銀の月

紅花翁草

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 今夜は来賓者達を招いての晩餐会が城で行われる。出席する私は、ティオと同じようなドレスに着替えて部屋で待っていた。
 晩餐会が終わると、月礼祭全ての行事が終わり、明日からはいつもの日常に戻る。
「もうすぐ、帰るんだね。」
 モカを撫でながら私は色々な事が浮かんでは消えていく。
「はい。次は、なおの世界です。」
「そっか、うん。そうだね。モカと一緒の日本の生活だ。」
 私は流れる日常だった日々に戻るのではなく、モカと新しい日常を体験することの楽しみに嬉しさを感じた。


 ティオとハミルさんに連れられて、私とモカは大きな広間に来ていた。晩餐会の会場には200人ほどの人達がすでに集まっている。
 純白で綺麗なドレスを着ているお母さんが、今から挨拶を始めるところだった。
 私はティオの隣でお母さんの言葉を聞きながら、でも意識はルミナ王妃としての母を、目に焼き付けていた。

 ルミナ王妃の挨拶は一年の感謝と、平穏を守る者達への変わらぬ願いで締められた。
 拍手の中、新たに発せられた言葉に私は耳を疑うほどの驚きが起こる。
「皆様、今夜は火の民から、新しく契約者になった方をご紹介します。」
 壇上奥の扉が開かれると、真っ赤なドレスの女性がルミナ王妃の隣まで歩いてくる。
 輝くピンクゴールドの髪に金色の瞳、火の民の象徴が全く無くなったその姿でも、なお達は、すぐに気が付いた。
 小さな熊のぬいぐるみみたいな精獣を連れたミリアだった。

 簡素な紹介で終わったティオの姿を見た来賓者達の態度は、和やかだった会場の空気を一変させていた。
 「契約者は国のバランスを揺るがす存在でもあり、その地位と権力は絶対主である。」とルミナ王妃から聞かされていた私は、今この時まで、忘れていたのを思い出していた。
「ミリアの為って思っていた事だったのに、本当にミリアの為に・・・」
 私の呟きにティオが答えてくれた。
「大丈夫よ。ティオさんが決めた事。あの人はそれを承知で選んだ事だと、知っているから。だから、なおは今まで通り、ミリアの友人でいればいいのよ。」
 私の手を握るティオの熱が私に伝わってくる。
「わたしもミリアさんの旧友として変らないから。いえ、違うわね。出会った頃の仲に戻るの。」
 
「ティオからそんな言葉が聴けるなんてな。」
後ろから聞き覚えのある声がして、振り向くとセシアさんが威圧感のある体を綺麗なドレスで包み込んでいた。
「わたしも、セシアさんのドレス姿が見れるなんて思いもしませんでしたわ。」
 ティオの返事が、照れ隠しと皮肉が混じった返し言葉だと私にも判り、二人の顔は仲のいい友人に会った顔、そのままだった。

 招待客達を鎮めるように、ルミナ王妃はゆっくりと丁寧な言葉でミリアを紹介し始めた。
「火竜エンデュ様に認められ、光の精獣『フィール』様との契約で『炎竜姫』の称号を与えられたミリア・ホリッツさんです。」
 一歩前に出たミリアは、凛とした姿を見せていた。
「各民の代表が集まっているこの場で、ご紹介させていただき感謝します。本来ならば、公式な場でのお披露目とするところですが、先日の王都襲撃の際に沢山の方のお力添えで私は、契約者となることができました。その方達に何よりもご報告がしたくて、ルミナ様にお願いして、少しの時間を頂きました。」
 一礼をするミリアを会場の全ての人が静かに見つめている。
「この恩は授かった力でお返しします。ありがとうございました。」
 呆気に囚われる私は、会場の拍手の音で意識を戻した。そしてお祖母ちゃんが言っていた事を思い出す。
「ねえ、モカ。あの精獣の子って知り合い?」
「はいです。僕の事を見てくれてた友達だった子です。」
 その言葉は、少しの悲しみのようなものを感じていた。
「喧嘩したの?」
「違うです。黙って精霊界を出たから・・・」
 私はモカの頭を撫でる。
「そっか、じゃあ、あの子はまだ、モカの事を友達だと思っているんじゃないかな。」
 ミリアの傍から、こっちを見ている姿は、今すぐにでも飛んで行きたい。そんな雰囲気を私は感じていた。

