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庄右衛門が攻撃している間にもうひとりが吟を攻撃しようとした。とたん、くだんの忍びの肩に矢が突き立つ。
「なんだと」苦痛の声に混じって驚愕の叫びがその口から漏れた。
新たな事態を前に庄右衛門の攻撃も止まる。小平次とそろって矢の飛来した方向に目を向けた。洋上、一艘の舟が近づいてきていた。その上には船頭も含めて三人の人影が見受けられる。そのうち、ふたりは忍び装束だ。さらに、忍びのうちひとりは弩を手にしていた。
「退(ひ)くぞ、庄右衛門」
次の瞬間、肥満体の忍びが不満が露わな声で宣言する。
一拍のあいだ、庄右衛門はその場を動こうとしなかった。が、やがて遠ざかる仲間の背中に彼はつづく。
小平次はそれをおとなしく見送った。敵を逃がす無念さなどほとんどなく、仲間を守り通せた安堵が胸を満たしている。亀太郎には申し訳ありませんが――仇を討つとしても今日は無理だ。とてもそんな気力は湧かない。
● ● ●
二日後、伊予灘において一隻の船が沈んだ。突如として爆音がとどろき、破片をまき散らしながら船体が火を噴いた。
当然、最寄の島の住民は飛び上がり、次いでいったいなにが起こったのかと外へと飛び出す。深更のことだが、そんなことが埒外になるほどの轟音が聞こえたのだ。そして、島民たちは海岸において前記の光景を目の当たりにすることになった。
その光景を違う場所から目にしている者たちの姿がある。小平次たちだ。吟こそ欠いているが、他の面子は揃っていた。
「なんだと」苦痛の声に混じって驚愕の叫びがその口から漏れた。
新たな事態を前に庄右衛門の攻撃も止まる。小平次とそろって矢の飛来した方向に目を向けた。洋上、一艘の舟が近づいてきていた。その上には船頭も含めて三人の人影が見受けられる。そのうち、ふたりは忍び装束だ。さらに、忍びのうちひとりは弩を手にしていた。
「退(ひ)くぞ、庄右衛門」
次の瞬間、肥満体の忍びが不満が露わな声で宣言する。
一拍のあいだ、庄右衛門はその場を動こうとしなかった。が、やがて遠ざかる仲間の背中に彼はつづく。
小平次はそれをおとなしく見送った。敵を逃がす無念さなどほとんどなく、仲間を守り通せた安堵が胸を満たしている。亀太郎には申し訳ありませんが――仇を討つとしても今日は無理だ。とてもそんな気力は湧かない。
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二日後、伊予灘において一隻の船が沈んだ。突如として爆音がとどろき、破片をまき散らしながら船体が火を噴いた。
当然、最寄の島の住民は飛び上がり、次いでいったいなにが起こったのかと外へと飛び出す。深更のことだが、そんなことが埒外になるほどの轟音が聞こえたのだ。そして、島民たちは海岸において前記の光景を目の当たりにすることになった。
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