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一方で、祖父が吟を海に投げた相手を体当たりで海原に叩き落すの様が視界に入るが、敵の災難をよろこぶ余裕などあろうはずもない。
しかし、波は高く継続して呼吸することが許されない。しかも、濡れた衣装が重石となって体を海中に引き込んだ。着物を着たまま泳ぐ鍛練はしていたが、嵐のさなかにある海でなどという想定のもとではない。
思うように体が動かなかった。もがけばもがくほど、見えない綱が体に絡まって体を底に向かって沈めようとしているような錯覚に襲われた。
そうしているうちに呼吸ができずに意識がかすれていく。
脳裏に豊の顔が浮かんだ。『軽薄な態度で忍び働きをなさるのは考えものだともうしているのです』。その声が頭のなかによみがえった。もしかすると、これはその罰なのだろうか――豊を知らぬうちに傷つけていたことへの後ろ暗さがそんなことを思わせた。
そして、水面に体が呑まれると同時に意識もまた闇に呑み込まれる。
六
「なぜ、兄にできることがそなたにはできないのです」
幼い小平次のほおで痛みが強烈に爆(は)ぜた。
その原因は、母にほおを張られたことにある。その彼女は、目を吊り上げてこちらを睨みつけていた。到底、今の一撃では気が済んでいないようすだ。殺意の片鱗すら陽炎のごとくぼんやりとだがにじむ。
しかし、波は高く継続して呼吸することが許されない。しかも、濡れた衣装が重石となって体を海中に引き込んだ。着物を着たまま泳ぐ鍛練はしていたが、嵐のさなかにある海でなどという想定のもとではない。
思うように体が動かなかった。もがけばもがくほど、見えない綱が体に絡まって体を底に向かって沈めようとしているような錯覚に襲われた。
そうしているうちに呼吸ができずに意識がかすれていく。
脳裏に豊の顔が浮かんだ。『軽薄な態度で忍び働きをなさるのは考えものだともうしているのです』。その声が頭のなかによみがえった。もしかすると、これはその罰なのだろうか――豊を知らぬうちに傷つけていたことへの後ろ暗さがそんなことを思わせた。
そして、水面に体が呑まれると同時に意識もまた闇に呑み込まれる。
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幼い小平次のほおで痛みが強烈に爆(は)ぜた。
その原因は、母にほおを張られたことにある。その彼女は、目を吊り上げてこちらを睨みつけていた。到底、今の一撃では気が済んでいないようすだ。殺意の片鱗すら陽炎のごとくぼんやりとだがにじむ。
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