 壇上に近づく一人の男性に会場の視線が移った。
「ルミナ王妃様、新たな契約者の紹介がありましたが、何故もう一人の契約者の素性は語らないのですか?」
 銀髪で細身、50代くらい。いかにも魔法使いって風貌のその人は、私を見ている。
 ティオが男性の視線の盾になるように私の前に出る。
 溜まっていた感情を浴びせるような視線が会場中から私に向けられているのを感じた。

「その子は契約者ではありません。精獣『モカ』様と共に生きることを選んだ少女です。」
 ルミナ王妃の声が会場に響く。
「ティオの大切な友人、そしてエリシア家の家族としての地位を授けました、月乃宮なおさんです。公の場での紹介は、必要ありません。」
 優しく、そして強固な意思を乗せた言葉だった。
 波が引くように会場の視線が私から消えていく。
「お母様の言葉を訳すとね、なおは王族と同位だから、それ以上の無礼はどうなるか判るわよね。って事。」
 ティオが小声で私に笑いながら伝えてくれた。
 内容はティオが教えてくれたけど、その前から、お母さんの言葉は温かく、すごく守ってくれているのが判って嬉しかった。
 私はティオの言葉で笑顔に戻ることができた。

 ルミナ王妃の合図で、吹奏楽の演奏が始まった。会場は宴へと移っていく。

 ミリアが壇上から降りると、真っ先に火の民達が囲んでいた。
 尊敬の目や感激の涙を流す人、ミリアはその人達に満面の笑みで応えていた。
「ミリアさんと話せるのはもう少し後になりそうね。」
 ティオが私の手を引く。
「セシアさんもご一緒にどうですか。」
「すまない、少し挨拶周りだけ済ませてくる。また後でな。」
 セシアさんと分かれた私達は会場端のテーブルに座った。メイドが飲み物とお菓子を運んできたので、いつものように選んでいく。
 お菓子コンクールで賞を取った品が、この晩餐会のお茶菓子として出されているとメイドが教えてくれた。
 来賓客達が会場に出向いて食するなんて事が殆どないので、晩餐会のひとつの趣向になっているとティオが付け足す。

「ティオは今から挨拶周り、しなくていいの?」
 紅茶だけ頼んだティオだったので、今から予定があるのかと思った。
「寄って来ないように、なおと一緒にいるのよ。流石に皇女として呼ばれるかも知れないけどね。」
 小声で話すティオは茶化すような笑顔だった。
「あと、あまりお菓子食べないようにね。この後にちゃんとした食事があるんだから。」
 私はテーブルの上に並べたれた6種ほどのケーキ達を確認した。
「そういうのは、頼む前に言ってよ。もう・・・ティオもどれか食べてよ。」
「じゃあ、一つ頂くわね。あと、一つはミリアさんが食べてくれるかもよ。」
 そう言ったティオの言葉で、私はすぐ後ろまで歩いて来ているミリアに気付いた。

 私はテーブルに座っていたモカを抱き寄せて、立ち上がる。
「ミリア、おめでとう。ほんとに良かった。いきなりでビックリもしたけど、会えて嬉しい。」
「さっきも言ったけど、今の私があるのは、なお達のお蔭だから、嬉しいのは私もよ。」
 見た目以上に輝いた笑顔のミリアを見た私は、改めて安堵の気持ちが溢れてくる。
「あとね、」
 私はテーブルのケーキ達をミリアに見せる。
「頼みすぎたから、1個食べてくれるともっと嬉しいんだけど。」
 場違いな笑い声を抑えるのに必死になってるティオとミリアだった。

