忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 だが、小七郎にはどちらでもよい。どっちであったとしてもなにかが変わるわけではない。
 父も常々、「忍びに情はいらぬ」と口にしている、それにしたがうだけだ。
 ほかの兄妹たちも手を止めて近づいてくる音へと視線を向けた。民家に隣接する田畑の向こう、森のなかから巨影が姿を現す。
 熊だ、小七郎は圧倒される思いで胸のうちでつぶやいた。
 漆黒の毛、見ているだけでその重みが伝わってくるような巨体、つぶらながら苛烈な光をやどす眼(まなこ)、総身でもって人間など木っ端同然だと主張しているような猛獣が少しずつ距離を詰めてくる。
 子供たちは立ち尽くした。いくら忍びとして鍛えているといっても、実戦経験はまだない上、熊を相手にすることなど想定していない。
 そんな兄妹のなかでひとり、小七郎だけが心のうちに闘志を宿す。
 あの獣を倒せればなまなかな相手に遅れは取らない――。
 そんなことを頭のなかで考えた。
 視線を父へと向ける。どういう肚づもりでいるのかが気になった。
 彼の目線がこちらのそれと交わる。父のまなざしに子供たちを心配するような色はなかった。むしろ、この状況を楽しむような意図が見える。
「お前ら」と彼は口を開いた。濁声は弾んでいる。
「あれと倒せ」
 その言葉は、非情なせりふを告げるには簡潔に過ぎた。
 これに対し、子供たちから返事はない。
 小七郎以外の者は息を呑んでいた。莫迦な、そんなおどろきが面にあらわれている。目を剥いて父を凝視した。なかでも年長者の、孫六ですら右に同じだ。
「返辞はどうした」
 父は怒りのにじむ声で言葉をかさねる。
「お、親父」「できない」「無理だ」
 子供たちが口々にいうなか、
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