忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　一閃を受け、もう一方の得物をふるう。それを相手が大刀で受け、今度は小刀をくり出した。小手を狙っても腹を狙っても、面を狙っても受けては攻撃する動きがくり返された。お互いに命を奪い合おうとしているのに、それは一種の舞踊を思わせた。
　が、ふいにそれに幕切れが訪れる。
　正面からぶつかりあった大刀。その一閃が、確かに相手をとらえたと思った。
　しかし、実際に剣尖を受けたのは小平次だけだ。
　小手を浅くではあるが裂かれる。
　なんとか痛みをこらえ顔をしかめながら下がった。
　今のは――小平次は冷や汗を背中にかきながら推量を働かせる。
「一刀流の切り落としだ。朋輩に流儀の遣い手がおってな、習い覚えたのだ。これが家中の狭い世間で生きていたうぬと俺の差だ」
　嘲笑する庄右衛門をにらみながら、小平次は大刀をあえて納刀した。重みで痛みを大きくし、かえって不利となると判断したからだ。
　小平次には諦める肚づもりはない。猛然と打ちかかってくるのに対し、脇差でもって機敏に応じた。攻撃を幾度も受け、反撃の機を狙う。だが、庄右衛門の攻撃は瀑布のように途切れない。
　受ける、受ける、躱す、受ける、受ける。怒涛の勢いで二条の攻防が走った。
　刹那、その流れが止まる。ふいに小平次が懐に片腕を突っ込むや、剣光に向かって拳を打ち込んだのだ。
　強烈な衝撃に傷が火に焼かれたような痛みを訴える。