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ティオ・エリシア
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私は朝の日の光で、心地よい眠りから目覚めた。
通学や通勤で行き交う人の声や車の音などなく、ただ鳥の声が微かに聞こえてるだけだった。
わたしは木の部屋を見渡し、そして枕の横にいる白いふくろうの子供を見つけてここが夢じゃい事を再確認した。
「モカ。おはよう」
私の声で目を覚ましたモカを抱きかかえておじさんたちがいる食卓へと足を運んだ。
いい匂いがする台所にはおばさんが食事の用意をしていた。おじさんは外で何かしているみたいだった。
「顔を洗っておいで。それと、食事の準備ができたって、あのひとを呼んできてね。」
はい。と返事をして私はモカを抱いたまま、洗面台に行き、顔を洗った。
(そうだ・・鏡ってないのね。不便じゃないのかな?)
「モカ、私の髪の毛ってどこか跳ねてない?」
私は濡らしたタオルでモカを拭きながら、モカを頭がよく見える位置に上げた。
「大丈夫だよ。跳ねてるとダメなの?」
モカがそう聞いてきたので私は、ダメなのって笑いながら答える。
「モカも跳ねてると可愛くないでしょ。」
私はモカを下ろして頭から丁寧に拭いてあげた。
「おじさんを呼びにいこうか。」
冷たい水でスッキリと目が覚めた私は元気よく外に飛び出した。モカも私の後を飛んでくる。
まぶしい太陽で湖がキラキラと輝かしている。心地よい風が今日も私を包んでくれた。
湖の前で空を見上げていたおじさんに手を振って朝食が出来たことを伝えた。
テーブルには美味しそうな果物と焼きたてのパン、いい匂いがするスープが並んでいた。
モカはテーブルの端に、私はその隣の椅子に座る。
私はパンを小さく千切ってモカのお皿に置いた。果物はおばさんが小さく切ってくれたのが皿のなかにすでに置いてあったので、私は上手に食べているモカを見てテーブルの料理を口に運ぶ。
食事を終えたおじさんが、私に今日の段取りを話し始めた。
「あと1時間くらいしたら、オルトリアスまで護衛してくれる人が来ることになったから。」
(あ。そうだよね、二人で行くんじゃないよね・・やっぱり、・・・モカ襲われたんだし。)
「王宮まで連れてってくれるから、あとはルミナ様と話してくればいいからね。」
(保護者付きの冒険か~。ちょっと残念だけど、安全に王宮ってところまでいけるんだから、いいか。)
パンを頬張りながら、私はこれからいく町がどんなところなのか期待で一杯になっていた。
「ねぇ、おじさん?」
お腹も一杯になったので疑問に思ってたことを訊ねてみた。
「どうやって護衛の人呼んだの?電話とかないみたいだけど?それも魔法みたいなものなの?」
昨日の出来事で魔法がこの世界の機械や道具の変わりになっているのがなんとなく分かった。
「電話?。ああ・・・今日の連絡の方法なら朝、太陽が昇ったときに風の精霊に手紙を運んでもらったのだよ。 私たちの世界では精霊の力を借りて火を熾したり、傷を癒したり、物を動かしたりするのが普通だね。もちろん、昨日みたいに戦うための魔術もあるがね。」
「指先に火を出したり、擦り傷ぐらいの傷の手当て、髪を乾かすくらいの風とか、小さい力の魔力なら、ほとんどの人が出来るようになるけど、高位魔術になると限られた人しか覚えることはできないのだよ。」
(魔法の世界か~すごいところにきたんだな~私もちょっとくらいならできるのかな?)
「なおちゃんには無理だろうね」
おじさんは私の心を見透かしたように微笑んでいた。
「え・・なんでよ~」 私はちょっと怒ったふりをした。
「髪の色が黒だからね。精霊が手助けしてくれないんだよ。なぜか。」
(髪の色で決まってしまった。・・・なんて不条理な世界なんだ。お父さんのせいか~)
肩が落ちたのが自分でも分かるくらい凹んでいた。
「じゃ・・なんでモカが見えたの?」
いつのまにか、おばさんからおかわりを貰っているモカを見て私は、
「ってまだ食べてる~」
きょとんと、こっちを見てだめなの?って顔で見られたら、いいよって言うしかなかった。
モカとのやり取りを聴いていたおじさんとおばさんが笑っていた。
おばさんが私の問いに答えてくれた。
「精獣は魂の力のみに共鳴するから魔力が無くても関係ないの。魂の力っていうのはね、密度が濃いとか輝きが強いとか表現されるけど、ようは、精神力ってこと。なおちゃんは人より心が強いからモカが見えたの。」
(強いのかな?・・・こんなに悩んでるのに・・・)
「それってとっても良い事なのよ。」
モカにお茶を勧めて,おばさんは空になったお皿を台所に持っていった。
「髪の色って特別な事なの?」
昨日ミリアさんがお祖母ちゃんの髪の色を訊いてきたのを思い出しておじさんに聞いてみた。
「人には得意属性があってね、、4元素と太陽と月の6種類。その属性で髪の色がはっきりと分かれるのだよ。私たち銀色は月の属性、ミリアちゃんの赤は火の属性、色が鮮やかなほど魔力が高いのだよ。なおの黒色っていうのは人間だとまったく魔力を持たないのだよ。闇の属性をもつ魔族の黒髪だけは別だけど。我々、人は光の属性側なので闇属性の魔法を使うことができないのだよ。」
お茶で一息ついたおじさんが付け足すようになぐさめてくれた。
「黒髪を持つ人はこの世界にも沢山いるから珍しくないよ」
私は髪の毛をさわった。
(結構自慢だったのにな~)
「そろそろ出かける準備をしなさいね。」
台所から香ばしいクッキーの匂いがする紙袋を持ったおばさんが、戻ってきた。
「そうそう、お祖母さまがくれたカード達をもっていきなさい。肌身離さずもっているのだよ。」
着替えをするために立ち上がった私は、はい。と返事をして部屋を出た。
(やっぱあのカードって意味あったのか。私の知っているカードゲームによく似た絵柄なんだけど違うんだよね。タロットカードに近いのかな?)
おばさんが用意してくれた、服に着替えてカードケースを枕の下から取り出して部屋を出た。
「おじさん~。このカードってなんなの?」
椅子に座りながら靴の手入れをしていたおじさんに私は訊ねる。
「ファルトカードといって、魔力が入ったカードで、主に王族の娯楽遊具だな。」
「へ? おもちゃ?」 あまりの事に呆然としてしまった。
「と言っても、高価な物だから大切に扱いなさい。下手をすると国ひとつ潰しかねないからね。」
「は?・・・」 言葉になりません。
「王宮でカードの使い方を教えてくれると思うから、そのときに詳しく聞きなさい。それとこれを、腰につけなさい。カードを収めるベルトと靴。」
今磨いていた皮の靴と隣の椅子の背に掛けてあった同じ皮のベルトを私は受け取った。
ベルトには西部劇にでてくる拳銃を収めるケースと似たものが付いていた。
(これに入れるのね。でも、盗られたりしないのかな?目立つし・・・)
「これって、大丈夫なの?盗まれたりしない?」
「ああ、心配いらないよカードケースは持ち主しか開けれないから誰も盗もうとしないし。金銭的にも価値が無いからね。中のカードは誰でも使えるからむやみに開けないことだね。」
(よくわからないけど・・・まあいいか・・)
カードをセットして、ベルトをつけて、靴を履いた私は、月の王宮に行く心構えをした。
(いっくぞ~)
「モカおいで~」
テーブルでくつろいでるモカを私は抱き上げて窓の外を見た。
(あ・・馬・・馬車か。あれでいくのかな?)
窓のから遠い位置に見える馬車が近づいてきた。車輪の音がすぐに聞こえて、おじさん達も気付いて扉から外に出ようとしていた。
家の前に止まった馬車を私は窓からモカと二人で見ていてた。
(馬車の中に誰かいるのかな?あの騎手さんだけなのかな?)
馬車の扉が開いた。
「おじ様~おば様~。お久しぶりです~。」
女性の声がしたと思ったら白い軽やかなドレスを着た、女の子が出てきた。
腰ぐらいまで長い銀髪が、日の光りを受け輝きながらなびいていた。
「ティオ!」 おじさんがびっくりしているみたいだ。
「まあ・・・」 おばさんはあきれているようだった。
ティオと呼ばれた女の子の後ろから白い鎧を着た男の人が出てきた。180cmくらいありそうだった。鍛えられた褐色の筋肉が白く輝く鎧をさらに美しく見せていた。
(女の子は私と同じくらいの年かな。あの人は20~25ってところかな)
少女とおじさんたちは家に戻ってくるみたいだったので私は扉を開けにいった。
軽い挨拶をして、私はおじさんの隣の席に座った。向かいの席には、さっきまで白い鎧を着ていた男の人と少女が座っている。
「なおちゃん。こちらが王宮まで護衛してくれる。ハミル・ウォレットさん。王宮とオルトリアスを守る守備隊の隊長をしていている人だよ。」
「で・・・こっちがオルトリアス次期王妃様の自覚なしのティオ・エリシア姫様。」
(姫様?・・・なんで姫様がきちゃうのよ。自覚なしってそりゃ・・・・)
ミリアさんと同じように鎧を消したローブ姿のハミルさんが申し訳ないと言った風な感じでおじさんに頭を下げていた。
「おじ様、意地悪言わないでよ。私もここに用が出来たから来たのよ。」
「ほう、よほど大事な用事と思われるのだが、あいつのお菓子を食べに来ただけとは言わないでくれよ。」
「うっ・・。そうよ!おば様のお菓子は最高なの!特に出来たてのが!」
おじさんとお姫様とは思えないティオさんの会話がおかしくて私は笑いそうになっていた。
おじさんはやれやれって仕草をして台所にいるおばさんに声をかけた。
程なくおばさんは焼きたてのクッキーを持ってきてテーブルに並べた。モカがなぜかおばさんと一緒に飛んできた。
「あ・・それって精獣?」 ティオさんの口調が低くなっていた。
「そうだよ。その子の名前はモカ。このなおちゃんの精獣だ。手紙に書いたように、なおちゃんとモカの今後の対応をルミナ様に相談するために護衛をよんだのだよ。」
おじさんはそういって真剣な眼差しでモカを見ているハミルさんに合図をした。
「はい。責任をもって王宮までお連れいたします。」
ゆっくりとした力強い言葉で私のほうをみていた。
(そか、これが普通の反応なんだ。モカ、なんか可哀想だな)
私はモカをそっと抱き寄せて膝の上に座られた。
「なお~。どうしたの?」 私は何でもないよって笑顔で答えた。
「さて、時間も過ぎていくことだしそろそろ出発してもらおうかの。」
「え~。まだクッキー食べてない~」 テーブルにあるクッキーに手を伸ばすティオさん
「冗談だ。久しぶりだし少しぐらいならいいだろう。」
微笑みながらおじさんもクッキーに手を伸ばす。
私は二人のやり取りをみて、なんかいいな~って気分になった。
「おばさんのお菓子って美味しいけどそれ以上美味しいのって町にはないの?」
モカにクッキーを与えて私も負けじとクッキーを手に取ってティオさんに尋ねた。
「ない!」 きっぱりと答える。
「え~。町にいったら美味しいお菓子食べようとおもってたのに~」
「おば様よりちょっと落ちるけど、美味しいお菓子なら教えてあげるわよ。」
ティオさんは嬉しそうにクッキーを食べながら私にそういった。
クッキーを食べつくした私とティオさんをみておじさんが一言・・・
「娘は持つものじゃないな。」
私とティオさんは同時に「えー」と叫んでいた。部屋に笑い声が広がった。
ハミルさんが笑顔になっているのを私は見逃さなかった。
(いい人そうね)
おじさんとおばさんに挨拶をした私はティオさんの馬車に乗り込んだ。そこへおばさんが紙袋をもってやってきた。
「これ、あなたにお土産にしようと包んでたのよ。帰ったらルミナ様に差し上げてね。」
「はい。お母様も喜びます。また遊びにきますね。今度はケーキ焼いてね。」
袋を受け取ったティオはおば様と軽く別れの抱擁をした。
「おばさん。いって来ますね」
モカを膝の上に乗せたまま、私は開いている扉ところにいるおばさんに手を振った。
馬の嘶きと車輪の音が聞こえて私達はおじさんの家を後にした。
窓の外には緑の木々が流れ、蹄と車輪の音が響く馬車の中で、私とモカは向かいに座っている姫さまと鎧姿のナイトをみていた。
(こうやってみると、お似合いだな~付き合ってるのかな?)
