忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 だが、その甲斐あって庄右衛門の大刀の刃が折れ飛んだ。原因は、小平次が拳に装着した暗器にある。鉄拳と呼ばれる、拳に装着する矩形の鉄の塊を懐に忍ばせていたのだ。わざと反撃を控えることで相手に無意識のうちに、もはや得物は脇差のみと思い込ませた。
 次の瞬間、今度は小平次の脇差の刃がへし折れる。庄右衛門の脇差の一撃を受けたせいだ。激しい攻防で刃が欠け罅が入っていたために脆くなっていた。
それでも、小平次は強引は動きを止めない。一瞬で口をすぼめるや、息を強く吐き出す。
 刹那、その口に含んでいた針が飛んだ、先ほど汗を拭う動きに紛れさせて口に運んでいた。仕込み杖を使っていたことからもわかるように、小平次は白兵戦を得意としながらも、通常の武士にとっては汚いと感じられる戦法を得意とするのだ。
 口角をあげた庄右衛門はあっけなく首を横にふって攻撃を躱す。
「浅はか――」と彼が言いかけた瞬間、小平次は口笛を吹いた。
 怪訝な表情を浮かべた相手の顔が一気に驚愕に染まる。
 突如として複数の犬が、空き地に向かって殺到してきたからだ。その先頭にいるのは吉足だ。これぞ、獣遁の術の奥義“旗頭”だ。野犬の宰領となることで、飼い犬以外の犬すらも“軍兵(ぐんぴょう)”として使役する。
 主を失った吉足だが、小平次を主と思い定めたらしくこちらの言うことを聞くようになっていた。
 瞬く間にせまってきた犬たちが、庄右衛門へと飛びかかる。
「お、おのれ」
 悪鬼の形相になって脇差でもって防ごうとした。
 一匹、二匹ならそれで防げる。が、それ以上となると不可能だ。
 腕を、脚に犬が牙を立てる。身動きが鈍った瞬間、紫電の速度で小平次は猛打を相手のこめかみに叩きつけていた。
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