忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「すいません、伊留満(イルマン)。少し、変わった子でして」
「そのようですね」
 申し訳無さそうにいうアルメイダにロレンソは苦笑で応じる。そして、
「ところで、京にはどのようなご用件でまいられたのです」
 声を改めたずねた。
 アルメイダの人柄にはめずらしく返答に少し間が空く。
「実は、重大な任務を帯びてまいったのです」
 次の彼が発したせりふは先ほどとは一転し、真剣極まりないものだった。

 しかし、ロレンソはその中身を聞かされることなく「次郎丸に京を案内していただけないでしょうか」と告げられた。
 事情があるのだろう、ロレンソはあえてそれ以上は追及しない。
 彼にしたところで人に知って欲しくないことがある身であり、厄介事の気配は好奇心の働きを阻害した。
 そういうわけでロレンソは次郎丸を連れて京を練り歩くことになった。
 ただ、切支丹として寺社仏閣を見てまわることはできない。
 となると向かう先も限られてくる。
 子どもが見て楽しいかはわからぬが――ロレンソは内裏を目指すことにした。打ち続く戦乱であちこちが破れみすぼらしくなってはいるがそれでも日の本の中心、主上のおわす場所だ。
 安直だがとっさにほかに行くあてもなく、投宿先をあとにしたロレンソは次郎丸を連れて道を進んだ。
 そしてすぐ、こちらの手を取る者が現われる。
 むろん、次郎丸だ。
「目、見えていないのでしょう。それがしの手をにぎってください」
 出会い頭の暴挙の嘘のような気づかいを見せた。
 自分よりも小さな手がふれている感触は不思議なものだ。
 温かい――それが素直な感想だった。
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