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外伝 パティア・レットル
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初めて風の騎士団に認定された女性、リッサ・ソワールさん。
彼女の実力は、騎士団の中でも隊長クラスで、『風の姫騎士』と呼ばれている。
その尊敬する彼女が、女性だけの部隊を作る事を知った私は、その部隊の入隊試験に挑みました。
剣術なんてほとんど習った事のない私を、周囲の人達は無謀だと笑う人や、止めさせようとする人達ばかりです。
巫女として8歳から修行して、巫女として、将来を期待されていた私に対する反応として当然だと思う。だけど、1年と数ヶ月前に、女性初の騎士になったリッサさんを見てから、私の中の本当の気持ちに気付いたの。
『なにかを成し得たい。』
ただ漠然とした気持ちだったけど、誰かの為とか、困っている人の力になりたいとか、そういう感情が私の中で燻っていたことに気付いたの。
巫女として立派な勤めをすることは、大事だと思っていた。だけど、神殿に勤め、祈りを捧げるだけの日々に疑問を抱いていたし。
大きな厄災や、天災が起きた時に、私達が居るのだと教えてられていたけど、そんなのは数年に一度あるくらいで、普段は何もしていない。いや、神殿の掃除とか街の行事とか、仕事はあるのだけど、普段から魔物退治や遠征隊で頑張っている騎士達を尊敬していた。
だから、私は女性騎士隊『エルフィ』の入隊試験を受け、そして!
『合格』したのです。
パティア・レットル 16歳。
私は、『エルフィ』の隊員として、騎士の道を目指す事になりました。
「パティア、遅れてるわよ。魔力は私よりあるのだから、頑張りなさい。」
私の隣を飛んでいるのは、隊員最年長のレミレナ・イストンさん。
リッサ隊長よりも一歳上の20歳です。
代々、風の都市ルノトーレの議員をしている名家の長女さんで、一人娘として、誇れる騎士になる為に志願したと聞きました。
魔力はあまりないけど、剣術の才能がすごくあって、私とは正反対だけど、妹のように気にかけてくれています。
飛行するときの魔力はそれほど必要としないのだけど、私は魔力の調整が下手なので、必要以上に魔力を出し続けてしまい、魔力切れをしてしまう。
巫女修行の時からの課題で、まだまだ上手く出来ないのです。
私とレミレナさんの前を飛んでいるのが、フォーラ・カテイルさん17歳と、ローニャ・トライスさん19歳。
二人とも、父親が遠征隊として活躍していて、父親の背中を追うように志願したみたいです。
魔力の量は並み程度だと言っていたけど、魔力の扱いが上手く、剣術の覚えも良くて、魔法騎士としての素質が十分あるってリッサさんが二人を褒めていました。
リッサさんと、この4人が『エルフィ』の隊員で、今日も飛行訓練からの日課に励んでいます。
いつもの、草原に下りた私達は、リッサさん指導の下、剣術の練習と魔力の鍛錬をする。
ここは見晴らしのいい高台になっていて、坂の下にある森の監視場所にもなっていた。
そうです。
訓練をしながら、森から出てくる虫や魔物を討伐もしているのです。
「リッサ隊長、魔物が居ます。数は1匹です。」
私には、すこしだけ特技があります。
魔物の気配を目で見ることが出来るのです。
正確には、生き物の感情を色で見る事が出来ますが、それは内緒にしています。
色だけだとしても、心を見られるのは不快になると、母から教えられたから。
魔物の色は黒いで、煙のようにモヤモヤとしているので森の外からでも見つけることが出来ました。
「じゃあ、今日はフォーラさんが討伐に、援護にローニャさん、お願いします。」
リッサさんの指示で、二人は練習を止めて森を眺めている。
「パティア、魔物はどの辺りに居るの?」
フォーラさんの問いに私は、指をさして答える。
