忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「忍びの稼業は、時に人の命を奪い、時に人を死なせてしまうものでしょう」
「むろん、油断してはいません」
　突然の物言いに小平次は少しへそを曲げながら応じる。だが、
「そういうことではありません」
　かえって豊の口調はきついものになった。
「軽薄な態度で忍び働きをなさるのは考えものだともうしているのです」
　小平次は、忍びでない者に忍び働きのなにがわかるというのですか、と抗弁しようと口を開きかけた。しかし、次の豊の言葉を聞いてそれは叶わなくなる。
「わたしの父は忍びに殺されました。仔細があってのことでしょう。されど、父を奪われた者にしてみれば理不尽であることに変わりはありません」
　豊のまなざしが不安定に揺れた。
　小平次は声を失いながらも、父なら、と考えかける。
「孫作さんは養父です」
　こちらの心中を見透かした豊が先回りして告げた。そして、こちらに背を向けて船内に姿を消す。
　ひとり、小平次は甲板へと残され立ち尽くした。
　次第に次第に翳りを帯びてきた気持ちが呼び込んだように、夜には天候が崩れた。
　だが、人買いの船を装っているのだ、乗っている者をすべておろす訳にはいかない。となれば、自分たちも安全な場所に避難するわけにはいかなかった。
　小平次たちは揺れに揺れる船の上で一夜を明かすことになる。
　危険ではあるが、船のなかで吐くわけにもいかず小平次たちは入れ代わり立ち代り“吐き”に出た。