犬を舐めるな従えよ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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『おい、光脩。我らでとり戻してやるぞ』
 光脩は不満の表情を側らにやって来ていた犬家康に向ける。
「これは町奉行所の管轄だろ」『よいから、行くのだ』
 犬家康に袴をくわえられ強制的に店の外に連れ出されしかたなく歩き出した。
「んなこといって、どこに犯人がいるのかわかるのか」『大丈夫だ』
 光脩にしれみれば問題大ありだが、犬家康は上機嫌だった。
「わかった、わかったから袴を噛むな」『ふん、最初から承知しておればよいのだ』
 小憎たらしい犬家康の発言に光脩は鼻の頭にしわを寄せた。
「にしても、どうやって探すんだよ」『匂いだよ』
 匂い、と光脩は怪訝な声を出す。
『わしは犬だ、鼻の働きには自信がある。既に娘の匂いからそれらしき“男”のものを嗅ぎとっておる』「ご立派なことで」
 光脩はぞんざいな口調で応じる。
『そうであろう、そうであろう』
 だが、それに気づかず犬家康は誇らしげな声を出した。
 ただ、犬家康は言ったほどの働きをしない。彼が匂いを見失ったせいで、大店の娘がひいきにしている紅の店、簪の店、帯の店などを順繰りに聞き込みしてまわることになったのだ。
「ど頭(たま)かち割るぞ、この駄犬」
 いや、こんなはずでは、と犬家康の申し開きの声も弱々しかった。
 が、往来の中で急に犬家康は体を緊張させる。
『匂う、匂うぞ。風の向きが変わって匂いがただよってきた』
「今度こそ本当だろうな。今度、はずれだったらお前を捨てて帰るからな」
『任せろ、今度こそ自信がある』
 犬家康の言葉に、どこまで信用できたものだか、と光脩は心のなかでつぶやいた。
 とにかく、ふたりは往来をはずれて町家のあるあたりへと近づいていく。
 すると、表の通りに面する建物のひとつの前で犬家康が足を止めた。
『ここだ、間違いない』
「間違いないって言われてもなあ」
 光脩は建物を見上げて曖昧な声を漏らす。視線の先にあるのはどう見ても廃屋だ。
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