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「わたしが京を発ってここまでかかわった者の数は少ない。そこから、島津家に伝わったとは思えない。もれたとすれば、派手に動いているお前のせいで相手の目がかかわりを持ったわたしに向いた蓋然性が高い」
責任を問うているともとれるせりふに、むめは憮然となって口を開く。
「だからといって、あたしが協力するとでも」
刹那、伊兵衛が思ってもみなかった行動に出た。むめを抱きすくめたのだ。
彼に劣らぬ業前を持っていると自負しているむめだったが、殺気がみじんもない動きに対してむめだけでなく渋川も瞠目して固まっている。
「師はわたしにとって父だった。そして、むめ。お前はわたしとって妹だった。両人とも家族だったのだ」
「な、なにを突然」
混乱したむめは弱々しく身をよじる。
「再会したとき、わたしは誤った道を進むお前を見て、ただ間違っていると拒絶しただけだった。だが、それは本当は“逃げ”ただけだ。非道をなすお前を止める自信がなかったために、かかわることを拒み“無かった”ことにしようとした」
ここで、伊兵衛は一度息を継いだ。
だが、むめは異論をはさむことができない。そして、師の姿が伊兵衛に重なって見えていた。
「そうすべきではなかった。側に寄り添い、お前と悲しみを分かち合うべきだった。すまない」
伊兵衛はそっと抱擁をとき、ふところから二つの包みを取り出した。包みをとりのぞき、彼はこちらにその中身をにぎらせる。
「これは」
「これは、お前がいなくなったあと、もしお前が帰ってきたときに仲直りの印として師が渡そうと用意していたものだ」
むめの問いかけに伊兵衛はどこか悲しげな目をして応じた。
そのまなざしにむめはハッとさせられる。
責任を問うているともとれるせりふに、むめは憮然となって口を開く。
「だからといって、あたしが協力するとでも」
刹那、伊兵衛が思ってもみなかった行動に出た。むめを抱きすくめたのだ。
彼に劣らぬ業前を持っていると自負しているむめだったが、殺気がみじんもない動きに対してむめだけでなく渋川も瞠目して固まっている。
「師はわたしにとって父だった。そして、むめ。お前はわたしとって妹だった。両人とも家族だったのだ」
「な、なにを突然」
混乱したむめは弱々しく身をよじる。
「再会したとき、わたしは誤った道を進むお前を見て、ただ間違っていると拒絶しただけだった。だが、それは本当は“逃げ”ただけだ。非道をなすお前を止める自信がなかったために、かかわることを拒み“無かった”ことにしようとした」
ここで、伊兵衛は一度息を継いだ。
だが、むめは異論をはさむことができない。そして、師の姿が伊兵衛に重なって見えていた。
「そうすべきではなかった。側に寄り添い、お前と悲しみを分かち合うべきだった。すまない」
伊兵衛はそっと抱擁をとき、ふところから二つの包みを取り出した。包みをとりのぞき、彼はこちらにその中身をにぎらせる。
「これは」
「これは、お前がいなくなったあと、もしお前が帰ってきたときに仲直りの印として師が渡そうと用意していたものだ」
むめの問いかけに伊兵衛はどこか悲しげな目をして応じた。
そのまなざしにむめはハッとさせられる。
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