「ちょっと訊いていい?」 私はお姫様に話しかけた。
「おじさんとおばさんってどんな人なの?」
「えっ?」 予想どうりの返事が返ってきた。
「私は昨日の朝、何も聞かされないまま、お祖母ちゃんがあの家に私を送ったので、ほとんどわからないの。お祖母ちゃんの親戚って事は判ったんだけど、王様のルミナ様って人や姫様のあなたと知り合いっていうのがね・・・」
姫さまはちょっと考え込んでた。
「私のお母様とおば様が遠い親戚でね、おば様も昔は銀礼の神殿にいたの。」
「神殿?」
(ああ・・昨日モカが言ってた場所か)
「王宮の隣にある月の精霊を祭ってある所なんだけど、巫女をしてたのよ。って・・あなたどこの生まれ?」 今度は姫様が首を傾げていた。
「こことは別の異世界からきたの。」
少しの沈黙がながれた。
「難しい話になりそうなので、放置します。」
姫さまは真面目な顔をして、そして笑ったので私も一緒に笑った。
「私のお母様とおば様は遠い親戚で仲のいい友達ってことね。おじ様は王宮の守備隊で活躍しててね。おじ様に私は守ってもらっていたの。」
納得した私をみて姫さまは少し考えて・・・
「あなたはおじ様と親戚?」
「いえ、おばさんのお父さんと私のお祖母ちゃんが従兄妹っていってた。」
再び沈黙が流れてた。
「よくわからないけど、たぶん私とあなたは血族って事かな?」
わたしも「かな?」って返事をした。
「じゃ・・私の事をティオって呼んでね。親戚みたいだしね。」
私たちはティオ。なお。と呼び合うことになった。
姫さまは張っていた肩を砕くかのように、座っていたソファーにもたれた。
「姫様。」 隣にいたナイトさまの声が、妹を叱っている兄のように見えた。
「姫さまって大変見たいね」
私が苦笑いしながら二人を見ているとモカが私の膝から頭に飛び乗った。
「こら。モカなんで今、頭に乗るのよ。」
「外の景色見たいです。」
「じゃ仕方がないか」
姿勢がくだけたままのティオがモカと私を面白そうにみていた。
「なおとその子は仲がいいのね。私の知ってる精獣って人を馬鹿にしているっていうのか、見下してるっていうのか、あなたたちみたいに楽しそうに会話してるのって見たことないのよね。」
「私とモカは友達だからね」
私はモカと出合ったときの気持ちと今の関係をティオに話した。
「そっか~友達か~そうよね、契約とか考えなければ・・・そうだよね。いいな~」
頭に乗っているモカを見て私はちょっと誇らしげになっていた。
私はティオに顔を近づけて小声で内緒話をした。
「ねぇ・・ハミルさんってカッコいいね。ティオの彼氏?」
突然の質問にティオはびっくりして、恥じらいが出ている顔を隠すように手で顔を触っていた。
「なにいってるのよ。彼はそんなんじゃないの。私を守ってくれてるだけ・・・」
判りやすい反応でティオが片思いしているのがわかった。
私は外の景色を真剣な目で見ている献身的なナイトさまをちらっとみて、ティオの想いに気付いてるのか、確かめたい衝動に襲われたが、我慢した。
(姫様とナイトさまの恋か~なれるといいな~)
冷静さを取り戻したティオにぐっと握った手を見せて小さな声で
「がんばれ!」
その手を包むように私の膝まで戻したティオは笑いながら答えていた。
「ちがうって」
馬車は何事もなく快速な旅を続けていた。
モカが私に外の景色が変わったことを教えてくれた。
いつの間にか馬車は大きな白い城壁の横を駆け抜けていた。
前方にある窓を見ると、王都オルトリアスの門が目前に見えてきた。
「なお。ここが王宮のある王都オルトリアス。このまま王宮までいくからね。」
キリっと座りなおしたティオは、さっきまでの女の子らしい雰囲気から一転、お姫さまオーラーを纏っていた。
馬車は門の手前で速度を落として、ゆっくりと門をくぐって行く。窓からハミルさんよりちょっと質素な鎧を着た、門番らしき騎士が直立しているのが見えた。
馬車は人々が行き交う大きな街道をゆっくりと進んでいった。
「人が見てるからね。」
私にちらっと笑いかけて姫様になったティオは外から聞こえる沢山の挨拶に窓越しから笑顔で答えていた。
モカと私は窓越しに町並みを見ていた。
「モカ。すごいね~」
石畳の道に街灯がきれいに並んでいた。
すべて白い石で作られた町は、色鮮やかな布を飾ったお店が街道沿いにずらりと並び、行き交う人々も原色に近い色の服を着こなしていたので、町は華やかな雰囲気をだしていた。
進む馬車は大通りをまっすぐ進み、目前に大きな門と壁が見えてきた。
太陽に照らされた、白い城壁を抜けると四方に悠然と立つ4つの丸い塔が印象的な城が、正面に見えていた。城の左隣には教会のような小さな神殿が立っていた。
馬車は城を囲っている堀の橋を渡って中庭まで入っていく。
「着きましたわ。私は着替えてからいきすので、ここからは、案内係がお連れいたします。」
ティオに促されて私はモカを抱きかかえ、先に馬車を降りた。
言葉なく私は周りを見渡した。
(大きすぎだって・・・重いよ・・空気がおもいよ・・・)
ティオはハミルさんと一緒に奥へと消えていった。
(ずっと一緒なのね。)
ティオがいなくなって私とモカは案内係だと紹介された女性につれられて長い廊下を歩いてた。
大きな階段を上りさらに奥へと歩いていく。
(どこまでいくんだー! 無駄におおきすぎ~)
数回廊下を曲がる。
少し前を行く案内係が扉の前にとまった。
「この部屋でお待ちください。」
大きなバルコニーが外からの光を部屋一杯に受け入れている。少し大きめの楕円のテーブルに8脚の椅子が整然と並んでいた。
部屋には誰も居なかった。
案内係の女性は扉を閉めて私はモカと二人きりになった。
「ねっ。モカすごいね。なんなのここ。ありえないよ。」
開かれたガラス扉を越えてバルコニーに出ると、眼下に広がる白い建造物の積み重なる景色を真上にある太陽が美しく輝かせている。
緩やかな風が頬を流れた。
「緊張してきたよ。モカ、どうしよう・・・」
「大丈夫。僕がついてるです。」
私の肩の横に浮かんでいるモカが頼もしかった。
「そうよね。一人じゃないよね。」
少しして、案内役の女性が扉を開けて私を呼んだ。
「準備が整いました。こちらへどうぞ。」
ひときわ大きな両扉の前に騎士が2名立っていた。ハミルさんと同じ鎧を着ていた。
私は軽く会釈して、騎士が開けてくれた扉の中へと入っていった。
高校の体育館ぐらいある広さに、同じような壇上が奥にある。
数段のゆるい階段が壇上へとつながっている。
左右には開放されたテラスがありここもまた、光あふれる部屋だった。
私は案内役の後を追いかけるように階段の手前まできた。
壇上では私をずっと見つめている女性がいる。
「お待たせしました。あなたがなおさんですね。」
壇上の中央に立っている、すらっとした白く輝くドレスに、白銀のティアラを着けた、高貴で清楚なイメージがする女性が、微笑んでいる。
左隣にはさっきとは全く違うふわっと広がったスカートにひらひらが可愛らしい、まさにお姫様ドレスを着ているティオがいる。白銀の髪飾りがとても似合っていた。
「はっ、はい。」
微笑しているティオをちらっと見た私は、緊張した声で答えていた。
(うわ~ティオ、かわいい~。あの人がティオのお母さんで王妃さんなのね。結構若く見えるけどいくつなんだろ・・・)
案内役の女性は会釈して、入って来た扉から出て行った。
部屋には3人と1匹だけになった。
抱いているモカを私はぎゅっと抱きしめ小さな声で
「モカ、緊張してきたよ~。どうしよう~。」
モカからの返事を聞く前にルミナ王妃が話を始めた。
「今朝の手紙とティオからの話でだいたいの事は判りました。異例な事なので、こちらとしてもどう対処すればいいのか悩みましたが、なおさんとモカさんは今の状態のまま、時を重ねて契約を無効にする。と、いうのでよろしいのですね?」
「はい。」 私はすこし強く発言した。
「・・・」 モカは無言。
(モカ?どうしたの?)
そっとモカを上からみたけど、動きがなかったからちょっと揺すって小さく話し掛けた。
「モカ。返事は?」
それでもモカは何も答えなかった。不安になった私はモカを抱き上げて私の方に顔を向けて見た。・・・微かに聞こえる寝息・・・
(おぃ!)
