忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   終章

 黒々とした、火を放った物の心根を映したような色合いの煙が空へと立ち昇っていた。大気には焦げ臭いにおいが濃くただよっている。
 焼け落ちつつあるのはひとつの神社だった。
 ただし、ここ日向の地で燃え上がっている寺社の数はひとつやふたつではない。
 境内の隅に建つ了斎の目にも、遠くで空へと伸びる黒い筋が他にも見えていた。時は天正六年、目の前の出来事は大友宗麟と息子、義統(よしむね)の下知によってなされている。
 そもそもの発端は、大友家の内紛にある。次男、親家(ちかいえ)の切支丹への入信により奈多(なだ)八幡宮の大宮司の娘である宗麟の正室がこれに激怒し、息子に翻意と棄教をせまったが親家は聞く耳を持たなかった。しかもまずいことに、親家は気性が荒く思慮が足りないがために受礼しても間もないクリスマス・イブの府内教会のミサに参加した折、降誕祭の日、町の寺院を目の当たりにするとこれを破壊させた。当然、僧侶たちの憎しみを買い、寺社と切支丹の対立をますます深刻なものにした。
 さらには宗麟の娘が京の公家に嫁していたのだが、彼女は実家の母同様、切支丹に反感を持っていた。この家に臼杵から来たエステパンという切支丹の男児が仕えていたのだが、ある日、主が少年に仏画を買ってくるように命じたところ「切支丹だからできない」と拒んだのだ。今度は宗麟の娘が寺に仏具を求めに行くように命じたところ、男児は「神(デウス)の教えに背くことはできない」といってこれも強く拒絶した。宗麟の娘は怒り、エステパンを臼杵に送り返し、母や兄、義統に男児が主命に背いたことを告げて、厳罰に処すように頼んだ。
 エステパンの所業はともかく、余の者のおこないは神(デウス)の教えに背いておった――。
 それが了斎の見解だった。
 当時の義統は実母である宗麟の正室の側について切支丹を圧迫、エステパンや武士の京都たちにも強く棄教をせまりこれを拒否する者を殺そうとした。
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