 席に着いたミリアは、メイドから紅茶を受け取る。
「フィールも一緒に飲む?」
 小さな熊のぬいぐるみみたいな精獣は、ミリアの肩の上あたりを浮遊している。
「いえ、必要ないと何度も言っていますよね。」
 どこか大人めいたフィールに私はモカと、いつも通りの食事を見せた。
「フィールちゃんはモカに会いに来てくれたのよね。モカと一緒にケーキ食べてみない?美味しいよ。」
 モカは少し緊張した声で私の言葉に続いた。
「名前、モカになったです。フィールとケーキ一緒に食べたいです。」
 モカの精一杯の謝罪だと私は思った。
 フィールの困ったような、嬉しさを隠しているような、ソワソワしている感じが私に伝わってくる。
 私はミリアとの間にモカが来るように席をずらし、フィールと並んでテーブルに座れるようにした。
 照れているのか、黙って待っているモカの隣に、フィールが来る。
「人間と同じように食事するなんて、聞いた事ないですわ。でも、モカの頼みですから、受け入れますわ。」
 言葉とは違った、嬉しそうな態度のフィールを見た私達3人は、お互いに微笑ましさを感じていた。

 上手にフォークを使ってケーキを食べるフィールは、和やかな笑顔を見せている。
「美味しいですわ。これが食事というものだったのですね。」
 食べやすいように小さく切ったケーキを、モカに食べさせている私はフィールの視線に気づく。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。」
 手を止めて、フィールに挨拶をする。
「モカの友達になって、不本意だけど、仮の契約者になってしまった、月乃宮なおです。ミリアとも友人なの。よろしくね。」
 フィールの確かめるような視線の間があった。
「よろしくですわ。」
 フィールは隣のモカに視線を移す。
「モカ、今は楽しいですか?・・・聞かなくても見れば判りますわね。」
「あなたが契約者で私は安心しました。モカの事、お願いします。」
 私は、なぜか深くお辞儀をして「はい。」と返事をした。
 もちろん、ティオとミリアの含み笑いが、起きていた事をすぐに知った。


 セシアさんとリッサさんが私達の席に来る。
「ミリア、久しいな。元気すぎる姿で安心したよ。」
 セシアさんの言葉は、いつも温かい感情で溢れていた。
 ミリアは席を立ち、セシアとリッサに頭を下げる。
「セシアありがと、またみんなと揃う日が来るなんて、ほんと嬉しい。」

 集まった友人達を見回すミリア。
「色々話したい事が沢山あるの。ここだと話せない事ばかりなので、あとでまた会えないかな?」
 ミリアの誘いにティオがすぐに答える。
「それじゃ、部屋を準備しますね。」



 晩餐の部屋は別のところにあって、私達はそれぞれの席に座ってルミナ王妃の乾杯の挨拶を聴いていた。
 私は壇上のルミナ王妃と同じ長いテーブルの席に座っていた。それは、王族としての地位を示す場所なのは考えるまでも無かった。
 目の前には、丸いテーブルが沢山並んでいて、大きな結婚式の会場みたいだった。
 会場は静粛な雰囲気の中、私は出されるコース料理を静かに口に運んでいた。

 モカはティオが準備してくれた別室でお留守番になっていた。ミリアも晩餐に出席だから、フィールちゃんと一緒に居る。
(ふたりでどんな話してるのかな~。モカ達にも食べさせたかったな。)
 
 静かに晩餐の時間が過ぎていった。

 
 フィールはモカに少し強い口調で話していた。
「仮契約ってどういう事ですの。アンリエール様はそんな事言ってなかったですわ。」
「だって、僕はまだ子供だって・・・」
「それは、人間の思い違いですわ。モカは十分すぎるほどの力を持っているのよ。そうじゃなければ精霊界から出ることなんて出来ないんだから。」
 フィールは考えてみた。
 どうして、契約の魔法が発動しなかったのか。仮契約っていう曖昧な状態を維持しているのか。
(なおさんのほうに、何か・・・あるのは確かってこと・・・なのでしょうね。)
 モカは小さく呟いてるフィールをじっと、待っている。
「まあ、それは今は置いときますわ。さっき言った、異世界に行くって本当なのです?」
 モカは「うん」と頷く。
「でも、またこっちに来るってなおは言ってたです。こっちで暮らしたいって言ってたです。」
 フィールは落ち着きを取り戻してモカの頭を撫でた。
「そうね。モカが幸せなのは確かですわ。私は心配だったのよ。でも、その心配は大丈夫だと判りましたわ。」
 ソファのモカの横に並んで座るフィールは寄り添うようにもたれた。
「はいです。なおは僕を見てくれてます。凄く楽しいです。」
「安心しましたわ。」
 精霊界に居た時と同じように、寄り添って寝ていくモカをフィールはいつものように支えていた。