「モカぁ~」 そのまま私はおでこをモカの頭に落とした。
「いったぁ~い」
何事が起きたのか分からない顔で私を見てるモカを有無を言わさず壇上に向けた。
「あ・・寝てましたです。」 モカは手から離れ宙に浮いた。
「寝てました・・・じゃないでしょ!」 弟を叱る姉のような気分になった。
ティオが堪えきれずに笑い声を出していた。
ルミナ王妃も少し笑っているように見えた。
「ティオ。」 ルミナ王妃は声を落とすように静かに制する。
「はい。」 息を整えているティオはわたしに微笑みかけていた。
(コントじゃなんだから・・・っとにもう。)
私も姿勢を戻して壇上を見つめた。
ルミナさまは再度同じ質問をモカに問い、そしてモカは、はい。とテレながら答えた。
ルミナ王妃が一息ついて
「では精獣との契約者は、本来、国を支えるそれ相応の職についていただくのですが・・・なおさんは魔力もなさそうですし、契約による宝力もありませんから異世界へ戻るまではティオの客人としてあなたとモカさんを護衛いたします。っという事でよろしいですか?」
私とモカは背筋を伸ばして、はい。と返事をした。
(そうか・・モカを守ってくれるんだ。)
「モカ、よかったね」
「はい。」
緊張が解けたモカとわたしはルミナ王妃に頭を下げた。
私をずっとみているルミナ王妃はすこし寂しそうに見えた。
(ん?・・気のせいかな)
「改めてよろしくね!」 今にも笑いそうな顔で階段を下りてくるティオがいた。
「ロレン夫妻にはこちらから伝えときますから、なおさんはゆっくりとしていってくださいね。私はこれから銀礼の神殿に行かなくてはならないので、夜の食事の時に色々な話を聞かせてくださいね。」
初めて会ったときの笑顔でルミナ王妃は壇上右奥へと歩いていった。
私の手を取ったティオが急かすように私を引っ張った。
「なお、こっちよ」
私はモカが付いて来るのを確認して、ティオに連れられてルミナさまが消えていった右奥の扉から部屋をでた。
また私の頭に乗っかったモカを楽しそうに見ているティオが思い出し笑いをしていた。
「お母様との謁見で寝ちゃうなんて、初めてみたよ。」
「ホント、びっくりしたよ。どうしたのかと焦ったのよ。」
頭にいるモカを問い詰めてみた。
「なんで寝たのよ。」
「なおの腕の中が暖かくて、つい・・・です。」
頭にいるモカが小さくなっているのが見なくても判った。
「お母様が部屋に守備兵たちを入れなかったのが、わかったような気がする。」
「あ・・いつもは、やっぱいるんだ。そうだよね。なんか足りないって思ってのよね。」
柱と屋根だけの通路に出た私たちに涼しい風と柔らかい光が迎えてくれた。
「こっちね。」
少し早足なティオが十字路を曲がったので付いていった。
「ねぇ、ティオってずっと城の中で暮らしているの?」
(お姫様って大変そう・・・)
「ほとんどそうね。銀礼の神殿で巫女の勉強する以外は、でもたまにハミルに頼んで町に行ったりするのよ。」
「そっか・・・」
私はお姫様っていう生活が私の知っている映画や物語と同じだったのでちょっと寂しくなった。
「あっ。明日は町に行きましょうか。どこか行きたい所ある?ドレス屋に帽子屋に靴屋、それに菓子屋もいかないとね。」
「え・・うん。そうね。行きたいね!」
(ティオの事考えてたのに、なんか催促してるみたいになって気を使わしてしまった。)
「どこ、行こうかな~。モカはどこ行きたい?」
私は元気な声でモカに訊いた。
「クッキー、また食べたいです。」
嬉しそうに飛び上がったモカに私たちは笑っていた。
螺旋階段が上へと繋がっていく。
城の最上階近い場所まで来たようで長い廊下はなく階段を中心に左右に伸びる通路に扉が数箇所あり、その一番奥の扉には先ほどと同じように兵士が立っていた。
白い扉の前に止まったティオに合わして兵士が扉を押した。
(あ・・ハミルさんだ。)
扉を押したハミルさんに私は会釈した。
「さ・・私の部屋よ。はいって。」
開かれた扉の奥にはフランスのどっかのお姫様そのままって感じの、カーテンのついたベットと彫刻の綺麗な家具があった。
小さな窓が3つあり薄いピンクのカーテンが風に揺られていた。
私は窓側にある二人用ソファーに腰掛けた。モカも習って私の隣に座った。
「疲れたでしょ。 ちょっとまっててね着替えてくるから」
ティオが部屋にあるもう一つのドアを軽くノックすると、扉を開けた女性がティオに頭を下げていた。ティオは奥へと入っていった。
(メイドさんかな・・隣の部屋にずっと待っているんだ。外にはハミルさんもずっといるようだし、やっぱすごいところだな~)
「ね、モカ。私たちって物凄く場違いだよね。」
「そですね。がんばります。」
「なにをがんばるのよ。」
モカの頭を指で突付いて、じゃれていたら、ティオが入っていった部屋からさっきのメイドさんがポットとカップを皿に乗せてソファーの前にあるテーブルに置いた。
「先にお飲みください。との事です。着替えがもう少しで済みますのでしばらくお待ちください。」
並べたカップにお茶を注いだメイドさんに続いて同じ服を着た別のメイドさんがお茶菓子を持ってやってきた。
「モカ、こっちへおいで」
膝の上にモカを座らせて私はメイドさんたちが戻っていったのを確認してから目の前のお菓子を口に運んだ。
「なお~。ぼくも~」
あたしの方を見て訴えるモカ。
「慌てないの。取ってあげるから。」
モカにお菓子を渡して私はお昼の時間がとうに過ぎている事に気付いた。
「モカ、お昼ご飯まだだったね。お腹空いたね~。」
「はい。おなかすいたです。」
お菓子を食べながら私とモカは笑っていた。
「これじゃ足りないね。」
「です。」
モカをテーブルに置いて、お茶を飲んだ私は窓の外を覗いて見た。
海が見えた。青く波が日の光できらきらと輝いている。大きな船や小さな船が見える。
(エーゲ海の港みたい~)
影が一瞬、光を遮った。私は太陽の方を眩しさに耐えながら見上げる。
(鳥?・・・あっ竜だ。)
「モカ、竜が飛んでるよ。ミリアかな?」
竜はそのまま降下してきた。
城の3階あたりにある中庭の庭園に降りたのが見えた。赤い鎧の人が迎えられた城の守衛兵についていった。
「よく判らなかったわ・・・」
私のところに飛んできたモカを窓の枠に立たせた。
「ほら、あっちに海がみえるわよ。」
「僕、海って初めてみました~聞いてたとおりおっきい~。」
「じゃ、明日ちょっと寄って貰おうよ。」
窓の外を二人で眺めていると扉の音が聞こえてティオが戻ってきた。
おじさん宅に来ていた時の服とほとんど変わらない、すっきりとした白いドレスになっていた。
「何見てるの?」
「海をね。モカがまだ海に行った事ないって言ってたの。明日ちょっと見せてあげたいんだけどいい?。」
「いいわよ。」
ティオの後ろからメイドさんが3名ほど入ってきた。テーブルの片付けと新しいお茶とケーキを並べていた。
(それぞれ担当してるんだ・・・いったい何人いるんだ?)
一人用の肘掛の付いたソファーに座ったティオ。
「お腹空いたね。このケーキは外のケーキ屋さんから買ってるのよ。すごく美味しいの。」
モカが私の頭を飛び越えてソファーまで飛んでいった。
「こら。」
私もあまい匂いに釣られてソファーに座った。モカが当たり前のように私の膝の上に乗った。
「さっきお菓子を貰ったとき、お腹が空いてるの思い出したの。モカもね。」
色々なケーキが皿の上に並んでいた。
ティオがケーキを小皿に取り分けたのみてふと聞いてみた。
「お昼ご飯って食べないの?」
「え・・・あっ。なおの世界では昼も食事とるのね。こっちはお昼はお菓子とかケーキとかを食べるのよ。」
「そうなんだ。・・・あれ?昨日おじさんのところで、お昼ご飯あったけど・・・そっか、私に合わしてくれたんだ。」
「なお~。ぼく赤いのが乗ってるのが食べてみたいです。」
並んでいるケーキの中で、丸い小さなケーキに苺が5個のっているのがあった。
(それ、私も欲しかったけど・・・)
私は仕方が無いので別のケーキを選ぶことにして、小皿に苺ケーキを取ってモカの前に置いた。
「って・・それどうやって食べるの?」
「なお、切ってです。」 私を見上げるモカ。
(やっぱりかい!)
「小さいナイフってある?」
「まっててね。今、頼むね。」
お皿の真ん中に置いてある飾りのような取っ手を掴んだと思ったら、高い音色の鐘の音が聞こえた。
「それってベルだったのね。」
私はチョコムースと苺ムースが6層交互になってるケーキを取った。
メイドさんが扉を開けて、一歩部屋に入ったところで立ち止まった。
「小さいナイフとフォークを持ってきて。」
一礼をしたメイドさんがすぐにもってきてくれた。
「ありがとう。ほらモカも」
私は膝の上のモカの頭を撫でて、メイドさんにお礼をした。
ちょっとびっくりしたメイドさんが笑顔を返して部屋を後にした。
私はモカの苺やケーキを小さく切るのと自分のケーキを食べるので忙しく無言になっていた。
モカも食べることに夢中になっていた。
「なお。その腰に付いてるのってファルトカード?」
モカがこぼしたケーキを小皿の脇に置いていた私は、顔を上げてティオに返事をした。
「ええ・・お祖母ちゃんから貰ったんだ。使い方しらないんだけど、ここにくれば解るっておじさんが言ってた。」
「誰かに教えてもらうってことなのかな?」
モカのケーキを切りながらティオに訊いた。
お茶を飲みながら笑みがこぼれたティオが答えてくれた。
「おじ様ったら、私を子供あつかいして。もう・・」
「私が教えるって事になるのよね。ファルトカード好きなわ・た・し・がね。」
なんとなくおじさんが言いたかった事が判って私も思わず笑ってしまった。
10個ほどあったケーキが綺麗に無くなり満腹になった私とモカはゆっくりと深呼吸していた。
ティオがベルを鳴らすとメイドさんたちが来てテーブルを片付けにやってきた。
「さて・・それじゃ!私のカード持ってくるね。」
席を立ったティオはベットの横にある花の彫刻と銀の装飾が綺麗な白いクローゼットみたいな家具からカードケースを持ってきた。
テーブルに置かれたそのケースはいくつもの宝石が装飾されていた。
「うわ~。すごく綺麗。私もそんなケースがいいな~」
ベルトのホルダーからカードケースをテーブルに置いた私は細かな模様と装飾がされている銀製のケースとティオのケースとを見比べていた。
「なお~、なおのも綺麗です。」
「そうよ。なおのも特別製作品みたいじゃない。初めて見たわ。ここまでの銀細工ってそうそうできないのよ。」
モカとティオに言われて私はちょっと嬉しくなった。
手にとってじっくりとケースを見ているティオが不思議そうな顔と嬉しそうな顔をしながら私の胸元に差し出してきた。
「開けれるのよね?・・・中にどんなカード入ってるの?ねっ見せて。」
子供が買ってきたおもちゃの箱を開けてと、強請るみたいにティオに急かされた。
ケースを開けた私はすべてのカードを束のままティオに渡す。
さっきまでケーキが並んでいたテーブルに、ティオは1枚ずつ並べていった。同じ絵柄のカードは重ねて置いていく。
「すごいわね・・・」
ティオの顔が真剣になっていた。
その顔を見て私は、このカードも特別なものなのだと感じた。
並べ終わったティオが3枚のカードを手に取って私に見せてきた。
「これが基盤のカードといって、扱える属性や、自軍にかかる効果などが、これできまるのだけど・・・持ってみて」
ティオが1枚、渡してきたので私は手にとった。
「あ・・・読める。」
お祖母ちゃんからもらったときには、絵柄なっている文字みたいなものが読めなかったけど、手に持った瞬間にカードの名前と効果が直接理解できていた。
「リミナスの天空城・・・月3闇3、ファル数20・・・月属・闇属・精霊族に・・・攻撃力+3守備力+3の効果。・・・飛行タイプのみ攻撃行動が出来る。」
ティオが軽く頷いてもう一枚テーブルからとって私に渡してきた。
「銀竜ナセラ 召還ファル数、月3無3.。攻撃力6・防御力8。飛行、月属 竜族で・・・月属に攻撃力+1守備力+1の効果。」
私は頭に入ってきた情報を声に出して答えた。
「この名前入りのカードは手札に1枚しか入れないルールなの。」
私はそこまで聞いて自分が今までやってきたカードゲームと同じことに気付いた。
テーブルにあるカードの枠が黄色になってるやつを指差してティオに解いた。
「この黄色い枠のカードは魔法カードだよね。」
「ええ、そうよ。・・・知ってるの?」
私は自分の世界に同じようなカードゲームがあってそのトーナメントの上位に入るくらい遊んでいる事を話した。
「でも・・なんで読めるようになったんだろう・・・」
私は手に持っている空に浮かぶ城の絵柄のカードと銀色の竜の絵柄を眺めながら呟いた。
「それは・・・たぶんこっちの世界に来たからじゃないのかな?同じ言葉を話してるのって・・・偶然じゃないと思うし。」
「そうよね。・・・お祖母ちゃんの魔法かな?・・・便利ね。ほんと・・」
改めて私はおばあちゃんの存在を大きく感じた。
「まったく。」
ティオの返事が私の思いをつかみ取っていた。
声を出して二人は笑っていた。
ティオがカードをテーブルに戻した。
「なおの世界のカードってただの紙みたいだけど、このカードには魔力が入っているの。」
私はティオの話を静かに聞いていた。
