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「老中、阿部正武だ、見知りおけ」平伏する光脩に老中は腹からひびく声で言葉をかさねた。「そなたが陰陽師、土御門光脩か」
「さようにございます」
「では、お豊からおおよそのことは聞いておろう。すべて真実だ。将軍様の命で生類を憐れむことを触れとして出しておるのも野にくだった家康様に万が一傷をつける者が出ないようにという心配りなのだ」
すべて真実――老中の言葉に光脩は絶句する。裏長屋の一室に置いてきたまぬけ面で寝ていた犬が、本当に徳川家康の魂を宿すとは信じられない。
「面をあげよ」と命じられ光脩は顔をあげた。
「信じがたい話であろう、身どももさようであった」
譜代大名にして幕府のほぼ頂きにいる人物が眉間に皺を寄せていた。
幕閣のほぼ頂点に立つ人物を前に光脩は内心緊張をおぼえていた。ただ、意地でそれを面にはあらわさない。今、自分にはそれくらいしかできない。それにしても悟らざるをえないことがあった。それは、犬の身に宿るのは間違いなく徳川家康のものだということだ。
「だが、家康様の話をくわしく聞くうちに身どもの考えは変わった。かの御仁でなければ知りえぬことをいくつも語ったのだ」
「ならば、城に留め置かれるべきではございませんか」
光脩はいぶかしく思ってたずねる。そこで、「それがな」と老中が曰くありげな口調で言葉を継いだ。
「家康様ではある。家康様ではあるが」
歯の奥に物が挟まったような物言いをする老中に光脩は眉間の皺を深くする。
「さようにございます」
「では、お豊からおおよそのことは聞いておろう。すべて真実だ。将軍様の命で生類を憐れむことを触れとして出しておるのも野にくだった家康様に万が一傷をつける者が出ないようにという心配りなのだ」
すべて真実――老中の言葉に光脩は絶句する。裏長屋の一室に置いてきたまぬけ面で寝ていた犬が、本当に徳川家康の魂を宿すとは信じられない。
「面をあげよ」と命じられ光脩は顔をあげた。
「信じがたい話であろう、身どももさようであった」
譜代大名にして幕府のほぼ頂きにいる人物が眉間に皺を寄せていた。
幕閣のほぼ頂点に立つ人物を前に光脩は内心緊張をおぼえていた。ただ、意地でそれを面にはあらわさない。今、自分にはそれくらいしかできない。それにしても悟らざるをえないことがあった。それは、犬の身に宿るのは間違いなく徳川家康のものだということだ。
「だが、家康様の話をくわしく聞くうちに身どもの考えは変わった。かの御仁でなければ知りえぬことをいくつも語ったのだ」
「ならば、城に留め置かれるべきではございませんか」
光脩はいぶかしく思ってたずねる。そこで、「それがな」と老中が曰くありげな口調で言葉を継いだ。
「家康様ではある。家康様ではあるが」
歯の奥に物が挟まったような物言いをする老中に光脩は眉間の皺を深くする。
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