忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 エステパンは臼杵の教会に逃れ、殉教の決意でこもった。彼に同情した多勢の切支丹武士たちが彼とともに殉教覚悟で教会にあつまり襲撃にそなえる仕儀にいたる。これに対し、カブラル神父は義統側との衝突を避けるために府内にエステパンをのがした――これには了斎が一役買った。そしてカブラルは宗麟にすがって事態の収拾を乞うた。優柔不断の宗麟にはめずらしくただちに彼は動き、義統を説得し切支丹側との衝突を回避させ、エステパンを放免して事件は落着した。
 しかし、この事件につづいてさらに深刻な田原親虎の入信騒動が持ち上がった。
 あれが、切支丹の立場を後戻りできぬほどに悪くしたのだ――木材が焼けて弾ける音、踊る火炎を見つめながら了斎は苦渋の思いで過去をふり返りつづける。
 宗麟の正室の兄、田原紹忍には嗣子がいなかったため京の公家柳原家から当時六、七歳だった子供を養子に迎えていた。それがのちの田原親虎だ。聡明で容貌もよかった親虎はその将来を期待され宗麟の娘のひとりと婚約していた。ところが、彼は切支丹になることを希望して教会に通うようになった。苛烈な性格の宗麟の正室は激怒し、彼女の兄である田原紹忍が親虎の背後にある宣教師らの殺害を企図して多数の手勢を動かし、これに対し切支丹側も教徒の武士たち、信徒らが殉教覚悟で教会にあつまり襲撃にそなえるまでに騒動は発展した。このとき、宗麟は持ち前の意思の弱さを発揮し、狩猟に出て騒ぎの渦中から逃げていた。ために緊迫の状況は二十日以上もつづく。
 あのとき、わしも死を覚悟した――了斎の思いに嘘偽りはない。
 なにしろ六カ国の太守、宗麟の重臣のひとりと正面からぶつかって無事でいられるわけがなかった。
 その後、宗麟が最終的に仲介に入ったことでなんとか事態は収拾する。さらに、宗麟は正室と離縁した。しかし、すでに国主となっている義統の実母であり、出て行ったのは宗麟のほうだったから彼女の城中でのふるまいは変わらず切支丹への圧迫も継続する。
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