斬奸剣、兄妹恋路の闇(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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   五

「……という出来事があったのだ」
 雄彦は、そばに控えている例の百姓、玄太(げんた)に過去にあった事件のことを語り終える。
 場所は神社の本殿の中だ。といっても、その広さは百姓の家屋と変わりのないものだ。
 その出入り口で、八重とともに膝をついて気配を殺している――鵺神詐術の下手人を捕まえるためだ。
「ってことは、今度のこともそいつの親類縁者かなにかが下手人ってことですかい?」
 玄太がまだ信じきれていない口調でたずねる。
「――かもしれぬ」
 偶然にしては出来すぎている、が証拠もないということで雄彦は断定を避けた。
(だが、どちらにしろ斬るだけだ)
 彼はそんな思いを抱く。と、そこでひとつ思い出した。
「八重、あのときは助かった。礼を云う」
 石を投げて命を救ってくれたことに対し、礼の言葉を述べていないことに気づいたのだ――あのときは必死だった上に、事件が終わったあとは父に絞られすっかり意気消沈してしまって妹の勇ましい行為を失念してしまったのだ。
「――お気になさらず。兄妹ではありませんか、兄上」
 この人はほんとに堅物だ、そんな内心があらわれた苦笑を八重は浮かべる。
「それでも、助かった」
 雄彦はそう告げながらも、口にしなかった言葉があった。
(あのときだけでなく、敵討の旅に出てずっとお前には助けられてきた……)
 もしひとりで敵討の旅をしていたのなら、途中でくじけてしまっていたかもしれない。そこまでいかなくとも、高い意欲を保ちつづけることはできなかっただろう。
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