忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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さっそく仕掛けた企みとも呼べないような手、相手の心を抉る嘲笑に引っかかってあっけなくひとりは命を絶った。
 さて、残りはどう調理してやろうかと考えているうちに、仕事で忍びの頭領の息子たちと衝突したのだ。
 天啓、とすら思える。船の上でその祖父に体当たりを喰らって荒れた海に落ちたのは誤算だったが、同じ島に頭領の息子と朋輩とともに流れついたのは運命が味方しているとしか思えない。
 体調は万全ではないが、一時的にせよ逃げるつもりなどさらさら起きなかった。

 隙をうかがい、ついには深更になって居眠りを始めた小平次に庄右衛門は襲いかかったのだ。

   八

 吟の鼻先をかすめて喉首に刃が埋まった。その寸前で、小平次は木剣の一撃で大刀を弾き飛ばす。刃が欠ける心配などいらない、渾身の力を込めた。が、敵もさるものだ。こちらの一撃に逆らわないことで、刀身が損なわれるのを防いだ。
すべては瞬く間に起こった。小平次は木剣でもって小手を狙う。庄右衛門は不安定な足もとを物ともせず滑るようにななめに逃れた。かと思いきや、小手を狙って剣を一閃する。これを木剣でもって小平次は迎え撃った。互いに肌に得物がふれるほどの危うい位置で大刀と木剣が動いて制止する。すべては瞬く間に起こった。
 実力は伯仲している。下段からの小手を狙う一閃を小平次は躱し、逆に右小手を狙った。が、体を開いてこれを避けた庄右衛門は腹への刺突をくり出してくる。小平次も体を開いて回避、首を猛打しようとした。
 だが、小平次の一撃は空を切る。互いの位置を入れ替えながら、幾度も刃風が唸った。
 いつ果てるともしれない、そんな感想すら小平次の頭の片隅に浮かぶ。
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