 晩餐が終わり、私は、ティオ達と一緒に、モカが待っている部屋に向かった。
「おまたせ~。」
 すこし広いリビングのような部屋のソファに寝ているモカとその隣で座っているフィールが見えた。
「モカ、また寝てるし。」
 私は、そっと抱き寄せ、空いたソファに座った。ティオが隣に座り、向かいのソファにリッサさんとミリアが座る。
 フィールちゃんは戻るようにミリアさんの肩上にふわふわと浮かんでいる。
 セシアさんは、隣にあった二人掛けのソファを動かして、コの字になる位置に置くと慣れたしぐさでゆったりと寝るように席に腰掛ける。
 私達はミリアの言葉を待っていた。
「何から話そうかな。そうね、フィールが私を選んでくれた事から。」
 契約のやり取りを話してくれたミリアは、改めて私との出会いに感謝していた。
「いや、もし、出会ってなくても、ミリアはフィールちゃんの願いを叶えるために世界中を飛び回ってるよ。感謝するなら、モカが家出してきたことかな。」
 私は寝ているモカの頭を撫でる。
「私だって、モカと出会ってなければ、ここに居ることも、みんなと知り合いになる事も無かったんだから。たぶん、おじさんの家でのんびり過ごしてお祖母ちゃんの迎えで帰っていくはずだったんじゃないかな。」
 ミリアは寝ているモカに頬笑みを見せている。
「そうね。モカのおかげね。」
 
 次にミリアは、お祖母ちゃんと『火竜エンデュ』の話しを始めた。
 私とティオは少しだけ事情を知っていたけど、リッサさんとセシアさんは驚きと感嘆の声を上げていた。

「なあ、なおさんって強いのか?」
 突然のセシアさんの発言だった。
 私とティオは困惑の表情を浮かべる。
「いやほら、なおさんをシェラ様が育ててるってのは話から理解したし、モカ様と仮とはいえ、契約してるんだろ、それに。」
 じっと見るセシアさんの眼差しが強く感じた。
「武術習っているよね。姿勢とか動きとかが素人じゃないから。」
 セシアの発言に、リッサさんが同調する。
「それは、私も感じていました。騎士とは違うけど、同じような訓練をしていたのかと。」

「なんだぁ。その事か~。えっと、」
 私は私のこれまでの人生を、話す事にした。
 日本という別の世界で両親は事故で無くなってお祖母ちゃんが育ててくれていた事。
 その生活の中で、薙刀と合気道っていう日本の武術を習っている事。
 モカと出会い、この城に来た事。
 そして、明日には、日本に帰り、またこっちに来る事。
 出来る限り言える事を話した。
 この場に居るみんなに、私の事を少しでも知って貰いたい想いがあった。

「よし、なおさんの事は判った。じゃ今度、手合わせ願おうか。」
「それ、セシアが戦いたいだけじゃない。」
 ほぼ同時にティオとミリアとリッサさんが同じような言葉を発していた。
 私はセシアさんの言葉がいつもの温かい感じだったので、素直に「はい。」と返事をした。

「ミリアはこれからどうするの?」
 私は今度っていう先の話になって、気になっていることを尋ねる。
「私は、『バレン』で正式な、お披露目してから、まずは、光の魔法と火の魔法の修行かな。フィールから貰った力を十分に使いこなすようなったら、その後は、遠征隊で行く外界を巡ろうかと。」

「そうですか。」
 リッサさんの声は心配そうに聞こえた。
「大丈夫。修行をしてからだし、お兄さんも一緒に行くから。」
「ミリアの兄様も一緒なら、心配ないな。妹を危ない目に合わせるなんて事は絶対にしないからな。」
「そうね。セシアの旦那様も同じ事するだろうし、大丈夫ですね。」
 リッサさんの返し言葉で、3人は笑い声を上げていた。

「結婚しているのですか。」
 私はセシアさんに驚きを抑えつつ尋ねると、幼馴染の人との馴れ初めとかを色々話してくれた。
 聖典祭の時にセシルさんと一緒にいた人達の中にいて、同じ隊で活動している事とか、ミリア達の茶化す言葉を交えながら。
 そこから当然、話はティオの護衛をしているハミルさんに移る。

 私達は、時間を忘れて、色々な話題を重ねていった。

 晩餐会の来客者達も帰り、後片付けも終わって、残っているのは私達を待っている人達だけになっていた。

 扉が開く音が聞こえると、ルミナ王妃と風の巫女のマイさんが入ってきた。
「積もる話もあると思いますが、そろそろ終りにしましょうか。」
 お母さんの締めの言葉で私達は席を立ち、再会の約束をする。
 廊下に出ると、セシアさんを待っている男性が旦那さんだとすぐに判った。
 ミリアを待っていたのはもちろんミリアの兄のロイだった。
 私はティオとお母さんと一緒に、ミリア達を見送った。

 部屋に戻ってすぐ、ティオに連れられるように私はお風呂に来ていた。あとからお母さんも来るとティオが教えてくれる。
 長い入浴で、のぼせそうになりながら、私はお母さんとティオと沢山の話をした。
 そして家族で入るお風呂も、当分出来なくなる寂しさを隠しながら、私は就寝の挨拶をして部屋に戻った。


 リナの部屋で私は独りでベットで寝ている。意識を入れ替え、今はリナが表に出ている。
 日本に帰る前に、少しでもリナに故郷の景色を見せたくなった私の提案だった。

 銀髪をなびかせ、月明かりを浴びながら、オルトリアスの空を飛んでいるリナ。
 都はまだ、祭り最後の余韻の中で、人々の声が溢れている。
 リナは月を目指すかのように上昇し、遥か遠い景色をその目に写していた。
[町や人が変っていても、世界はやっぱりあの頃と同じね。]
 リナの目に映る昔の記憶は、乱雑に浮かんでは消えていった。
[なにするにしても、時間もお金も無いからな~、なおの気持ちだけで十分ってことね。]
 城に戻ろうと思ったリナに、下から向かってくる人影が見える。
 リナは立つように空に静止して、来客者を迎えた。
「新しい道を、あなた自身の力で拓きましたね。おめでとう。」
 淡い光を放つ赤髪の少女にリナは微笑を送る。
「はい。友人達やシェラ様の助言を頂き、私は望んでいた以上の道を見つけました。」
 ミリアは深々と頭を下げる。
「リナ様、あの時救ってくれて本当にありがとうございました。なにかお礼をしたいのですが。」
「私は出来ることをしただけ、ただそれだけです。奇跡を起こしたのは貴方の兄ですよ。」
 リナはミリアと一緒にいる精獣を見る。
「あなたが私を見つけたようですね。」
 ふと、よぎった考えで、リナは言葉通りの『上の空』を見上げた。
「ねえ、ミリアさん。さっきのお礼の事だけど・・・」
 ミリアは考え込むリナに「はい。」と答える。
「お酒で祝わない?私今、お金持ってないのよ。貴方がいる迎賓館で乾杯しましょうよ。」
 予期しない提案にミリアは戸惑いながらも、頷いた。
「決まりね。それじゃ、時間もあまり無いので早く行きましょう。」
「あっ。はい。」
 考え込む猶予などなく、ミリアとフィールはリナを追って迎賓館に戻った。
 ミリアは宿泊している部屋にリナを迎え入れる。
 部屋に案内される前に、リナは迎賓館の執事にお酒と少しの料理を頼んでいた。
「ミリアさん、お酒は大丈夫?」
「はい。ワインなら飲めます。」
「それは良かったわ。ちょっと特別なやつを用意させてるから一緒に飲みましょう。」
 リビングになっている部屋のソファーに座ったリナはミリアとフィールを確認するように見つめた。
 ミリアの髪色は部屋の明かりで桃色のような色合いに見えている。
「とてもいい色ね。」
 リナは満足気な笑顔を見せる。
 扉を叩く音にミリアは返事を返し、入ってきた執事とメイド達はテーブルにワインボトルとオードブル的な料理を並べていった。
「流石ね。完璧って言える程の素晴らしさです。突然の訪問なのにありがとう。」
 リナの褒め言葉に執事達は深く頭を下げる。
「ミリア様、リナ様、御用が出来ましたら、御呼び付けください。失礼します。」

 リナはワインを開け、二つのグラスに注ぐ。
「リナ様はどういう方なのですか?」
 ミリアは色々と聞きたいことが整理できず、曖昧な問いしか出てこなかった。
「そうね。その前に『様』はやめて貰おうかな。たぶん私のほうが年下だから。」
 ワイングラスを受け取ったミリアは、「はい。」と返事を返し、リナの差し出したグラスに重ねた。
 一気に飲み干したリナはとても嬉しそうな笑顔になっていた。
「このワイン、久しぶりだけど本当に美味しい。別格ね。また飲めるなんて。」
 2杯目を注ぎ、今度は味わうようにゆっくりと飲むリナだった。
「今回の騒動に出てこれたのも偶然って言えばいいかな。普段は違う場所にいるから、救世主的な扱いになってるけど、実際は違うのよ。」
 テーブルの料理に手を出し、もぐもぐしながら話を続けるリナ。
「明日には戻るし、次はいつになるかも判らないのよね。」
 ミリアはワインに口をつけ、その味と香りを感じながら話を聞いていた。
「そうですか。」
 ミリアはそれ以上の事は聞かない事にした。
「ミリアさんの方がこれから忙しくなるとおもうから、覚悟しておきなさい。」
 リナの眼差しも加わって、ミリアは気が引き締まる感じになっていた。
「あと、お兄さんにも少し話しをしときましょうか。」

 ミリアは隣の部屋にいる兄のロイを呼び出し、部屋に連れてくる。
「こんばんわ。突然ごめんなさいね。ついでになっちゃったけど、お兄さんに伝えときたい事があるのでお伝えします。」
 グラスを置いたリナは、ミリアとロイと対峙するように席を立った。
「ちょっと片腕出してくれますか?」
 ロイが右腕を差し出すようにすると、手刀の一閃が肘と手首の間を通り、ロイの腕が床に落ちた。
ミリアとフィールは驚きの声を上げるが、ロイ本人は冷静に受け止めていた。
 傷口は結晶が見え、血とか肉とかが全く見えなかった。
「痛みはありますか?」
 リナの問いにロイは確かめるように話す。
「はい。激痛というものではありませんが、じりじりとする痛みがあります。」
「それは良かった。痛みが無いと、修復する意志が起きないですからね。」
 リナは落ちている腕を魔力をこめた足で踏み、粉々に消した。
「お兄さんの修復は、ミリアさんしか出来ません。」
 動揺の中、ミリアはリナの呼びかけに冷静さを戻す努力をしながら返事をする。
「お兄さんに意図的に魔力を流す方法は判りますか?」
 ミリアは首を横に振る。
「では、最初は体に触れて、治癒魔法のように流してみてください。」
 言われた通りにすると、ロイの腕の結晶が増えて、無くなった部分の形に形成され、塵になると、ロイの腕は元通りになっていた。
「鍛錬すれば、離れていても同様に復元出来るので、頑張ってくださいね。」
 リナはロイの胸に指を挿す。
「前にも話した通り、心臓の炎華石が砕けると、貴方は砕けて消えてしまいますから、そこだけは守りなさい。」
 ロイは頷き、心配そうに見るミリアの頭撫でる。
「大丈夫だ。」
 
 リナは一歩下がりロイに頭を下げた。
 ミリア達はその行動に慌てて声をかけた。
「え、ちょっ、どうしたのですか?」
 頭を下げたままリナは答えた。
「ゴーレムとしての不憫さを伝える事をしてなくてごめんなさい。人の本能的な欲求全てが無くなる事がどれほどの苦痛なのか私は少しだけ理解できますが、それでも辛いと思いました。」
 リナは顔を上げロイとミリアを見る。
「本当に、ごめんなさい。」
 もう一度、頭を下げて謝るリナを、ロイは膝を着き、頭を下げ答えた。
「私にとっては、その程度の対価で、妹を守れる事に嬉しく思っています。ですから、感謝の気持ちは変りません。」
「ありがとう。」リナは顔を上げ、膝を着く騎士に手を差し出す。
「精獣と契約して、騎士の道に戻れたのはミリアさんの努力です。今後の二人の道に幸溢れる事を願います。何かあればルミナ王妃かティオさんに伝えてください。」
 ミリアとロイは、リアに敬意の礼を返す。

 自室に戻ったロイを見届けたミリアは部屋に戻る。
 リナは、ソファに戻り、戻ってきたミリアに注ぎなおしたワインを差し出した。
「そろそろ戻らないとだから、ボトル空になるまで付き合ってくださいね。」
 
 リナの美味しそうに食事をする姿を、ミリアはどこかで見たような気がしていた。
 
 ミリアは、フィールに空に高い魔力をもった人が居ると教えられ、もしかしてと見に行ってからの今までの経緯が、まだ信じられない気持ちの中、城へと飛んでいくリナさんを見上げていた。
「なんだろ・・・シェラ様といい、そういう人達が多いのかな。城の人達って・・・」
「どうなのかしらね。」



 私はリナのベットで寝ていた。
 リナがベットに入るのを、うとうとしながら感じ、「おかえり。」と小さく呟き、また眠りに落ちていった。

 朝、目が覚めると私は少しの頭痛に悩まされていた。
「痛いし、重いしなんだろ・・・少し気分が悪い・・・」
(リナ~。昨日、何かあったの?頭痛いんだけど。)
[ああ、ワインをちょっと飲んだの。ミリアさんとね。]
 私は頭痛を一瞬忘れるほどの驚きだった。
(え?、なんで?というか、お酒、まだ飲んだことないのにー!)
[そうだったの?16歳から飲めるのに、飲んでなかったの?]
 ベットから体を起こした私の隣でリナが申し訳なさそうに私を見ている。
(こっちの世界じゃ16でも、私が居た世界の日本ってっところはね、20歳からなの。)
 これが二日酔いって言う、症状なのかと理解した私は気力が保てないほどの脱力感になっていた。
[ごめんなさい。昔好きだった、]
 私はリナの言葉を止める仕草で遮る。
(ううん、それは良いの。私の方こそ、ごめんなさい。私も飲んでみたかったな~って、二日酔いだけの経験なんて・・・って思っただけだから。)
 頭痛を振り払うようにすこし頭を動かした私は、笑顔を作る。
(ワインは美味しかった?)
[もちろん。変らない味で、とても美味しかったわ。]
(今度来た時は、私も飲む。)
 どうでもいいような決意を示す私を、リナが笑っていた。

 ベットから起きた私は、喉の渇きように置いてもらっていた水をグラスに注いで飲み干した。
「さて、日本に帰りますか!」
 太陽が昇り始めたオルトリアスの景色を、焼き付けるように眺めた私はモカを起こして、二日酔いと格闘しながら、朝の身支度を済ませた。

 朝食を普段通りに済ませ、私はお母さんの部屋に呼ばれていた。
「きをつけてね、なお。」
 別れの抱擁をするお母さんに私は、「はい。」と小さく頷き、宝印石を渡した。
「あっちで無くしたりしたら、大変だから。」
 受け取ったお母さんは、入れ替えるようにクローゼットから銀色に輝くネックレスを私にかける。
「これは、お守りよ。」
 城の旗に描かれてる王家の模様が入った翼と盾を合わせたような彫銀のネックレスだった。
「ありがとう。行ってきます。」
「はい。」と答える笑顔のお母さんともう一度、抱擁を交わした。


 モカと出会った遺跡で異界の扉を開くと、お祖母ちゃんから聞いた私達は、馬車に乗って向かっていた。
 帰りの馬車には、ティオとハミルさんにお祖母ちゃんが加わり、道中の話題は封印士の話になっていた。
「いいかい、封印するのには、特別な魔法紋章を使うのだけどね、クラスが上がるほど複雑な紋章になり、その魔法紋章を維持しながら、相手からの魔力を紐解き、それを紋章に重ね縫っていく
ことなんだよ。」
 ティオは本題になった話を真剣に聞いている。
「まずは、紋章を描く練習からだね。」
 そういって一枚の紙を渡す。中には紋章が1つ書かれていた。
「これの紋章を模写して暗記しなさい。」
「もしゃ?」
 ティオが聞きなれない単語の意味を聞き返した。
「別の紙に同じ紋章を書くってことさ。そうね1000枚も書けば覚えるんじゃないかい。」
「え・・・」
 落胆しているのが誰の目にも判るティオにお祖母ちゃんは、最後の一言を付け足した。
「次来るまでに覚えときなさい。」


 ロレン夫妻の家に着いた私は庭に赤い竜が2匹居ることにすぐに気が付いた。 
 出迎えの中にミリアとお兄さんのロイさんがいるのを確認すると私は飛び出すように馬車から降りた。
「ミリア、お兄さんも来てくれたのね。」
「ロレンおじ様とおば様にフィールを紹介するついでにね。リッサもセシアも見送りにきたかったけど、護衛の任があるから無理だって。エリも残念がってたわよ。」
 ティオが会話に加わり、立ち話を始めると、ロレンおばさんが「焼き菓子を、準備してあるから」と家に招き入れる。 

 私達は、長いティータイムの中、城での出来事をティオから、ミリアから、私から、3人がロレン夫妻にやっきになって話していた。
 死んでお母さんに生き帰してもらったとことか、リナの話とか、言えないことが沢山あったけど、私は祭りの事や友達になったエリオナちゃんの事を沢山話した。

 ティオの帰りの時間に合わせ、神殿の場所に向かった。
「ここは、祈りの神殿って言われてる場所よ。」
 ロレンおばさんが私に話してくれた。
「次元の亀裂みたいなのがあるらしくってね。異界と繋がり易いの。でも、それはあまり良くない事だから、私達が見守ってるのよ。」
 朽ち果てた神殿に、みんなは敬意を込めた祈りを捧げている。
「ねぇ、モカ。だからここでモカと出会えたのかもね。」
 腕の中にいるモカは、「はいです。」と嬉しそうに答えた。

 お祖母ちゃんが魔法紋章を描くと、光が溢れる扉のような物が現れる。
「それじゃ、行って来るよ。」
 お祖母ちゃんの、簡素でいつもの言葉にどこか安心している私がいた。
 挨拶は十分にした。約束もした。目標も見えた。
 不安を感じる事など無かった。

「またね。」
 
 笑顔で別れの挨拶を済ませた私は、お祖母ちゃんと一緒に扉の中に入った。


 目覚まし時計の音が、眠りの邪魔をする。
「ん~もうちょっと・・・」
 私は飛び起きるような意識で目を開けた。実際は目を開けただけの状態の中、目覚ましに手を伸ばし止める。
「夢!なんてことは無いよね。」
 枕元で寝ているはずのモカの姿が無かった。
 私は飛び起きて自分の部屋を見渡す。
「なお~おはようです。」
 心臓の鼓動が収まっていくのが自分でも判った。
「おはよう、モカ。今日は早起きなのね。」
 窓の外を見ていたと理解した私は、ベットが起き上がり、モカと一緒にもう一度外を見た。
(リナ。ちょっときて)
[どうしたの?なお。]
 昇り始めた太陽が眩しかった。モカとリナと一緒に見た朝日はとても暖かく感じた。

「これからも、よろしくね。」
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部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

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