「あの辺りです。」
「了解。それじゃあ、行ってきます。ローニャさん、援護お願いします。」
「はい。」
草原から森の入り口辺りの空に移動した私達は、フォーラさんとローニャさんが魔物を討伐する様子を静かに見ている。
魔力で身体能力を上げるのは、騎士の基本で、リッサさんが会得し、私達が目指す魔法騎士は体の動きそのものを魔力で動かし、さらに魔法を使う事で、男性騎士以上の力を出す方法でした。
フォーラさんの牽制する風の矢で、森の中にいる魔物を見つけると、急降下で森の中に入っていく。それをローニャさんが追いかけるように続いていく。
木が擦れる音が少しした後、二人が空に戻ってきた。
「討伐終わりました。魔物は熊型でした。」
フォーラさんは、息を少し上げていたけど、傷ひとつ無く元気でした。
「もう、この程度なら、独りでも大丈夫ですね。ですが、何が起こるか判りませんから、行動は2人以上でしてください。」
リッサ隊長の笑みから、嬉しさが伝わってくる。
入隊から3ヶ月、『エルフィ』の戦力は他の部隊と同じくらいに上がっていた。
「遠征隊として、外界にいける日も、そう遠くないかもですね。」
そうなのです。
『エルフィ』の最初の目標が、遠征隊としての活動をする事です。
リッサ隊長も、一度も遠征隊に加わった事が無く、女性隊員の同行に批判的だった騎士団に望みを託す事を諦めたリッサさんが、マイ・アンフィル様に嘆願して、結成されたのが『エルフィ』なのです。
「そろそろ、この森の奥も探索してみましょうか。」
ここは、『風の都市ルノトーレ』から西にある森、数十年前までは、外界として遠征隊が魔物を討伐していた場所。
魔物の数は激減させたけど、その後、開拓される事が無く、森もままなのです。
この森の北側に広がる湖の、さらに北にある土地が開拓地になっているので、魔物駆除するだけの地区になってます。
「本当ですか?!」
レミレナさんの問いに、笑顔で答えるリッサ隊長に、私以外の隊員達は、歓喜の声を出していた。
「パティアは、嬉しくないの?」
レミレナさんの心配する声が、考え事をしていた私を呼び戻す。
「私だけ、まだ独りで魔物討伐が出来てないから・・・」
「そうだったわね。でもパティアが居るから、私達は安心して森に入れるのよ。」
「そうですよ。パティアさんの魔物感知能力があるから、森の奥に行けるのですから。」
リッサ隊長の言葉に、私は素直に喜ぶことが出来なかった。
自分独りでは、何も出来ない事には変わらなかったから。
「それと、パティアさんには、魔法攻撃を解禁します。」
「えっ?!どうしてですか?」
巫女の修行時代から、魔力の制御が下手だった私は、攻撃系の魔法を禁止されていた。
人より高濃度で、量が多い魔力が仇となって、私の魔法は不安定で危なかったから。
「この数ヶ月で、魔力の扱いも大分良くなってきますし、無理に制御しようとせずに一気に放出する魔法で、周りを気にしない場所なら問題ないと思いますよ。」
私は、胸が高鳴るのが判った。
「良いのですか?!」
「ええ、あなたの魔法騎士は、魔法を主体にするのが一番だと思いますから、その為の基礎も頑張ってきました。だから、次の訓練に移るだけですよ。」
剣術を学ぶ事が、大事だと思っていた私には、信じられない言葉で、嬉しい言葉でした。
「はい!頑張ります。」
「よかったですね、パティア。」
振り向くと、3人の仲間が私を見ている。
レミレナさんの満面の笑みと、体から溢れる光が、私以上に喜んでいる事が判った。
フォーラさんとローニャさんも、同じくらいの笑顔と光を私に向けてくれている。
「はい。ありがとうございます。」
次の日から、私は魔法攻撃の訓練を始めた。
森の奥を目指しながら、魔物感知した場所に風の玉を撃ち込んでいく。
初日に遠慮をしなくていいと言われたので、おもいっきり風の玉を撃ってみたら、木が爆散し土が吹き飛んでしまった。