「カードを作る専門の魔術師がいるのよ。封印士と呼んでるの。その封印士が実在する場所や物、人、精霊、竜などの前にいってその物が出している魔力を封じこめてカードにするの。」
ティオがテーブルに1枚しかない名前入りカードたちを指している。
「とくに、このクラスは特級と言われ、世界に数枚しかないのよ。高い魔力を封印する力をもった封印士が限られているし、対象物に会うのすら難しいから。それにもう・・いないのよ。」
「いないって?」
私は言葉の意味を確認したくて聞いてみた。
「上級クラスまでのカードを作れる封印士はいるのだけど、特級を作れる人がもういないの。」
ティオはテーブルの端に置いてあった、カードケースから一枚のカードを出してテーブルに置いた。
「私の特級カード、ルシア様よ。月の王宮を建てた人で銀の時代と呼ばれる最初の王妃さま。」
カードには、城のテラスに立つ女性が描いてあった。
ティオに似ていると思った。
「で・・・なおのその天空城カード。と、この2枚の基盤カード・・・リミナスの聖殿。と、リミナスの月下舞踏会。」
「月光の王妃。銀影の魔道士。とか言われるリミナス様。実際に見たのは初めてよ。ルシア様と同じ時代の人らしいけど、伝説みたいになってる人。」
「ふぇ~。すごいカードなんだぁ~」
私は思わず、ため息をつきながら声を出していた。
「わたしもここまで、すごいカードが出てくるとはおもってみなかったよ。なおのお祖母さんって、リミナス様の縁のある人か、もしくは親族になるひとなのかな?」
二人の思案する沈黙が流れた。
「まあ・・難しい話はこれくらいにして、私のカードと勝負しましょうよ。」
ティオは自分のカードをデッキに戻して、私のカードをまとめ始めた。
「ルールの確認してみましょうか。」
基盤カードを1枚セット。駒カードと魔法カードをシャッフルして裏向きでセット。最初は7枚手札
に取る。
両陣とも手札から駒カードを場に置く。(召還総ファル数が基盤ファル数超えないこと)
戦闘ターン・攻撃側が駒による攻撃指定を決める。
守備側の駒が攻撃表示なら攻撃力の数値、守備表示なら守備力の数値で判定。
攻撃側(攻撃力)-守備側(駒の表示でどちらか)=0以下になれば墓地に落ちる。
攻撃側の駒の行動は一回のみ。(特殊行動もその時1回のみ使用できる)
魔法カードは基盤の残りファル数以下なら使用可能で攻撃側は、攻撃指定前1回
のみ、守備側は、攻撃指定後1回のみ使用出来る。
駒が墓地に落ちた時ライフポイントが維持ファル数分なくなる。最初は20ポイントあ
り、0になったら負けとなる。
場に駒が居なければ直接攻撃ができライフポイントを1減らすことができる。
攻撃側の駒の行動がすべて終わるか、指揮者が終了の合図をすればターン終了。
補充ターン・基盤ファル数を最大値まで回復。
手持ちカードを最大5枚になるまで補充できる。
召還ターン・場にある駒の維持ファルを消費することで駒を継続させることができる。
継続させない駒を墓地に落とす。(ライフポイントに影響しない)
残りの基盤ファル数に従って新たに手札から召還できる。
攻守交替で戦闘ターンに戻る。
「だいたいの流れはこんな感じになるけど・・なおの知ってるルールと同じかな?」
受け取った私のカードデッキをテーブルに置いてわたしは頷いた。
「ええ。ほんと変わらないの。びっくりするぐらい」
私はソファーの横で暇そうに見ているモカをひざの上に置いて大きく背伸びした。
「モカ、まっててね。私の実力をみせてあげる。」
(やるからには勝つぞ~)
モカは「はいです。」 と頷いた。
私はテーブルにカードを配置しようと、基盤カード「リミナスの天空城」を置いた。
「まって、ここでするのもいいけど折角だから、この世界のやり方でやらない?」
手を止めた私は、ティオに訊ねた。
「ここのやり方?」
「そうよ。このカードを実態化する石版があるのよ。それを使って試合するの。練習用に持ってるからそれを使ってやりましょうよ。」
ティオは立ち上がってメイドさんたちのいる扉をノックした。
扉を開けたメイドさんに用件を伝え、テーブルに戻ってきた。
程なく扉が開き、食事を運ぶワゴンみたいなものをメイドさんが押して入ってきた。
私はモカをソファーに置いて、部屋の窓側の広いところに置かれたそのワゴンを見にいった。
「ぼくもみるです。 」
モカがふわっと飛んで私を肩あたりをついてきた。
ワゴンの上にはカードの裏と同じ絵柄が描かれている。石版があった。
ティオがカードケースを持って、ワゴンとほぼ同じ大きさの石版の前に立った。
「この上にカードをおくと実態化するのよ。」
カードケースからカードの束を取り出して、基盤カードを石版の上に置いた。
カードの絵柄の上に同じ絵柄の城が小さく浮かんでいた。
「あっ・・かわいい~。」
ティオが小さく笑った。
「ね。こんな感じ。小さいから可愛いけど、公式用の大きな石版だともっと凄いよ。」
「なおも置いてみてよ。」
モカがとなりで嬉しそうにしていた。
私は逸る気持ちで自分のカードデッキをテーブルから取ってきた。
『リミナスの天空城』を置いた。
絵柄と同じ、空に浮かぶ城がふわっと現れた。
「じゃあ、駒も並べましょう。」
手に取った7枚から二人それぞれ駒を召還した。
石版の上には実態化した兵士や竜、魔法使いに妖精・・・チェスの駒みたいに見えた。
「なおの先行でいいよ。手加減なしでやりましょう。」
ティオは真剣な顔をしていたけど、嬉しそうだった。
私はひとつ、深呼吸をいれて、対峙するティオの駒たちを観察した。
(戦士系メインかな?。数値アップ系のカードデッキのようね)
「よし。」
私は小さく気合入れて、指揮を始めた。
実態化した駒たちは生きてるような動きをしていた。剣を振ったり、翼を動かしたり魔法を唱えたりと、見ているだけでも楽しかった。
ティオの戦略は、思ったとおり駒の数値アップを基本としていた。
私のは、月と闇の2色デッキだけど、基本的には数値アップ戦略のデッキなので駒で押していく物理攻撃主体の攻防が繰り広がられていた。
15分ほどで勝負がついた。
勝ったのは私。僅差の結果だった。
「ん~苦戦したー!」 私は大きく背伸びして体の硬直をほぐした。
「まけたー!」 ティオも手を伸ばして深呼吸していた。
「面白かった~。」
「たのしかった~。」
二人ほぼ同時に声をだして、そして笑顔になっていた。
「なお~凄かったね~。」
モカが私の頭にちょこんと乗ってきた。
「駒が実際に動いたりするのがいいね。」
私はこの石版とこっちのカードが気に入ってしまった。
「でしょ。5日後に月礼祭っていう祭りがあって闘技場でファルトカードの親善試合があるの。私が月の民、代表で出るから見に来てね。」
カードをケースに閉まってティオは窓の外を指差した。
「あそこよ。実態化がほぼ実物で再現されるのよ。さっきの竜とか精獣とか凄いわよ。」
指す先にはサッカーコロシアムのようなすり鉢状の建造物が見えていた。
「私的にはこれでも十分楽しかったよ。またしようよ。」
私もカードをケースに入れて、腰のホルダに閉った。
「今から銀礼の神殿に行かなくてはならないんだけど、なおもくる? 日が沈むまえには帰ってくるけど。」
「いってみたいけど・・ティオはそこでなにするの?」
「祭司になるための巫女修行よ。なおは神殿の見学してみてはどう?。」
「じゃ・・ここにいても暇だし、いく。」
私は城の中庭にいた竜がまだ居るのを何気に確認して、窓から離れた。
「そうね。」 ティオが私の服を見ていた。
「着替えましょう。」
ティオから予想していた言葉が返ってきた。
(やっぱり・・・)
扉を叩いたティオにつれられて私は隣の部屋へと入っていった。モカもそのまま頭の上にいる。
扉を開けてくれたメイドさんと奥に2人のメイドさんいた。
(3人だったのか。)
「なににしようかな。」
沢山のドレスや帽子、靴が並んでいる場所に私はティオに連れられていった。
(ヒラヒラしたのって苦手なんだよね~。)
「ドレスってあまり着ないから、動きやすいのがいいな。」
私はドレスを選んでいるティオに声をかけた。
「判ったわ。じゃここらあたりでいいかしら。」
ひとつはティオと同じような白いすっきりとしたスカートのドレス。
(胸元が開きすぎなんだよね・・・)
ふたつめはチャイナドレスのようなスリットがはいった薄い黄色のドレス。
(動きやすそうだけど・・・スリットが・・・)
みっつめは上下に分かれた白いドレス。
(まあこれならいいかな?)
「これにするね。」
みっつめのドレスを指差して私は着替えることにた。
「着替えはメイドさんに手伝ってもらってね。私は部屋でまってるから、モカちゃんもこっちで待ってましょ。」
ティオに呼ばれてモカは私の頭から扉へと飛んでいった。
「なお~。まってるです。」
扉から二人が出ていったのを確認したメイドさんが扉を閉めた。
(なんかこわい・・・)
何事もなく、着替えが終わった。
「なお、似合ってる。けど・・・それ、付けていくの?」
戻ってきた私の、腰にあるベルトを見てティオが訊いてきた。
「肌身離さず持ってなさいっておじさんがいってたから。」
モカがソファーのところでゴロゴロしているのが気になった。
「モカ? なにしてるの?」
「ん? 。なにもです。」
モカはふわっと飛び上がり私の頭に戻ってきた。
ティオがちょっと笑っていた。
「行きましょうか。」
私はティオの後を付いて廊下へと出た。
「銀礼にいきますね。なおさんも一緒です。」
ティオは扉の外にいたハミルさんに声をかけた。
私はハミルさんに会釈した。
「はい。」
ハミルさんはその一言だけ言ってティオの後ろについていた。
(会話とかあまりしないのかな?・・・できないのかな?)
階段を下って中庭の通路に出た。
(まだ竜いるかな?)
すぐに竜が視界に入ってきた。
(ミリアさんの竜によく似ているけど・・・竜ってみんな同じなのかな?)
私は竜を横目でみながらティオの後をついていった。
城の中を横断するような形で私たちは神殿へと続く庭園にでた。
色鮮やかな花を並べた庭園には鳥の囀りや風になびく木々の音がゆっくりと流れていた。
神殿へ伸びる道の向こうから赤い鎧をきた人が歩いてくる。
(さっきの竜騎士だ。ミリアかな?)
隣にいたハミルさんの動きが変わったような気がした。
赤い竜騎士は兜を付けているので誰なのか判らなかった。
私は隣をすれ違う竜騎士を目で追っていた。
「なお!」
私の視線に気付いた竜騎士が突然、声をかけてきた。
「あ!ミリア。」
聞き覚えのある声で私はミリアだと確認した。
ティオとハミルさんがちょとびっくりしたようだったけど、私たちのために立ち止まってくれた。
「やっぱりここに来てたのね。」
兜を脱いだミリアはルミナ王妃に用があってきたこと、昨日のなおの事を話すのが遅れた事、私の服が変わっていたので気付くのが遅れた事、を話してくれた。
「なおの頭にモカが乗っている事に気が付けば・・・」
私とミリアとモカはその場で笑っていた。
少し離れたティオとハミルさんにミリアが会釈している。
「まだお使いの途中だから、行くね。」
「はい。またね。」
駆け出すような勢いで城へと歩いていったミリアと別れて、私はティオの隣に歩いていった。
「お待たせ。ごめんね。」
「お知り合いだったのね。」
ティオの声になぜか重いものが感じ取れた。
「ええ。昨日、助けてもらって友達になったの。」
「あ。そうなんだ。」
(嫌いな人なのかな?)
「ティオはミリアとは知り合いじゃないの?おじさんとは知り合い同士だけど。」
ティオが困った顔をしている。
「知り合いって言えばそうなるかな。おじさんの家で何度か一緒になったことあるし、」
ティオはどこか遠くを見ているような視線で歩いていた。
「民族の色の相性がね・・・火は太陽と接属で武力を優先する民で・・・なんか合わないのよね。」
前を歩くティオがくるっと回って私をみた。
「だから、おじ様の家ではミリアさんとあまり喋らなかったの。」
「そうなんだ。」
私は後ろ向きで歩くティオの横を跳ねるように追い抜いた。
「相性って大事だけど、ティオもミリアも私の大事な友達よ。だから私が保証するわ。ティオとミリアも仲良くなれるよ。」
庭園の門がすぐそこに見えてきた。神殿までもうすぐだ。
一呼吸置いて私は頭の上のモカを胸の前に抱き寄せた。
早足でティオが私を追いかけてきた。
「そうね。」
明るい声でティオが笑っている。
見上げるとミリアの竜が青い空を悠々と飛んでいる。
私は竜に向かって大きく手を振った。
隣のティオも空を見上げていた。
「なお~。」
力無いモカの声がした。
「ねむいです・・・」
「・・・」
ティオと私の笑い声が風の音に流されていった。
通学や通勤で行き交う人の声や車の音などなく、ただ鳥の声が微かに聞こえてるだけだった。
わたしは木の部屋を見渡し、そして枕の横にいる白いふくろうの子供を見つけてここが夢じゃい事を再確認した。
「モカ。おはよう」
私の声で目を覚ましたモカを抱きかかえておじさんたちがいる食卓へと足を運んだ。
いい匂いがする台所にはおばさんが食事の用意をしていた。おじさんは外で何かしているみたいだった。
「顔を洗っておいで。それと、食事の準備ができたって、あのひとを呼んできてね。」
はい。と返事をして私はモカを抱いたまま、洗面台に行き、顔を洗った。
(そうだ・・鏡ってないのね。不便じゃないのかな?)
