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小平次と太蔵は最初からそこにいた訳ではない。船を爆発させる細工を、火薬と油と火縄で施した上で脱出してきたのだ。沈めたのは、塩飽島の者たちから森藩が都合した金子でもって譲り受けた船だった。
水軍の“魂”の船を沈めるのは忍びないが、致し方ない――こうしなければ計略は完成しない。
元々、人買いの船が失火から沈没した、という筋書きに乗っ取った企みがあった。しかし、御庭番たちに存在を察知されたため、急遽“忍び衆がことの露見を恐れて口封じを図った”という意図のもとにおこなったというものに変更した。そのために、土葬の地域から死体を掻き集め腐りかけているのを誤魔化すためにあらかじめ焼いておいて船内に積み込んだ。
いずれ、“焼死体”が周辺の浜に流れつくことになるはずだ。これででっち上げの“人買い”は一層の真実味を帯びるはずだ。
他方で、森藩においては家老の赤橋惣内が隠居することになっていた。これは家中に流れる噂においては『御家騒動』の責任を取らされた、ということになっている。これもむろん、真実ではなく小平次たちが流させたものだ。家老は人買いの商いにも絡んでいた、という筋書きになっている。
豊後森久留島家のご家老には申し訳ないが――案外、すんなりと提案を受け入れてくれたよかった。これですべては丸く収まるはずだ。
御庭番の目は完全に、人買い、御家騒動の件に引きつけられるだろう。
しかしいくら調べたところで全部が“偽り”のため証拠など出てくるはずもない。これで御庭番は余計に躍起になるはずだ。
他方、もうひとつの筋書きも彼らがふたたび豊後森に目を向ける頃には完成しているはずだ。神社を城に作り変える、という話は藩主の妾が豪華な茶室を欲したという話にすりかわり国許にまとこしやかに流れる。
「上手くいきそうですね」
ふいに、近くにいた豊が声をかけてきた。
水軍の“魂”の船を沈めるのは忍びないが、致し方ない――こうしなければ計略は完成しない。
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いずれ、“焼死体”が周辺の浜に流れつくことになるはずだ。これででっち上げの“人買い”は一層の真実味を帯びるはずだ。
他方で、森藩においては家老の赤橋惣内が隠居することになっていた。これは家中に流れる噂においては『御家騒動』の責任を取らされた、ということになっている。これもむろん、真実ではなく小平次たちが流させたものだ。家老は人買いの商いにも絡んでいた、という筋書きになっている。
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御庭番の目は完全に、人買い、御家騒動の件に引きつけられるだろう。
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