それから、少しずつ弱く撃つ練習を重ね、今は、木に穴が開く程度の大きさまで小さくすることが出来た。
私の攻撃に炙り出された魔物を、レミレナさん達が討伐し、少しずつ森の奥へと行動範囲が広がって行く。
魔物以外にも虫が増えてきた森の奥は、夜営するには危ないので、夕刻前には撤退して次の日にまた、奥を目指すを繰り返している。
「リッサ隊長!大きな何かがこっちに向かってきます。」
私は、数キロ先から、ものすごい速さで向かってくる黒い煙に気付いた。
明らかに、こっちを目指している。
「空へ!」
リッサ隊長の合図で、空に上がった私は、さっきまでいた場所を見下ろした。
「なんですかあれ?!」
リッサ隊長達も、その存在を確認していた。
「あれは、虎?いや狼?・・・あの大きさだと、牙狼かもしれないですね。なんにしても、あのまま居たら、危なかったです。」
人の何倍もある大きな魔獣がこっちを見ている。
「見過ごす事は出来ません。ここで討伐しますよ。」
「「はい!」」
同時に返事をした私達は、リッサさんの指示を待っていた。
「パティアさんの、全力の風の矢を撃った後に、左右から私とレミレナさんが斬りかかります。回避行動に合わせて、フォーラさんとローニャさんが追撃してください。そのあと上空に離脱。」
「「はい!」」
私はありったけの魔力で、風の矢を雨のように撃ち降らす。
砕け散る木々の葉と、舞い上がる土煙で魔物の姿が見えなくなるが、リッサさんとレミレナさんは魔物の動きを見逃さず、矢が消えたと同時に斬り込んでいた。
その瞬間、土煙から魔獣が飛び出す。
二人の攻撃を無傷で避けた魔獣を、フォーラさんとローニャさんが剣を構えて飛び込むけど、体を捻って二人を弾き飛ばしていた。
魔獣がローニャさんに向かって飛びかかるのを、リッサさんが出した風の盾が防ぐ。
4人が、その場から飛び立ったのを見た私は、魔獣に向かって、風の玉を撃ち放つ。
制御なしの、特大の玉を。
もちろん魔獣は直撃を避け、飛び退いたけど、地面に当たった風の玉の巻き起こす暴風が魔獣を空に浮かせた。
それを見逃さないのが『エルフィ』の仲間達。
練習でなんども打ち上げてしまった魔物を、討伐してきた経験は、今では連携攻撃となっていたのです。
空中で、身動きが取れない魔獣に、4人が入れ替わるように剣で攻撃していく。
そして、留めの一撃は、リッサさんの風の魔力を纏った剣の一振り。
触れた物を、空気の刃で斬るその威力は、鋼鉄さえも紙のように斬る、風の騎士が目指す一つの剣技です。
魔力次第で大きな刃となって、大岩も一刀両断するらしいですが、私にはまだ纏うことすら出来ません。
もちろん、レミレナさんや、フォーラさん、ローニャさんは、威力の差でリッサ隊長には及ばないけど習得済みなのです。
「皆さん、さすがですね。3日後の月礼祭への護衛任務までに、十分の成果を見せて貰えました。なので、私が留守の間、皆さんは休暇を取ってください。」
「「はい。」」
リッサ隊長は『エルフィ』の隊長ですが、風の巫女で2番目の地位に就いているマイ・アンフィル様の護衛を任されています。
それだけでも、凄い事なのですが、
毎日忙しくされているのに、疲れた様子なんて見せず、いつもやさしい笑顔で私達を鍛えてくれるリッサ隊長の願いを、一日でも早く叶えたいと私は思っています。
最初は漠然とした目標でしたが今は、
『エルフィの皆で遠征して、大きな成果を出す。』
それが、私の目標です。
「そんなに休暇が嬉しいの?」
私の決意の笑顔をレミレナさんが勘違いしたようです。
「違います。皆で遠征する日を想像してたのです。」
「そうですね。正直、数年かかると思っていましたが、皆さんとなら、あと3ヶ月もすれば叶うかもしれないですね。私も楽しみですよ。」
リッサ隊長の見せる笑顔は、いつも私に力をくれます。
「はい、頑張ります。」
私にとって『エルフィ』は掛け替えの無い大切な場所になっていました。