「モカ、私の髪の毛ってどこか跳ねてない?」
私は濡らしたタオルでモカを拭きながら、モカを頭がよく見える位置に上げた。
「大丈夫だよ。跳ねてるとダメなの?」
モカがそう聞いてきたので私は、ダメなのって笑いながら答える。
「モカも跳ねてると可愛くないでしょ。」
私はモカを下ろして頭から丁寧に拭いてあげた。
「おじさんを呼びにいこうか。」
冷たい水でスッキリと目が覚めた私は元気よく外に飛び出した。モカも私の後を飛んでくる。
まぶしい太陽で湖がキラキラと輝かしている。心地よい風が今日も私を包んでくれた。
湖の前で空を見上げていたおじさんに手を振って朝食が出来たことを伝えた。
テーブルには美味しそうな果物と焼きたてのパン、いい匂いがするスープが並んでいた。
モカはテーブルの端に、私はその隣の椅子に座る。
私はパンを小さく千切ってモカのお皿に置いた。果物はおばさんが小さく切ってくれたのが皿のなかにすでに置いてあったので、私は上手に食べているモカを見てテーブルの料理を口に運ぶ。
食事を終えたおじさんが、私に今日の段取りを話し始めた。
「あと1時間くらいしたら、オルトリアスまで護衛してくれる人が来ることになったから。」
(あ。そうだよね、二人で行くんじゃないよね・・やっぱり、・・・モカ襲われたんだし。)
「王宮まで連れてってくれるから、あとはルミナ様と話してくればいいからね。」
(保護者付きの冒険か~。ちょっと残念だけど、安全に王宮ってところまでいけるんだから、いいか。)
パンを頬張りながら、私はこれからいく町がどんなところなのか期待で一杯になっていた。
「ねぇ、おじさん?」
お腹も一杯になったので疑問に思ってたことを訊ねてみた。
「どうやって護衛の人呼んだの?電話とかないみたいだけど?それも魔法みたいなものなの?」
昨日の出来事で魔法がこの世界の機械や道具の変わりになっているのがなんとなく分かった。
「電話?。ああ・・・今日の連絡の方法なら朝、太陽が昇ったときに風の精霊に手紙を運んでもらったのだよ。 私たちの世界では精霊の力を借りて火を熾したり、傷を癒したり、物を動かしたりするのが普通だね。もちろん、昨日みたいに戦うための魔術もあるがね。」
「指先に火を出したり、擦り傷ぐらいの傷の手当て、髪を乾かすくらいの風とか、小さい力の魔力なら、ほとんどの人が出来るようになるけど、高位魔術になると限られた人しか覚えることはできないのだよ。」
(魔法の世界か~すごいところにきたんだな~私もちょっとくらいならできるのかな?)
「なおちゃんには無理だろうね」
おじさんは私の心を見透かしたように微笑んでいた。
「え・・なんでよ~」 私はちょっと怒ったふりをした。
「髪の色が黒だからね。精霊が手助けしてくれないんだよ。なぜか。」
(髪の色で決まってしまった。・・・なんて不条理な世界なんだ。お父さんのせいか~)
肩が落ちたのが自分でも分かるくらい凹んでいた。
「じゃ・・なんでモカが見えたの?」
いつのまにか、おばさんからおかわりを貰っているモカを見て私は、
「ってまだ食べてる~」
きょとんと、こっちを見てだめなの?って顔で見られたら、いいよって言うしかなかった。
モカとのやり取りを聴いていたおじさんとおばさんが笑っていた。
おばさんが私の問いに答えてくれた。
「精獣は魂の力のみに共鳴するから魔力が無くても関係ないの。魂の力っていうのはね、密度が濃いとか輝きが強いとか表現されるけど、ようは、精神力ってこと。なおちゃんは人より心が強いからモカが見えたの。」
(強いのかな?・・・こんなに悩んでるのに・・・)
「それってとっても良い事なのよ。」
モカにお茶を勧めて,おばさんは空になったお皿を台所に持っていった。
「髪の色って特別な事なの?」
昨日ミリアさんがお祖母ちゃんの髪の色を訊いてきたのを思い出しておじさんに聞いてみた。
「人には得意属性があってね、、4元素と太陽と月の6種類。その属性で髪の色がはっきりと分かれるのだよ。私たち銀色は月の属性、ミリアちゃんの赤は火の属性、色が鮮やかなほど魔力が高いのだよ。なおの黒色っていうのは人間だとまったく魔力を持たないのだよ。闇の属性をもつ魔族の黒髪だけは別だけど。我々、人は光の属性側なので闇属性の魔法を使うことができないのだよ。」
お茶で一息ついたおじさんが付け足すようになぐさめてくれた。
「黒髪を持つ人はこの世界にも沢山いるから珍しくないよ」
私は髪の毛をさわった。
(結構自慢だったのにな~)
「そろそろ出かける準備をしなさいね。」
台所から香ばしいクッキーの匂いがする紙袋を持ったおばさんが、戻ってきた。
「そうそう、お祖母さまがくれたカード達をもっていきなさい。肌身離さずもっているのだよ。」
着替えをするために立ち上がった私は、はい。と返事をして部屋を出た。
(やっぱあのカードって意味あったのか。私の知っているカードゲームによく似た絵柄なんだけど違うんだよね。タロットカードに近いのかな?)
おばさんが用意してくれた、服に着替えてカードケースを枕の下から取り出して部屋を出た。
「おじさん~。このカードってなんなの?」
椅子に座りながら靴の手入れをしていたおじさんに私は訊ねる。
「ファルトカードといって、魔力が入ったカードで、主に王族の娯楽遊具だな。」
「へ? おもちゃ?」 あまりの事に呆然としてしまった。
「と言っても、高価な物だから大切に扱いなさい。下手をすると国ひとつ潰しかねないからね。」
「は?・・・」 言葉になりません。
「王宮でカードの使い方を教えてくれると思うから、そのときに詳しく聞きなさい。それとこれを、腰につけなさい。カードを収めるベルトと靴。」
今磨いていた皮の靴と隣の椅子の背に掛けてあった同じ皮のベルトを私は受け取った。
ベルトには西部劇にでてくる拳銃を収めるケースと似たものが付いていた。
(これに入れるのね。でも、盗られたりしないのかな?目立つし・・・)
「これって、大丈夫なの?盗まれたりしない?」
「ああ、心配いらないよカードケースは持ち主しか開けれないから誰も盗もうとしないし。金銭的にも価値が無いからね。中のカードは誰でも使えるからむやみに開けないことだね。」
(よくわからないけど・・・まあいいか・・)
カードをセットして、ベルトをつけて、靴を履いた私は、月の王宮に行く心構えをした。
(いっくぞ~)
「モカおいで~」
テーブルでくつろいでるモカを私は抱き上げて窓の外を見た。
(あ・・馬・・馬車か。あれでいくのかな?)
窓のから遠い位置に見える馬車が近づいてきた。車輪の音がすぐに聞こえて、おじさん達も気付いて扉から外に出ようとしていた。
家の前に止まった馬車を私は窓からモカと二人で見ていてた。
(馬車の中に誰かいるのかな?あの騎手さんだけなのかな?)
馬車の扉が開いた。
「おじ様~おば様~。お久しぶりです~。」
女性の声がしたと思ったら白い軽やかなドレスを着た、女の子が出てきた。
腰ぐらいまで長い銀髪が、日の光りを受け輝きながらなびいていた。
「ティオ!」 おじさんがびっくりしているみたいだ。
「まあ・・・」 おばさんはあきれているようだった。
ティオと呼ばれた女の子の後ろから白い鎧を着た男の人が出てきた。180cmくらいありそうだった。鍛えられた褐色の筋肉が白く輝く鎧をさらに美しく見せていた。
(女の子は私と同じくらいの年かな。あの人は20~25ってところかな)
少女とおじさんたちは家に戻ってくるみたいだったので私は扉を開けにいった。
軽い挨拶をして、私はおじさんの隣の席に座った。向かいの席には、さっきまで白い鎧を着ていた男の人と少女が座っている。
「なおちゃん。こちらが王宮まで護衛してくれる。ハミル・ウォレットさん。王宮とオルトリアスを守る守備隊の隊長をしていている人だよ。」
「で・・・こっちがオルトリアス次期王妃様の自覚なしのティオ・エリシア姫様。」
(姫様?・・・なんで姫様がきちゃうのよ。自覚なしってそりゃ・・・・)
ミリアさんと同じように鎧を消したローブ姿のハミルさんが申し訳ないと言った風な感じでおじさんに頭を下げていた。
「おじ様、意地悪言わないでよ。私もここに用が出来たから来たのよ。」
「ほう、よほど大事な用事と思われるのだが、あいつのお菓子を食べに来ただけとは言わないでくれよ。」
「うっ・・。そうよ!おば様のお菓子は最高なの!特に出来たてのが!」
おじさんとお姫様とは思えないティオさんの会話がおかしくて私は笑いそうになっていた。
おじさんはやれやれって仕草をして台所にいるおばさんに声をかけた。
程なくおばさんは焼きたてのクッキーを持ってきてテーブルに並べた。モカがなぜかおばさんと一緒に飛んできた。
「あ・・それって精獣?」 ティオさんの口調が低くなっていた。
「そうだよ。その子の名前はモカ。このなおちゃんの精獣だ。手紙に書いたように、なおちゃんとモカの今後の対応をルミナ様に相談するために護衛をよんだのだよ。」
おじさんはそういって真剣な眼差しでモカを見ているハミルさんに合図をした。
「はい。責任をもって王宮までお連れいたします。」
ゆっくりとした力強い言葉で私のほうをみていた。
(そか、これが普通の反応なんだ。モカ、なんか可哀想だな)
私はモカをそっと抱き寄せて膝の上に座られた。
「なお~。どうしたの?」 私は何でもないよって笑顔で答えた。
「さて、時間も過ぎていくことだしそろそろ出発してもらおうかの。」
「え~。まだクッキー食べてない~」 テーブルにあるクッキーに手を伸ばすティオさん
「冗談だ。久しぶりだし少しぐらいならいいだろう。」
微笑みながらおじさんもクッキーに手を伸ばす。
私は二人のやり取りをみて、なんかいいな~って気分になった。
「おばさんのお菓子って美味しいけどそれ以上美味しいのって町にはないの?」
モカにクッキーを与えて私も負けじとクッキーを手に取ってティオさんに尋ねた。
「ない!」 きっぱりと答える。
「え~。町にいったら美味しいお菓子食べようとおもってたのに~」
「おば様よりちょっと落ちるけど、美味しいお菓子なら教えてあげるわよ。」
ティオさんは嬉しそうにクッキーを食べながら私にそういった。
クッキーを食べつくした私とティオさんをみておじさんが一言・・・
「娘は持つものじゃないな。」
私とティオさんは同時に「えー」と叫んでいた。部屋に笑い声が広がった。
ハミルさんが笑顔になっているのを私は見逃さなかった。
(いい人そうね)
おじさんとおばさんに挨拶をした私はティオさんの馬車に乗り込んだ。そこへおばさんが紙袋をもってやってきた。
「これ、あなたにお土産にしようと包んでたのよ。帰ったらルミナ様に差し上げてね。」
「はい。お母様も喜びます。また遊びにきますね。今度はケーキ焼いてね。」
袋を受け取ったティオはおば様と軽く別れの抱擁をした。
「おばさん。いって来ますね」
モカを膝の上に乗せたまま、私は開いている扉ところにいるおばさんに手を振った。
馬の嘶きと車輪の音が聞こえて私達はおじさんの家を後にした。
窓の外には緑の木々が流れ、蹄と車輪の音が響く馬車の中で、私とモカは向かいに座っている姫さまと鎧姿のナイトをみていた。
(こうやってみると、お似合いだな~付き合ってるのかな?)
「ちょっと訊いていい?」 私はお姫様に話しかけた。
「おじさんとおばさんってどんな人なの?」
「えっ?」 予想どうりの返事が返ってきた。
「私は昨日の朝、何も聞かされないまま、お祖母ちゃんがあの家に私を送ったので、ほとんどわからないの。お祖母ちゃんの親戚って事は判ったんだけど、王様のルミナ様って人や姫様のあなたと知り合いっていうのがね・・・」
姫さまはちょっと考え込んでた。
「私のお母様とおば様が遠い親戚でね、おば様も昔は銀礼の神殿にいたの。」
「神殿?」
(ああ・・昨日モカが言ってた場所か)
「王宮の隣にある月の精霊を祭ってある所なんだけど、巫女をしてたのよ。って・・あなたどこの生まれ?」 今度は姫様が首を傾げていた。
「こことは別の異世界からきたの。」
少しの沈黙がながれた。
「難しい話になりそうなので、放置します。」
姫さまは真面目な顔をして、そして笑ったので私も一緒に笑った。
「私のお母様とおば様は遠い親戚で仲のいい友達ってことね。おじ様は王宮の守備隊で活躍しててね。おじ様に私は守ってもらっていたの。」
納得した私をみて姫さまは少し考えて・・・
「あなたはおじ様と親戚?」
「いえ、おばさんのお父さんと私のお祖母ちゃんが従兄妹っていってた。」
再び沈黙が流れてた。
「よくわからないけど、たぶん私とあなたは血族って事かな?」
わたしも「かな?」って返事をした。
「じゃ・・私の事をティオって呼んでね。親戚みたいだしね。」
私たちはティオ。なお。と呼び合うことになった。
姫さまは張っていた肩を砕くかのように、座っていたソファーにもたれた。
「姫様。」 隣にいたナイトさまの声が、妹を叱っている兄のように見えた。
「姫さまって大変見たいね」
私が苦笑いしながら二人を見ているとモカが私の膝から頭に飛び乗った。
「こら。モカなんで今、頭に乗るのよ。」
「外の景色見たいです。」
「じゃ仕方がないか」
姿勢がくだけたままのティオがモカと私を面白そうにみていた。
「なおとその子は仲がいいのね。私の知ってる精獣って人を馬鹿にしているっていうのか、見下してるっていうのか、あなたたちみたいに楽しそうに会話してるのって見たことないのよね。」
「私とモカは友達だからね」
私はモカと出合ったときの気持ちと今の関係をティオに話した。
「そっか~友達か~そうよね、契約とか考えなければ・・・そうだよね。いいな~」
頭に乗っているモカを見て私はちょっと誇らしげになっていた。
私はティオに顔を近づけて小声で内緒話をした。
「ねぇ・・ハミルさんってカッコいいね。ティオの彼氏?」
突然の質問にティオはびっくりして、恥じらいが出ている顔を隠すように手で顔を触っていた。
「なにいってるのよ。彼はそんなんじゃないの。私を守ってくれてるだけ・・・」
判りやすい反応でティオが片思いしているのがわかった。
私は外の景色を真剣な目で見ている献身的なナイトさまをちらっとみて、ティオの想いに気付いてるのか、確かめたい衝動に襲われたが、我慢した。
(姫様とナイトさまの恋か~なれるといいな~)
冷静さを取り戻したティオにぐっと握った手を見せて小さな声で
「がんばれ!」
その手を包むように私の膝まで戻したティオは笑いながら答えていた。
「ちがうって」
馬車は何事もなく快速な旅を続けていた。
モカが私に外の景色が変わったことを教えてくれた。
いつの間にか馬車は大きな白い城壁の横を駆け抜けていた。
前方にある窓を見ると、王都オルトリアスの門が目前に見えてきた。
「なお。ここが王宮のある王都オルトリアス。このまま王宮までいくからね。」
キリっと座りなおしたティオは、さっきまでの女の子らしい雰囲気から一転、お姫さまオーラーを纏っていた。
馬車は門の手前で速度を落として、ゆっくりと門をくぐって行く。窓からハミルさんよりちょっと質素な鎧を着た、門番らしき騎士が直立しているのが見えた。
馬車は人々が行き交う大きな街道をゆっくりと進んでいった。
「人が見てるからね。」
私にちらっと笑いかけて姫様になったティオは外から聞こえる沢山の挨拶に窓越しから笑顔で答えていた。
モカと私は窓越しに町並みを見ていた。
「モカ。すごいね~」
石畳の道に街灯がきれいに並んでいた。
すべて白い石で作られた町は、色鮮やかな布を飾ったお店が街道沿いにずらりと並び、行き交う人々も原色に近い色の服を着こなしていたので、町は華やかな雰囲気をだしていた。
進む馬車は大通りをまっすぐ進み、目前に大きな門と壁が見えてきた。
太陽に照らされた、白い城壁を抜けると四方に悠然と立つ4つの丸い塔が印象的な城が、正面に見えていた。城の左隣には教会のような小さな神殿が立っていた。
馬車は城を囲っている堀の橋を渡って中庭まで入っていく。
「着きましたわ。私は着替えてからいきすので、ここからは、案内係がお連れいたします。」
ティオに促されて私はモカを抱きかかえ、先に馬車を降りた。
言葉なく私は周りを見渡した。
(大きすぎだって・・・重いよ・・空気がおもいよ・・・)
ティオはハミルさんと一緒に奥へと消えていった。
(ずっと一緒なのね。)
ティオがいなくなって私とモカは案内係だと紹介された女性につれられて長い廊下を歩いてた。
大きな階段を上りさらに奥へと歩いていく。
(どこまでいくんだー! 無駄におおきすぎ~)
数回廊下を曲がる。
少し前を行く案内係が扉の前にとまった。
「この部屋でお待ちください。」
大きなバルコニーが外からの光を部屋一杯に受け入れている。少し大きめの楕円のテーブルに8脚の椅子が整然と並んでいた。
部屋には誰も居なかった。
案内係の女性は扉を閉めて私はモカと二人きりになった。
「ねっ。モカすごいね。なんなのここ。ありえないよ。」
開かれたガラス扉を越えてバルコニーに出ると、眼下に広がる白い建造物の積み重なる景色を真上にある太陽が美しく輝かせている。
緩やかな風が頬を流れた。
「緊張してきたよ。モカ、どうしよう・・・」
「大丈夫。僕がついてるです。」
私の肩の横に浮かんでいるモカが頼もしかった。
「そうよね。一人じゃないよね。」
少しして、案内役の女性が扉を開けて私を呼んだ。
「準備が整いました。こちらへどうぞ。」
ひときわ大きな両扉の前に騎士が2名立っていた。ハミルさんと同じ鎧を着ていた。
私は軽く会釈して、騎士が開けてくれた扉の中へと入っていった。
高校の体育館ぐらいある広さに、同じような壇上が奥にある。
数段のゆるい階段が壇上へとつながっている。
左右には開放されたテラスがありここもまた、光あふれる部屋だった。
私は案内役の後を追いかけるように階段の手前まできた。
壇上では私をずっと見つめている女性がいる。
「お待たせしました。あなたがなおさんですね。」
壇上の中央に立っている、すらっとした白く輝くドレスに、白銀のティアラを着けた、高貴で清楚なイメージがする女性が、微笑んでいる。
左隣にはさっきとは全く違うふわっと広がったスカートにひらひらが可愛らしい、まさにお姫様ドレスを着ているティオがいる。白銀の髪飾りがとても似合っていた。
「はっ、はい。」
微笑しているティオをちらっと見た私は、緊張した声で答えていた。
(うわ~ティオ、かわいい~。あの人がティオのお母さんで王妃さんなのね。結構若く見えるけどいくつなんだろ・・・)
案内役の女性は会釈して、入って来た扉から出て行った。
部屋には3人と1匹だけになった。
抱いているモカを私はぎゅっと抱きしめ小さな声で
「モカ、緊張してきたよ~。どうしよう~。」
モカからの返事を聞く前にルミナ王妃が話を始めた。
「今朝の手紙とティオからの話でだいたいの事は判りました。異例な事なので、こちらとしてもどう対処すればいいのか悩みましたが、なおさんとモカさんは今の状態のまま、時を重ねて契約を無効にする。と、いうのでよろしいのですね?」
「はい。」 私はすこし強く発言した。
「・・・」 モカは無言。
(モカ?どうしたの?)
そっとモカを上からみたけど、動きがなかったからちょっと揺すって小さく話し掛けた。
「モカ。返事は?」
それでもモカは何も答えなかった。不安になった私はモカを抱き上げて私の方に顔を向けて見た。・・・微かに聞こえる寝息・・・
(おぃ!)
「モカぁ~」 そのまま私はおでこをモカの頭に落とした。
「いったぁ~い」
何事が起きたのか分からない顔で私を見てるモカを有無を言わさず壇上に向けた。
「あ・・寝てましたです。」 モカは手から離れ宙に浮いた。
「寝てました・・・じゃないでしょ!」 弟を叱る姉のような気分になった。
ティオが堪えきれずに笑い声を出していた。
ルミナ王妃も少し笑っているように見えた。
「ティオ。」 ルミナ王妃は声を落とすように静かに制する。
「はい。」 息を整えているティオはわたしに微笑みかけていた。
(コントじゃなんだから・・・っとにもう。)
私も姿勢を戻して壇上を見つめた。
ルミナさまは再度同じ質問をモカに問い、そしてモカは、はい。とテレながら答えた。
ルミナ王妃が一息ついて
「では精獣との契約者は、本来、国を支えるそれ相応の職についていただくのですが・・・なおさんは魔力もなさそうですし、契約による宝力もありませんから異世界へ戻るまではティオの客人としてあなたとモカさんを護衛いたします。っという事でよろしいですか?」
私とモカは背筋を伸ばして、はい。と返事をした。
(そうか・・モカを守ってくれるんだ。)
「モカ、よかったね」
「はい。」
緊張が解けたモカとわたしはルミナ王妃に頭を下げた。
私をずっとみているルミナ王妃はすこし寂しそうに見えた。
(ん?・・気のせいかな)
「改めてよろしくね!」 今にも笑いそうな顔で階段を下りてくるティオがいた。
「ロレン夫妻にはこちらから伝えときますから、なおさんはゆっくりとしていってくださいね。私はこれから銀礼の神殿に行かなくてはならないので、夜の食事の時に色々な話を聞かせてくださいね。」
初めて会ったときの笑顔でルミナ王妃は壇上右奥へと歩いていった。
私の手を取ったティオが急かすように私を引っ張った。
「なお、こっちよ」
私はモカが付いて来るのを確認して、ティオに連れられてルミナさまが消えていった右奥の扉から部屋をでた。
また私の頭に乗っかったモカを楽しそうに見ているティオが思い出し笑いをしていた。
「お母様との謁見で寝ちゃうなんて、初めてみたよ。」
「ホント、びっくりしたよ。どうしたのかと焦ったのよ。」
頭にいるモカを問い詰めてみた。
「なんで寝たのよ。」
「なおの腕の中が暖かくて、つい・・・です。」
頭にいるモカが小さくなっているのが見なくても判った。
「お母様が部屋に守備兵たちを入れなかったのが、わかったような気がする。」
「あ・・いつもは、やっぱいるんだ。そうだよね。なんか足りないって思ってのよね。」
柱と屋根だけの通路に出た私たちに涼しい風と柔らかい光が迎えてくれた。
「こっちね。」
少し早足なティオが十字路を曲がったので付いていった。
「ねぇ、ティオってずっと城の中で暮らしているの?」
(お姫様って大変そう・・・)
「ほとんどそうね。銀礼の神殿で巫女の勉強する以外は、でもたまにハミルに頼んで町に行ったりするのよ。」
「そっか・・・」
私はお姫様っていう生活が私の知っている映画や物語と同じだったのでちょっと寂しくなった。
「あっ。明日は町に行きましょうか。どこか行きたい所ある?ドレス屋に帽子屋に靴屋、それに菓子屋もいかないとね。」
「え・・うん。そうね。行きたいね!」
(ティオの事考えてたのに、なんか催促してるみたいになって気を使わしてしまった。)
「どこ、行こうかな~。モカはどこ行きたい?」
私は元気な声でモカに訊いた。
「クッキー、また食べたいです。」
嬉しそうに飛び上がったモカに私たちは笑っていた。
螺旋階段が上へと繋がっていく。
城の最上階近い場所まで来たようで長い廊下はなく階段を中心に左右に伸びる通路に扉が数箇所あり、その一番奥の扉には先ほどと同じように兵士が立っていた。
白い扉の前に止まったティオに合わして兵士が扉を押した。
(あ・・ハミルさんだ。)
扉を押したハミルさんに私は会釈した。
「さ・・私の部屋よ。はいって。」
開かれた扉の奥にはフランスのどっかのお姫様そのままって感じの、カーテンのついたベットと彫刻の綺麗な家具があった。
小さな窓が3つあり薄いピンクのカーテンが風に揺られていた。
私は窓側にある二人用ソファーに腰掛けた。モカも習って私の隣に座った。
「疲れたでしょ。 ちょっとまっててね着替えてくるから」
ティオが部屋にあるもう一つのドアを軽くノックすると、扉を開けた女性がティオに頭を下げていた。ティオは奥へと入っていった。
(メイドさんかな・・隣の部屋にずっと待っているんだ。外にはハミルさんもずっといるようだし、やっぱすごいところだな~)
「ね、モカ。私たちって物凄く場違いだよね。」
「そですね。がんばります。」
「なにをがんばるのよ。」
モカの頭を指で突付いて、じゃれていたら、ティオが入っていった部屋からさっきのメイドさんがポットとカップを皿に乗せてソファーの前にあるテーブルに置いた。
「先にお飲みください。との事です。着替えがもう少しで済みますのでしばらくお待ちください。」
並べたカップにお茶を注いだメイドさんに続いて同じ服を着た別のメイドさんがお茶菓子を持ってやってきた。
「モカ、こっちへおいで」
膝の上にモカを座らせて私はメイドさんたちが戻っていったのを確認してから目の前のお菓子を口に運んだ。
「なお~。ぼくも~」
あたしの方を見て訴えるモカ。
「慌てないの。取ってあげるから。」
モカにお菓子を渡して私はお昼の時間がとうに過ぎている事に気付いた。
「モカ、お昼ご飯まだだったね。お腹空いたね~。」
「はい。おなかすいたです。」
お菓子を食べながら私とモカは笑っていた。
「これじゃ足りないね。」
「です。」
モカをテーブルに置いて、お茶を飲んだ私は窓の外を覗いて見た。
海が見えた。青く波が日の光できらきらと輝いている。大きな船や小さな船が見える。
(エーゲ海の港みたい~)
影が一瞬、光を遮った。私は太陽の方を眩しさに耐えながら見上げる。
(鳥?・・・あっ竜だ。)
「モカ、竜が飛んでるよ。ミリアかな?」
竜はそのまま降下してきた。
城の3階あたりにある中庭の庭園に降りたのが見えた。赤い鎧の人が迎えられた城の守衛兵についていった。
「よく判らなかったわ・・・」
私のところに飛んできたモカを窓の枠に立たせた。
「ほら、あっちに海がみえるわよ。」
「僕、海って初めてみました~聞いてたとおりおっきい~。」
「じゃ、明日ちょっと寄って貰おうよ。」
窓の外を二人で眺めていると扉の音が聞こえてティオが戻ってきた。
おじさん宅に来ていた時の服とほとんど変わらない、すっきりとした白いドレスになっていた。
「何見てるの?」
「海をね。モカがまだ海に行った事ないって言ってたの。明日ちょっと見せてあげたいんだけどいい?。」
「いいわよ。」
ティオの後ろからメイドさんが3名ほど入ってきた。テーブルの片付けと新しいお茶とケーキを並べていた。
(それぞれ担当してるんだ・・・いったい何人いるんだ?)
一人用の肘掛の付いたソファーに座ったティオ。
「お腹空いたね。このケーキは外のケーキ屋さんから買ってるのよ。すごく美味しいの。」
モカが私の頭を飛び越えてソファーまで飛んでいった。
「こら。」
私もあまい匂いに釣られてソファーに座った。モカが当たり前のように私の膝の上に乗った。
「さっきお菓子を貰ったとき、お腹が空いてるの思い出したの。モカもね。」
色々なケーキが皿の上に並んでいた。
ティオがケーキを小皿に取り分けたのみてふと聞いてみた。
「お昼ご飯って食べないの?」
「え・・・あっ。なおの世界では昼も食事とるのね。こっちはお昼はお菓子とかケーキとかを食べるのよ。」
「そうなんだ。・・・あれ?昨日おじさんのところで、お昼ご飯あったけど・・・そっか、私に合わしてくれたんだ。」
「なお~。ぼく赤いのが乗ってるのが食べてみたいです。」
並んでいるケーキの中で、丸い小さなケーキに苺が5個のっているのがあった。
(それ、私も欲しかったけど・・・)
私は仕方が無いので別のケーキを選ぶことにして、小皿に苺ケーキを取ってモカの前に置いた。
「って・・それどうやって食べるの?」
「なお、切ってです。」 私を見上げるモカ。
(やっぱりかい!)
「小さいナイフってある?」
「まっててね。今、頼むね。」
お皿の真ん中に置いてある飾りのような取っ手を掴んだと思ったら、高い音色の鐘の音が聞こえた。
「それってベルだったのね。」
私はチョコムースと苺ムースが6層交互になってるケーキを取った。
メイドさんが扉を開けて、一歩部屋に入ったところで立ち止まった。
「小さいナイフとフォークを持ってきて。」
一礼をしたメイドさんがすぐにもってきてくれた。
「ありがとう。ほらモカも」
私は膝の上のモカの頭を撫でて、メイドさんにお礼をした。
ちょっとびっくりしたメイドさんが笑顔を返して部屋を後にした。
私はモカの苺やケーキを小さく切るのと自分のケーキを食べるので忙しく無言になっていた。
モカも食べることに夢中になっていた。
「なお。その腰に付いてるのってファルトカード?」
モカがこぼしたケーキを小皿の脇に置いていた私は、顔を上げてティオに返事をした。
「ええ・・お祖母ちゃんから貰ったんだ。使い方しらないんだけど、ここにくれば解るっておじさんが言ってた。」
「誰かに教えてもらうってことなのかな?」
モカのケーキを切りながらティオに訊いた。
お茶を飲みながら笑みがこぼれたティオが答えてくれた。
「おじ様ったら、私を子供あつかいして。もう・・」
「私が教えるって事になるのよね。ファルトカード好きなわ・た・し・がね。」
なんとなくおじさんが言いたかった事が判って私も思わず笑ってしまった。
10個ほどあったケーキが綺麗に無くなり満腹になった私とモカはゆっくりと深呼吸していた。
ティオがベルを鳴らすとメイドさんたちが来てテーブルを片付けにやってきた。
「さて・・それじゃ!私のカード持ってくるね。」
席を立ったティオはベットの横にある花の彫刻と銀の装飾が綺麗な白いクローゼットみたいな家具からカードケースを持ってきた。
テーブルに置かれたそのケースはいくつもの宝石が装飾されていた。
「うわ~。すごく綺麗。私もそんなケースがいいな~」
ベルトのホルダーからカードケースをテーブルに置いた私は細かな模様と装飾がされている銀製のケースとティオのケースとを見比べていた。
「なお~、なおのも綺麗です。」
「そうよ。なおのも特別製作品みたいじゃない。初めて見たわ。ここまでの銀細工ってそうそうできないのよ。」
モカとティオに言われて私はちょっと嬉しくなった。
手にとってじっくりとケースを見ているティオが不思議そうな顔と嬉しそうな顔をしながら私の胸元に差し出してきた。
「開けれるのよね?・・・中にどんなカード入ってるの?ねっ見せて。」
子供が買ってきたおもちゃの箱を開けてと、強請るみたいにティオに急かされた。
ケースを開けた私はすべてのカードを束のままティオに渡す。
さっきまでケーキが並んでいたテーブルに、ティオは1枚ずつ並べていった。同じ絵柄のカードは重ねて置いていく。
「すごいわね・・・」
ティオの顔が真剣になっていた。
その顔を見て私は、このカードも特別なものなのだと感じた。
並べ終わったティオが3枚のカードを手に取って私に見せてきた。
「これが基盤のカードといって、扱える属性や、自軍にかかる効果などが、これできまるのだけど・・・持ってみて」
ティオが1枚、渡してきたので私は手にとった。
「あ・・・読める。」
お祖母ちゃんからもらったときには、絵柄なっている文字みたいなものが読めなかったけど、手に持った瞬間にカードの名前と効果が直接理解できていた。
「リミナスの天空城・・・月3闇3、ファル数20・・・月属・闇属・精霊族に・・・攻撃力+3守備力+3の効果。・・・飛行タイプのみ攻撃行動が出来る。」
ティオが軽く頷いてもう一枚テーブルからとって私に渡してきた。
「銀竜ナセラ 召還ファル数、月3無3.。攻撃力6・防御力8。飛行、月属 竜族で・・・月属に攻撃力+1守備力+1の効果。」
私は頭に入ってきた情報を声に出して答えた。
「この名前入りのカードは手札に1枚しか入れないルールなの。」
私はそこまで聞いて自分が今までやってきたカードゲームと同じことに気付いた。
テーブルにあるカードの枠が黄色になってるやつを指差してティオに解いた。
「この黄色い枠のカードは魔法カードだよね。」
「ええ、そうよ。・・・知ってるの?」
私は自分の世界に同じようなカードゲームがあってそのトーナメントの上位に入るくらい遊んでいる事を話した。
「でも・・なんで読めるようになったんだろう・・・」
私は手に持っている空に浮かぶ城の絵柄のカードと銀色の竜の絵柄を眺めながら呟いた。
「それは・・・たぶんこっちの世界に来たからじゃないのかな?同じ言葉を話してるのって・・・偶然じゃないと思うし。」
「そうよね。・・・お祖母ちゃんの魔法かな?・・・便利ね。ほんと・・」
改めて私はおばあちゃんの存在を大きく感じた。
「まったく。」
ティオの返事が私の思いをつかみ取っていた。
