
気が大きくなってつい冗談が口をついて出る。
「風魔忍者じゃ、公儀の手下に討ち取られちまいますよ」
「これは、しまった」
吟の軽口に小平次は盆の首に手をやった。
「手前がいないあいだ、祖父上はどうでした?」
「やっぱり、お頭がいないと不安なのかねえ。怒りっぽくなって難儀したよ」
口調を変えて問うた小平次に、吟もまた表情をすこし曇らせる。
「それは手間をかけました」
「なになに、先代、御隠居には世話になってるからね」
小平次は声を沈ませる。吟は明るい声音でそれに応じた。
と、甲板に豊が姿を現した。とたん、吟が意味ありげな視線をこちらに向けるや入れ代わりに姿を消す。結果、豊とふたりきりになって小平次は動悸をおぼえた。
が、豊から発せられた言葉はけっして友好的なものではない。
「調子に乗らないでください」
注意をうながすというより完全な叱責だった。
0
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる