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この中枢で、かの後世の呼称でいう生類憐れみの令が発せられたのだ。ただ誤解されているが、生類憐れみの令という一つの法があった訳ではない。無数に発布された一連の法を総称して生類憐れみの令と呼んでいる。この法は病馬の遺棄を禁じることから始まり、犬を殺害したものを遠流といったふうに発展していった。光脩に言わせれば、焼かなくていい余計なお世話を焼きやがって、ということになる。
冷静に考えてみれば大老が関わっているのだ、いち町人にしか過ぎない光脩がおとずれたところでそうそう容易く事情が聞ける訳がない。帰るか――忙しく立ち回る人々と日々暇を持て余す自分を比べてしまって虚しくなってきた。
「暇人が多忙な人々を眺めるとは、あれか。おまえは罵られたり、痛めつけられることに快感をおぼえる性質(たち)か」
「誰が変態だ、それと手裏剣を仕舞え」
唐突に脇に現れ、今にも手裏剣を打とうとする豊に光脩は声を荒げた。
「それでは行くぞ」一方的に話を打ち切って豊はこちらに背を向けた。相手の言いなりになるのには不満を感じたが、つい相手の動きに釣られて光脩も歩き出す。それにここまで来て、収穫なしで帰るのも癪だった。
要所要所で何やら書状を見せて彼女は入城を果たし、さらに奥へと向かっていく。
やがて、複数並ぶ部屋のうちのひとつに案内された。中ノ口廊下と納戸口の間には老中、若年寄の控室が並んでいた。おいおい、本当かよ――光脩はこれからどうも自分が会うことになるらしい相手の正体を想像して尻込みする。こんな大それた相手に会おうとは考えていなかった。漠然と誰かに事情を聞きたいと思っただけで。
「くだんの陰陽師、連れて参りました」「承知した、入れ」
流れるままに連れてこられて、なにも承諾した憶えはないのだがここまで来て帰るという選択肢などあるはずもなく光脩は襖を開けた。そこには体格のいい初老とおぼしき武士が上座に座している。
冷静に考えてみれば大老が関わっているのだ、いち町人にしか過ぎない光脩がおとずれたところでそうそう容易く事情が聞ける訳がない。帰るか――忙しく立ち回る人々と日々暇を持て余す自分を比べてしまって虚しくなってきた。
「暇人が多忙な人々を眺めるとは、あれか。おまえは罵られたり、痛めつけられることに快感をおぼえる性質(たち)か」
「誰が変態だ、それと手裏剣を仕舞え」
唐突に脇に現れ、今にも手裏剣を打とうとする豊に光脩は声を荒げた。
「それでは行くぞ」一方的に話を打ち切って豊はこちらに背を向けた。相手の言いなりになるのには不満を感じたが、つい相手の動きに釣られて光脩も歩き出す。それにここまで来て、収穫なしで帰るのも癪だった。
要所要所で何やら書状を見せて彼女は入城を果たし、さらに奥へと向かっていく。
やがて、複数並ぶ部屋のうちのひとつに案内された。中ノ口廊下と納戸口の間には老中、若年寄の控室が並んでいた。おいおい、本当かよ――光脩はこれからどうも自分が会うことになるらしい相手の正体を想像して尻込みする。こんな大それた相手に会おうとは考えていなかった。漠然と誰かに事情を聞きたいと思っただけで。
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