私は『エルフィ』の仲間と魔法騎士を目指しています。
まだまだ、頑張る事だらけですが、訓練も大変ですが、私はここが大好きです。
彼女の実力は、騎士団の中でも隊長クラスで、『風の姫騎士』と呼ばれている。
その尊敬する彼女が、女性だけの部隊を作る事を知った私は、その部隊の入隊試験に挑みました。
剣術なんてほとんど習った事のない私を、周囲の人達は無謀だと笑う人や、止めさせようとする人達ばかりです。
巫女として8歳から修行して、巫女として、将来を期待されていた私に対する反応として当然だと思う。だけど、1年と数ヶ月前に、女性初の騎士になったリッサさんを見てから、私の中の本当の気持ちに気付いたの。
『なにかを成し得たい。』
ただ漠然とした気持ちだったけど、誰かの為とか、困っている人の力になりたいとか、そういう感情が私の中で燻っていたことに気付いたの。
巫女として立派な勤めをすることは、大事だと思っていた。だけど、神殿に勤め、祈りを捧げるだけの日々に疑問を抱いていたし。
大きな厄災や、天災が起きた時に、私達が居るのだと教えてられていたけど、そんなのは数年に一度あるくらいで、普段は何もしていない。いや、神殿の掃除とか街の行事とか、仕事はあるのだけど、普段から魔物退治や遠征隊で頑張っている騎士達を尊敬していた。
だから、私は女性騎士隊『エルフィ』の入隊試験を受け、そして!
『合格』したのです。
パティア・レットル 16歳。
私は、『エルフィ』の隊員として、騎士の道を目指す事になりました。
「パティア、遅れてるわよ。魔力は私よりあるのだから、頑張りなさい。」
私の隣を飛んでいるのは、隊員最年長のレミレナ・イストンさん。
リッサ隊長よりも一歳上の20歳です。
代々、風の都市ルノトーレの議員をしている名家の長女さんで、一人娘として、誇れる騎士になる為に志願したと聞きました。
魔力はあまりないけど、剣術の才能がすごくあって、私とは正反対だけど、妹のように気にかけてくれています。
飛行するときの魔力はそれほど必要としないのだけど、私は魔力の調整が下手なので、必要以上に魔力を出し続けてしまい、魔力切れをしてしまう。
巫女修行の時からの課題で、まだまだ上手く出来ないのです。
私とレミレナさんの前を飛んでいるのが、フォーラ・カテイルさん17歳と、ローニャ・トライスさん19歳。
二人とも、父親が遠征隊として活躍していて、父親の背中を追うように志願したみたいです。
魔力の量は並み程度だと言っていたけど、魔力の扱いが上手く、剣術の覚えも良くて、魔法騎士としての素質が十分あるってリッサさんが二人を褒めていました。
リッサさんと、この4人が『エルフィ』の隊員で、今日も飛行訓練からの日課に励んでいます。
いつもの、草原に下りた私達は、リッサさん指導の下、剣術の練習と魔力の鍛錬をする。
ここは見晴らしのいい高台になっていて、坂の下にある森の監視場所にもなっていた。
そうです。
訓練をしながら、森から出てくる虫や魔物を討伐もしているのです。
「リッサ隊長、魔物が居ます。数は1匹です。」
私には、すこしだけ特技があります。
魔物の気配を目で見ることが出来るのです。
正確には、生き物の感情を色で見る事が出来ますが、それは内緒にしています。
色だけだとしても、心を見られるのは不快になると、母から教えられたから。
魔物の色は黒いで、煙のようにモヤモヤとしているので森の外からでも見つけることが出来ました。
「じゃあ、今日はフォーラさんが討伐に、援護にローニャさん、お願いします。」
リッサさんの指示で、二人は練習を止めて森を眺めている。
「パティア、魔物はどの辺りに居るの?」
フォーラさんの問いに私は、指をさして答える。
「あの辺りです。」
「了解。それじゃあ、行ってきます。ローニャさん、援護お願いします。」
「はい。」