声を出して二人は笑っていた。
ティオがカードをテーブルに戻した。
「なおの世界のカードってただの紙みたいだけど、このカードには魔力が入っているの。」
私はティオの話を静かに聞いていた。
「カードを作る専門の魔術師がいるのよ。封印士と呼んでるの。その封印士が実在する場所や物、人、精霊、竜などの前にいってその物が出している魔力を封じこめてカードにするの。」
ティオがテーブルに1枚しかない名前入りカードたちを指している。
「とくに、このクラスは特級と言われ、世界に数枚しかないのよ。高い魔力を封印する力をもった封印士が限られているし、対象物に会うのすら難しいから。それにもう・・いないのよ。」
「いないって?」
私は言葉の意味を確認したくて聞いてみた。
「上級クラスまでのカードを作れる封印士はいるのだけど、特級を作れる人がもういないの。」
ティオはテーブルの端に置いてあった、カードケースから一枚のカードを出してテーブルに置いた。
「私の特級カード、ルシア様よ。月の王宮を建てた人で銀の時代と呼ばれる最初の王妃さま。」
カードには、城のテラスに立つ女性が描いてあった。
ティオに似ていると思った。
「で・・・なおのその天空城カード。と、この2枚の基盤カード・・・リミナスの聖殿。と、リミナスの月下舞踏会。」
「月光の王妃。銀影の魔道士。とか言われるリミナス様。実際に見たのは初めてよ。ルシア様と同じ時代の人らしいけど、伝説みたいになってる人。」
「ふぇ~。すごいカードなんだぁ~」
私は思わず、ため息をつきながら声を出していた。
「わたしもここまで、すごいカードが出てくるとはおもってみなかったよ。なおのお祖母さんって、リミナス様の縁のある人か、もしくは親族になるひとなのかな?」
二人の思案する沈黙が流れた。
「まあ・・難しい話はこれくらいにして、私のカードと勝負しましょうよ。」
ティオは自分のカードをデッキに戻して、私のカードをまとめ始めた。
「ルールの確認してみましょうか。」
基盤カードを1枚セット。駒カードと魔法カードをシャッフルして裏向きでセット。最初は7枚手札
に取る。
両陣とも手札から駒カードを場に置く。(召還総ファル数が基盤ファル数超えないこと)
戦闘ターン・攻撃側が駒による攻撃指定を決める。
守備側の駒が攻撃表示なら攻撃力の数値、守備表示なら守備力の数値で判定。
攻撃側(攻撃力)-守備側(駒の表示でどちらか)=0以下になれば墓地に落ちる。
攻撃側の駒の行動は一回のみ。(特殊行動もその時1回のみ使用できる)
魔法カードは基盤の残りファル数以下なら使用可能で攻撃側は、攻撃指定前1回
のみ、守備側は、攻撃指定後1回のみ使用出来る。
駒が墓地に落ちた時ライフポイントが維持ファル数分なくなる。最初は20ポイントあ
り、0になったら負けとなる。
場に駒が居なければ直接攻撃ができライフポイントを1減らすことができる。
攻撃側の駒の行動がすべて終わるか、指揮者が終了の合図をすればターン終了。
補充ターン・基盤ファル数を最大値まで回復。
手持ちカードを最大5枚になるまで補充できる。
召還ターン・場にある駒の維持ファルを消費することで駒を継続させることができる。
継続させない駒を墓地に落とす。(ライフポイントに影響しない)
残りの基盤ファル数に従って新たに手札から召還できる。
攻守交替で戦闘ターンに戻る。
「だいたいの流れはこんな感じになるけど・・なおの知ってるルールと同じかな?」
受け取った私のカードデッキをテーブルに置いてわたしは頷いた。
「ええ。ほんと変わらないの。びっくりするぐらい」
私はソファーの横で暇そうに見ているモカをひざの上に置いて大きく背伸びした。
「モカ、まっててね。私の実力をみせてあげる。」
(やるからには勝つぞ~)
モカは「はいです。」 と頷いた。
私はテーブルにカードを配置しようと、基盤カード「リミナスの天空城」を置いた。
「まって、ここでするのもいいけど折角だから、この世界のやり方でやらない?」
手を止めた私は、ティオに訊ねた。
「ここのやり方?」
「そうよ。このカードを実態化する石版があるのよ。それを使って試合するの。練習用に持ってるからそれを使ってやりましょうよ。」
ティオは立ち上がってメイドさんたちのいる扉をノックした。
扉を開けたメイドさんに用件を伝え、テーブルに戻ってきた。
程なく扉が開き、食事を運ぶワゴンみたいなものをメイドさんが押して入ってきた。
私はモカをソファーに置いて、部屋の窓側の広いところに置かれたそのワゴンを見にいった。
「ぼくもみるです。 」
モカがふわっと飛んで私を肩あたりをついてきた。
ワゴンの上にはカードの裏と同じ絵柄が描かれている。石版があった。
ティオがカードケースを持って、ワゴンとほぼ同じ大きさの石版の前に立った。
「この上にカードをおくと実態化するのよ。」
カードケースからカードの束を取り出して、基盤カードを石版の上に置いた。
カードの絵柄の上に同じ絵柄の城が小さく浮かんでいた。
「あっ・・かわいい~。」
ティオが小さく笑った。
「ね。こんな感じ。小さいから可愛いけど、公式用の大きな石版だともっと凄いよ。」
「なおも置いてみてよ。」
モカがとなりで嬉しそうにしていた。
私は逸る気持ちで自分のカードデッキをテーブルから取ってきた。
『リミナスの天空城』を置いた。
絵柄と同じ、空に浮かぶ城がふわっと現れた。
「じゃあ、駒も並べましょう。」
手に取った7枚から二人それぞれ駒を召還した。
石版の上には実態化した兵士や竜、魔法使いに妖精・・・チェスの駒みたいに見えた。
「なおの先行でいいよ。手加減なしでやりましょう。」
ティオは真剣な顔をしていたけど、嬉しそうだった。
私はひとつ、深呼吸をいれて、対峙するティオの駒たちを観察した。
(戦士系メインかな?。数値アップ系のカードデッキのようね)
「よし。」
私は小さく気合入れて、指揮を始めた。
実態化した駒たちは生きてるような動きをしていた。剣を振ったり、翼を動かしたり魔法を唱えたりと、見ているだけでも楽しかった。
ティオの戦略は、思ったとおり駒の数値アップを基本としていた。
私のは、月と闇の2色デッキだけど、基本的には数値アップ戦略のデッキなので駒で押していく物理攻撃主体の攻防が繰り広がられていた。
15分ほどで勝負がついた。
勝ったのは私。僅差の結果だった。
「ん~苦戦したー!」 私は大きく背伸びして体の硬直をほぐした。
「まけたー!」 ティオも手を伸ばして深呼吸していた。
「面白かった~。」
「たのしかった~。」
二人ほぼ同時に声をだして、そして笑顔になっていた。
「なお~凄かったね~。」
モカが私の頭にちょこんと乗ってきた。
「駒が実際に動いたりするのがいいね。」
私はこの石版とこっちのカードが気に入ってしまった。
「でしょ。5日後に月礼祭っていう祭りがあって闘技場でファルトカードの親善試合があるの。私が月の民、代表で出るから見に来てね。」
カードをケースに閉まってティオは窓の外を指差した。
「あそこよ。実態化がほぼ実物で再現されるのよ。さっきの竜とか精獣とか凄いわよ。」
指す先にはサッカーコロシアムのようなすり鉢状の建造物が見えていた。
「私的にはこれでも十分楽しかったよ。またしようよ。」
私もカードをケースに入れて、腰のホルダに閉った。
「今から銀礼の神殿に行かなくてはならないんだけど、なおもくる? 日が沈むまえには帰ってくるけど。」
「いってみたいけど・・ティオはそこでなにするの?」
「祭司になるための巫女修行よ。なおは神殿の見学してみてはどう?。」
「じゃ・・ここにいても暇だし、いく。」
私は城の中庭にいた竜がまだ居るのを何気に確認して、窓から離れた。
「そうね。」 ティオが私の服を見ていた。
「着替えましょう。」
ティオから予想していた言葉が返ってきた。
(やっぱり・・・)
扉を叩いたティオにつれられて私は隣の部屋へと入っていった。モカもそのまま頭の上にいる。
扉を開けてくれたメイドさんと奥に2人のメイドさんいた。
(3人だったのか。)
「なににしようかな。」
沢山のドレスや帽子、靴が並んでいる場所に私はティオに連れられていった。
(ヒラヒラしたのって苦手なんだよね~。)
「ドレスってあまり着ないから、動きやすいのがいいな。」
私はドレスを選んでいるティオに声をかけた。
「判ったわ。じゃここらあたりでいいかしら。」
ひとつはティオと同じような白いすっきりとしたスカートのドレス。
(胸元が開きすぎなんだよね・・・)
ふたつめはチャイナドレスのようなスリットがはいった薄い黄色のドレス。
(動きやすそうだけど・・・スリットが・・・)
みっつめは上下に分かれた白いドレス。
(まあこれならいいかな?)
「これにするね。」
みっつめのドレスを指差して私は着替えることにた。
「着替えはメイドさんに手伝ってもらってね。私は部屋でまってるから、モカちゃんもこっちで待ってましょ。」
ティオに呼ばれてモカは私の頭から扉へと飛んでいった。
「なお~。まってるです。」
扉から二人が出ていったのを確認したメイドさんが扉を閉めた。
(なんかこわい・・・)
何事もなく、着替えが終わった。
「なお、似合ってる。けど・・・それ、付けていくの?」
戻ってきた私の、腰にあるベルトを見てティオが訊いてきた。
「肌身離さず持ってなさいっておじさんがいってたから。」
モカがソファーのところでゴロゴロしているのが気になった。
「モカ? なにしてるの?」
「ん? 。なにもです。」
モカはふわっと飛び上がり私の頭に戻ってきた。
ティオがちょっと笑っていた。
「行きましょうか。」
私はティオの後を付いて廊下へと出た。
「銀礼にいきますね。なおさんも一緒です。」
ティオは扉の外にいたハミルさんに声をかけた。
私はハミルさんに会釈した。
「はい。」
ハミルさんはその一言だけ言ってティオの後ろについていた。
(会話とかあまりしないのかな?・・・できないのかな?)
階段を下って中庭の通路に出た。
(まだ竜いるかな?)
すぐに竜が視界に入ってきた。
(ミリアさんの竜によく似ているけど・・・竜ってみんな同じなのかな?)
私は竜を横目でみながらティオの後をついていった。
城の中を横断するような形で私たちは神殿へと続く庭園にでた。
色鮮やかな花を並べた庭園には鳥の囀りや風になびく木々の音がゆっくりと流れていた。
神殿へ伸びる道の向こうから赤い鎧をきた人が歩いてくる。
(さっきの竜騎士だ。ミリアかな?)
隣にいたハミルさんの動きが変わったような気がした。
赤い竜騎士は兜を付けているので誰なのか判らなかった。
私は隣をすれ違う竜騎士を目で追っていた。
「なお!」
私の視線に気付いた竜騎士が突然、声をかけてきた。
「あ!ミリア。」
聞き覚えのある声で私はミリアだと確認した。
ティオとハミルさんがちょとびっくりしたようだったけど、私たちのために立ち止まってくれた。
「やっぱりここに来てたのね。」
兜を脱いだミリアはルミナ王妃に用があってきたこと、昨日のなおの事を話すのが遅れた事、私の服が変わっていたので気付くのが遅れた事、を話してくれた。
「なおの頭にモカが乗っている事に気が付けば・・・」
私とミリアとモカはその場で笑っていた。
少し離れたティオとハミルさんにミリアが会釈している。
「まだお使いの途中だから、行くね。」
「はい。またね。」
駆け出すような勢いで城へと歩いていったミリアと別れて、私はティオの隣に歩いていった。
「お待たせ。ごめんね。」
「お知り合いだったのね。」
ティオの声になぜか重いものが感じ取れた。
「ええ。昨日、助けてもらって友達になったの。」
「あ。そうなんだ。」
(嫌いな人なのかな?)
「ティオはミリアとは知り合いじゃないの?おじさんとは知り合い同士だけど。」
ティオが困った顔をしている。
「知り合いって言えばそうなるかな。おじさんの家で何度か一緒になったことあるし、」
ティオはどこか遠くを見ているような視線で歩いていた。
「民族の色の相性がね・・・火は太陽と接属で武力を優先する民で・・・なんか合わないのよね。」
前を歩くティオがくるっと回って私をみた。
「だから、おじ様の家ではミリアさんとあまり喋らなかったの。」
「そうなんだ。」
私は後ろ向きで歩くティオの横を跳ねるように追い抜いた。
「相性って大事だけど、ティオもミリアも私の大事な友達よ。だから私が保証するわ。ティオとミリアも仲良くなれるよ。」
庭園の門がすぐそこに見えてきた。神殿までもうすぐだ。
一呼吸置いて私は頭の上のモカを胸の前に抱き寄せた。
早足でティオが私を追いかけてきた。
「そうね。」
明るい声でティオが笑っている。
見上げるとミリアの竜が青い空を悠々と飛んでいる。
私は竜に向かって大きく手を振った。
隣のティオも空を見上げていた。
「なお~。」
力無いモカの声がした。
「ねむいです・・・」
「・・・」
ティオと私の笑い声が風の音に流されていった。
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