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二
翌日、在昌は礼をのべるためにアルメイダたちのもとをおとずれる。途中の足取りは前日に比べ遊山に向かうかのごとく軽かった。
こちらのあかるい表情を見て相手も察しがついたらしく、
「奥方様のお加減はよくなられたようで。その喜びよう、よほど彼女を愛されているようだ」
アルメイダはパイプの煙をただよわせながら笑顔で軽口を叩く。
「はい、お陰さまですっかりよくなりました。なんと礼をもうしあげればよいか」
「なにをおっしゃられる、迷える子羊を救うのは我らのつとめ。それに、それほどに愛している奥方様の命の礼など日本の金銀を掘りつくしても払いきれないでしょう」
すっかり恐縮する在昌を、アルメイダの人好きのする笑顔が解きほぐす。どうやら、彼は冗談好きのようだ。
「マノエルは酒はお好きですか」と、彼はいたずらっぽい顔になりたずねる。
「はあ、人並みには」
「それはいい。酒を楽しめないことは人生の大きな損失ですからね」
戸惑う在昌に対しアルメイダは部屋の隅の布袋から瓢(ふくべ)を取り出してきた。
「日本の酒の持ち運びのための容器は珍妙で面白いですね」
「わたしも仲間にいれていただきたいですな」
そこに声を弾ませてフロイスが加わる。「奇跡の出会いを祝わずに何を祝おうというのか。伊留満(イルマン)の妻を救いたもうと神に感謝をしなければなりません」と今日も感動を露わに大仰な文句を並べ立てた。切支丹の在昌がいうのもなんだが、よほど深く神(デウス)に帰依しているのだろう。
そんなフロイスの手には三つの盃がにぎられていた。少しの間姿を消していたのだが、どうやら家主にそれらを借り受けに行っていたようだ。
床に置かれた盃にアルメイダが瓢の中身をそそぐ。
とたん、在昌は目を丸くした。瞬間的に悪寒をおぼえ、ほおを硬直させる。
「血、ですか」思わず、アルメイダの顔を見やる。
翌日、在昌は礼をのべるためにアルメイダたちのもとをおとずれる。途中の足取りは前日に比べ遊山に向かうかのごとく軽かった。
こちらのあかるい表情を見て相手も察しがついたらしく、
「奥方様のお加減はよくなられたようで。その喜びよう、よほど彼女を愛されているようだ」
アルメイダはパイプの煙をただよわせながら笑顔で軽口を叩く。
「はい、お陰さまですっかりよくなりました。なんと礼をもうしあげればよいか」
「なにをおっしゃられる、迷える子羊を救うのは我らのつとめ。それに、それほどに愛している奥方様の命の礼など日本の金銀を掘りつくしても払いきれないでしょう」
すっかり恐縮する在昌を、アルメイダの人好きのする笑顔が解きほぐす。どうやら、彼は冗談好きのようだ。
「マノエルは酒はお好きですか」と、彼はいたずらっぽい顔になりたずねる。
「はあ、人並みには」
「それはいい。酒を楽しめないことは人生の大きな損失ですからね」
戸惑う在昌に対しアルメイダは部屋の隅の布袋から瓢(ふくべ)を取り出してきた。
「日本の酒の持ち運びのための容器は珍妙で面白いですね」
「わたしも仲間にいれていただきたいですな」
そこに声を弾ませてフロイスが加わる。「奇跡の出会いを祝わずに何を祝おうというのか。伊留満(イルマン)の妻を救いたもうと神に感謝をしなければなりません」と今日も感動を露わに大仰な文句を並べ立てた。切支丹の在昌がいうのもなんだが、よほど深く神(デウス)に帰依しているのだろう。
そんなフロイスの手には三つの盃がにぎられていた。少しの間姿を消していたのだが、どうやら家主にそれらを借り受けに行っていたようだ。
床に置かれた盃にアルメイダが瓢の中身をそそぐ。
とたん、在昌は目を丸くした。瞬間的に悪寒をおぼえ、ほおを硬直させる。
「血、ですか」思わず、アルメイダの顔を見やる。
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