草原から森の入り口辺りの空に移動した私達は、フォーラさんとローニャさんが魔物を討伐する様子を静かに見ている。
魔力で身体能力を上げるのは、騎士の基本で、リッサさんが会得し、私達が目指す魔法騎士は体の動きそのものを魔力で動かし、さらに魔法を使う事で、男性騎士以上の力を出す方法でした。
フォーラさんの牽制する風の矢で、森の中にいる魔物を見つけると、急降下で森の中に入っていく。それをローニャさんが追いかけるように続いていく。
木が擦れる音が少しした後、二人が空に戻ってきた。
「討伐終わりました。魔物は熊型でした。」
フォーラさんは、息を少し上げていたけど、傷ひとつ無く元気でした。
「もう、この程度なら、独りでも大丈夫ですね。ですが、何が起こるか判りませんから、行動は2人以上でしてください。」
リッサ隊長の笑みから、嬉しさが伝わってくる。
入隊から3ヶ月、『エルフィ』の戦力は他の部隊と同じくらいに上がっていた。
「遠征隊として、外界にいける日も、そう遠くないかもですね。」
そうなのです。
『エルフィ』の最初の目標が、遠征隊としての活動をする事です。
リッサ隊長も、一度も遠征隊に加わった事が無く、女性隊員の同行に批判的だった騎士団に望みを託す事を諦めたリッサさんが、マイ・アンフィル様に嘆願して、結成されたのが『エルフィ』なのです。
「そろそろ、この森の奥も探索してみましょうか。」
ここは、『風の都市ルノトーレ』から西にある森、数十年前までは、外界として遠征隊が魔物を討伐していた場所。
魔物の数は激減させたけど、その後、開拓される事が無く、森もままなのです。
この森の北側に広がる湖の、さらに北にある土地が開拓地になっているので、魔物駆除するだけの地区になってます。
「本当ですか?!」
レミレナさんの問いに、笑顔で答えるリッサ隊長に、私以外の隊員達は、歓喜の声を出していた。
「パティアは、嬉しくないの?」
レミレナさんの心配する声が、考え事をしていた私を呼び戻す。
「私だけ、まだ独りで魔物討伐が出来てないから・・・」
「そうだったわね。でもパティアが居るから、私達は安心して森に入れるのよ。」
「そうですよ。パティアさんの魔物感知能力があるから、森の奥に行けるのですから。」
リッサ隊長の言葉に、私は素直に喜ぶことが出来なかった。
自分独りでは、何も出来ない事には変わらなかったから。
「それと、パティアさんには、魔法攻撃を解禁します。」
「えっ?!どうしてですか?」
巫女の修行時代から、魔力の制御が下手だった私は、攻撃系の魔法を禁止されていた。
人より高濃度で、量が多い魔力が仇となって、私の魔法は不安定で危なかったから。
「この数ヶ月で、魔力の扱いも大分良くなってきますし、無理に制御しようとせずに一気に放出する魔法で、周りを気にしない場所なら問題ないと思いますよ。」
私は、胸が高鳴るのが判った。
「良いのですか?!」
「ええ、あなたの魔法騎士は、魔法を主体にするのが一番だと思いますから、その為の基礎も頑張ってきました。だから、次の訓練に移るだけですよ。」
剣術を学ぶ事が、大事だと思っていた私には、信じられない言葉で、嬉しい言葉でした。
「はい!頑張ります。」
「よかったですね、パティア。」
振り向くと、3人の仲間が私を見ている。
レミレナさんの満面の笑みと、体から溢れる光が、私以上に喜んでいる事が判った。
フォーラさんとローニャさんも、同じくらいの笑顔と光を私に向けてくれている。
「はい。ありがとうございます。」
次の日から、私は魔法攻撃の訓練を始めた。
森の奥を目指しながら、魔物感知した場所に風の玉を撃ち込んでいく。
初日に遠慮をしなくていいと言われたので、おもいっきり風の玉を撃ってみたら、木が爆散し土が吹き飛んでしまった。
それから、少しずつ弱く撃つ練習を重ね、今は、木に穴が開く程度の大きさまで小さくすることが出来た。
