犬を舐めるな従えよ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「見た通り客じゃない、ちと尋ねたいことがあって顔を出した」
「なんですか、うちには反物しかありませんが」
 光脩の言葉に案の定、番頭はすげない反応を返す。彼が座る場所まで土間をぎりぎり近づいて光脩は相手を見下ろす。
 すると、しばらくして番頭は落ちつかなげなようすを見せ始めた。
 光脩も辻占いで多くの者を見ている。目の前の相手が内心は小心者であることは何となく掴んでいた。
「背中に妙な柄がある犬を拾った、あるいは見かけたという話は聞かなかったか」
「いえ、そのような話は存じませんね」
「そうか、手間をかけた」と声をかけたところでなんだか妙な雲行きになった。大店の主人らしき男が現れたのだが見るからに元気がなかった。
『おい、光脩。あの男はなんであんなに覇気がない?』
 俺が知るかよ――光脩は内心、肩をそびやかす。視線を横にやると、表で待たせていたはずの犬家康がいつ間にか店に入ってきていた。
『おい、理由を聞いてこい』
 犬家康の横柄な口調に光脩は反感をおぼえならも男のもとに向かった。言い争うのが億劫な気分なのだ。聞き込みなどという畑の違う人間がやる行為に少々疲れていた。
「おい、そこの御仁、どうしてそんなに気落ちしている」
 身なりからして大店の主人はこちらに怪訝な目を向けたが、すぐに視線を落としてため息をついた。だが、この際ならうさん臭い男が相手でも話をすれば少しは気が楽になると思ったのか案外素直に口を開いた。
「実は、とある男に金を騙し取られましてね」
「ほう、いくらだ」
「百両」
「ひゃ、ひゃく」
 額の大きさに光脩は声を上ずらせた。
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