忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   第三章

   一

 尼子のために了斎が忍び働きをしたのと同じ年、夏に比べると陽射しが褪せたように感じる秋、豊後は府内の一角の屋敷において、彼はとある武士と向き合うことになっていた。これも鎮西から毛利を追い払うための一件だ。
 本当のところはこの場に居たくなかった。だが、鎮西の、ひいては切支丹全体のためだ、と説得されれば断れない。ましてや、次郎丸がその任をになっていては。
 そういった経緯の末、了斎はアルメイダとともに交渉の場に臨んでいた。相手は大内輝弘だ。大内義隆の死後、大内家を継ぐべき正当な後継者で、大内義隆の弟。高弘の長子だ。父が義隆と仲違いをしして出奔、豊後の大友氏を頼った。高弘は子の隆弘を大友義鎮、のちの宗麟にあずけたが隆弘は長じて京にのぼり将軍義輝の知遇を得てその一字をもらい輝弘と名乗った。輝弘は出雲の尼子を頼ったあと、ふたたび豊後に舞いもどって義鎮の娘を娶った。
 輝弘は大内家を再興する志がありその機会をうかがっている青年だ。
 ただし、
「毛利が大友家と干戈をまじえている今、周防はがら空き、これほどの好機はありませぬ」
「したが、毛利が兵を返せばもみ潰されることとなろう」
 腹のすわらぬ人物だ。
 輝弘は眉間にしわをよせて了斎に応じる。
 そもそも機がこれまでなかったとはいえない。それに、大友家に世話になりながらも京からもどったあとは尼子を頼り、その上で豊後にもどると腰のさだまらないふるまいをする男、性根が透けて見えようというものだ。
「そうはなりませぬ」
 今度はアルメイダが口を開く。
 それに、なにゆえに、と輝弘が怪訝な顔をした。
「能島村上家がひそかに大友の御屋形様と通じておりまする」
「なに、能島村上がか」
 アルメイダが声をひそめて告げた言葉に輝弘が声を高くする。が、すぐに自分が秘事を大声でくり返したことに気づいて体をすくめるような仕草を見せた。
 他方、了斎は周囲に細心の注意を払っていた。敵の放った細作を警戒してのことだ。
 毛利輝元に二口の戦(二正面策戦)を強いる策は秘匿されてこそ本来の効力を発揮する。露見すれば、なにか手を打たれて不発に終わる危険もあった。
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