忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 周囲では、複数の兄妹たちがそれぞれ組みになって同じ修行にのぞんでいた。
 まだ忍びとしてつとめに出ていない一〇代前半から幼年の子供たちが真剣な表情で互いを猛然と殴っている。
 しかし、それは小七郎にとっては日常の風景だ。
 武士の子なら太刀打ちの業を鍛えているだろうが、地下であればこういう危険な真似はみじんもおこなっていないという。
 なんという不用意な――それが小七郎の思いだ。
 戦国乱世といういつ危難が降りかかるかわからぬ世情においてまったく戦いに備えないなど信じられない。
 殺してくれといっているようなものではないか――。
 兄妹のなかでも小七郎の修行は飛びぬけて進んでいる。まだ実戦に出ていない子供のなかではまず間違いなく一番だ。
 だから、とりとめもないことを考えていても呼吸法をしくじることもない。
 また、
 あの音は――。
 兄妹のなかで一番にその音に気づく余裕があった。
 なにかが近くに近づいてきている。その物音は“重い”。甲冑を着た人間や鹿でも、あんな重量はそなえていないはずだ。
「兄者、なにかが近づいている」
「なに」
 小七郎が手を止めて視線で方向を示すと、孫六も修行を中断してそちらへと目を向けた。
 同時に、家屋から大人が姿を現す。父だ。敵に捕まって拷問を受け、片目、片腕を失いもはや忍びしては使い物にならなくなった、一族のお荷物。その憂さを晴らすつもりか、己のような目に遭わせぬためか小七郎には判断できないが、とにかく父は子供たちに対して厳しかった。
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