私の攻撃に炙り出された魔物を、レミレナさん達が討伐し、少しずつ森の奥へと行動範囲が広がって行く。
魔物以外にも虫が増えてきた森の奥は、夜営するには危ないので、夕刻前には撤退して次の日にまた、奥を目指すを繰り返している。
「リッサ隊長!大きな何かがこっちに向かってきます。」
私は、数キロ先から、ものすごい速さで向かってくる黒い煙に気付いた。
明らかに、こっちを目指している。
「空へ!」
リッサ隊長の合図で、空に上がった私は、さっきまでいた場所を見下ろした。
「なんですかあれ?!」
リッサ隊長達も、その存在を確認していた。
「あれは、虎?いや狼?・・・あの大きさだと、牙狼かもしれないですね。なんにしても、あのまま居たら、危なかったです。」
人の何倍もある大きな魔獣がこっちを見ている。
「見過ごす事は出来ません。ここで討伐しますよ。」
「「はい!」」
同時に返事をした私達は、リッサさんの指示を待っていた。
「パティアさんの、全力の風の矢を撃った後に、左右から私とレミレナさんが斬りかかります。回避行動に合わせて、フォーラさんとローニャさんが追撃してください。そのあと上空に離脱。」
「「はい!」」
私はありったけの魔力で、風の矢を雨のように撃ち降らす。
砕け散る木々の葉と、舞い上がる土煙で魔物の姿が見えなくなるが、リッサさんとレミレナさんは魔物の動きを見逃さず、矢が消えたと同時に斬り込んでいた。
その瞬間、土煙から魔獣が飛び出す。
二人の攻撃を無傷で避けた魔獣を、フォーラさんとローニャさんが剣を構えて飛び込むけど、体を捻って二人を弾き飛ばしていた。
魔獣がローニャさんに向かって飛びかかるのを、リッサさんが出した風の盾が防ぐ。
4人が、その場から飛び立ったのを見た私は、魔獣に向かって、風の玉を撃ち放つ。
制御なしの、特大の玉を。
もちろん魔獣は直撃を避け、飛び退いたけど、地面に当たった風の玉の巻き起こす暴風が魔獣を空に浮かせた。
それを見逃さないのが『エルフィ』の仲間達。
練習でなんども打ち上げてしまった魔物を、討伐してきた経験は、今では連携攻撃となっていたのです。
空中で、身動きが取れない魔獣に、4人が入れ替わるように剣で攻撃していく。
そして、留めの一撃は、リッサさんの風の魔力を纏った剣の一振り。
触れた物を、空気の刃で斬るその威力は、鋼鉄さえも紙のように斬る、風の騎士が目指す一つの剣技です。
魔力次第で大きな刃となって、大岩も一刀両断するらしいですが、私にはまだ纏うことすら出来ません。
もちろん、レミレナさんや、フォーラさん、ローニャさんは、威力の差でリッサ隊長には及ばないけど習得済みなのです。
「皆さん、さすがですね。3日後の月礼祭への護衛任務までに、十分の成果を見せて貰えました。なので、私が留守の間、皆さんは休暇を取ってください。」
「「はい。」」
リッサ隊長は『エルフィ』の隊長ですが、風の巫女で2番目の地位に就いているマイ・アンフィル様の護衛を任されています。
それだけでも、凄い事なのですが、
毎日忙しくされているのに、疲れた様子なんて見せず、いつもやさしい笑顔で私達を鍛えてくれるリッサ隊長の願いを、一日でも早く叶えたいと私は思っています。
最初は漠然とした目標でしたが今は、
『エルフィの皆で遠征して、大きな成果を出す。』
それが、私の目標です。
「そんなに休暇が嬉しいの?」
私の決意の笑顔をレミレナさんが勘違いしたようです。
「違います。皆で遠征する日を想像してたのです。」
「そうですね。正直、数年かかると思っていましたが、皆さんとなら、あと3ヶ月もすれば叶うかもしれないですね。私も楽しみですよ。」
リッサ隊長の見せる笑顔は、いつも私に力をくれます。
「はい、頑張ります。」
私にとって『エルフィ』は掛け替えの無い大切な場所になっていました。
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