忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 思わぬ形でそれが崩れた。浜をあさっての方角から人影、忍び装束が駆けてきたのだ。
 肥満体という忍びに不似合なその輪郭に、小平次の仲間に該当する者はいない。近々で目の当たりにしたのは、船上で敵としてだ。
 加勢、と小平次は歯噛みしたい思いを抱く。
「徳兵衛、手出しは無用」
 庄右衛門が煩わしげに怒鳴った。
「おぬしなぁ、拙者は手下ではないぞ。口の利き方というものがあろう」
 のんびりとした口調で言いながら、対峙する小平次たちと三間ほどの距離にまで来たところで手に構えていた得物を躊躇なくふるった。鎖分銅の分銅が、地面に横たわる吟に向かって殺到する。
 分銅は吟の頭を砕いた。かに思えたが、紙一重で吟は身体を転がしてこれを避ける。
「うぬ」と叫びながら小平次は木剣の向きを変えて牽制しようとした。
 とたん、銀光が襲いくる。「よそ見をするな、お前の相手は俺だ」凶暴な顔で庄右衛門が雄叫びをあげた。
 刹那、その声が呻き声に変わる。とっさに、吟が砂をつかんで目もとに投げつけたのだ。
「よくやりました」小平次は心から称賛しながら、もうひとりの忍びへと肉薄する。
 が、途中で阻まれた。機敏に動いた相手が鎖分銅で攻撃してきたのだ。
 小平次は焦慮に背中を焼かれる。手早く片づけなければ庄右衛門が回復する、そうなれば今度こそ吟か自分が死ぬことになるはずだ。
 二度、三度と木剣の剣尖を送る。だが、時間さえ稼げばいい相手は薄ら笑いを目もとに刷いて攻撃を避けた。
「俺の獲物だ」
 叫びながら、想像していたより早く庄右衛門が小平次に斬撃を送ってくる。涙を流しながらの表情は執念の一語に尽きる、鬼気迫るものだ。このままでは――小平次の肌を焼け付かせる焦燥がいよいよ激しくなる。
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