神様の転生のお供に選ばれまして ~異世界転生したら溺愛されるなんて聞いてません~

ものぽりー

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しばらくのお別れ。

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 天帝さんの鎖骨を道連れに頬の熱を冷ましてから、改めて段ボールに座りなおした。



「それじゃ、転生する世界も目星ついたし…さっそく転生といこうか」
「展開が早いですね」


 天帝さんは非常に嬉しそうだ。
 これはあれだ、夏休み前に終業式も終わって帰宅目前の、希望にあふれた小学生だ。
 まだ宿題という名の残酷な未来を知らない無垢な姿だ。
 

「ただ残念なことに、いろいろと事務手続き的なことがあって…それを終わらせないといけないんだ」


 落ち込む様子は、夏休みの宿題を渡され世知辛い現実を知った小学生だ。



 なんだか、この神様は絶世の美貌の持ち主のはずなのに、結構頻繁に子供か犬のようにしか思えなくなる。
 え、これが母性?私の母性の目覚め?


 …違うな、ただ単にこのヒトが精神年齢2歳児なだけだわ、きっと。
 


「愛瑠は準備が終わるまで眠っていてくれればいいよ。次に目が覚めた時は転生先だ」
「え、」



 見知った相手もいない世界に一人で行くのは、やっぱり不安だ。
 こんな精神2歳児とはいえ、居るのと居ないのとでは…


「愛瑠、不安なの?大丈夫だよ。すぐに迎えに行くからね」
「う…」


 不安が顔に出ていたようで、天帝さんがまた頭を撫でてくる。
 なぜ撫でる側が嬉しそうなのかは不明だが、非常に恥ずかしい。
 落ち着け自分、このヒトは汚部屋の主で2歳児でボッチ仲間で、こんなこと言ってるけど廊下でリンゴ箱に座ってカッコつけてるという現状を正しく受け止めれば………あ、落ち着いたわ。



「ペットは少し待ってね、向こうでちゃんと吟味して決めるから。愛瑠が生まれる家もちゃんと選んでおくから安心してね。あと魔法も僕が使い方教えてあげるから無茶しないように。それと拾い食いはしないようにね、水に気を付けて。知らない人には着いていかないように。あとは…」
「過保護か」


 幼児と勘違いしてるんだろうか?
 

「というか、私の記憶ってなくなるんですか?」
「いや、消えないように設定するよ。愛瑠に僕のこと忘れられると寂しい…」

 
 ボッチ生活の弊害かな。
 このヒト、正しい言葉のチョイスを学んでから転生しないとマズいんじゃない?
 この調子だと、老若男女、果ては魔獣まで口説いて回るんじゃないかな…。


 という思考が口から洩れていたらしい。
 笑顔で両頬を押しつぶされて、タコにされた。
 
 『そんなことしないよ』とか言ってるけど、全く信用できない。
 


 というか記憶消さないなら、なぜそんな注意した。
 わたし立派な女子大学生ぞ?


「転生して顔が変わったとしても、僕は愛瑠のことすぐにわかるけど、愛瑠が僕のことわかるようにしておかないとね」
「そっか。天帝さんの顔が変わったら、私確実にわかんないや。部屋の汚い人探せば見つかるかな?」
「僕忙しかっただけで、片付けられないわけじゃないからね?」


 アイデンティティの一つを自ら手放すというなら、尚更わかる自信ないわー。


「そうだな…愛瑠、僕の転生後の名前決めてくれない?」
「名前?天帝さんの?私が決めるの??」
「それなら僕のことわかるでしょ?」


 そんな期待した目で見られても、わたしのネーミングセンス…
 天帝さんに負けない程度には自信ないんだけど。


「名前って大事なものだと思うので、ご自分で決めたらどうです?」
「大事だから愛瑠が決めてよ」
「いやいや、ご自分で…」
「いやいや、愛瑠が…」
「いやいや、…」


 どうぞどうぞ、と譲り合ってても埒が明かない。


「んー、じゃあゲーム好きな天帝さんだし……私が初めてプレイしたゲームに出てきた召喚獣の名前で、『オーディン』ってどうですか?」
「『オーディン』…」



 天帝さんはキラキラしい目で自分の名前カッコ仮、を呟く。

「僕もあの召喚獣は好きだよ。うん、いいね。じゃあ今日から僕はオーディンね!」
「いや、転生して名付けられた日からですよ」


 大層喜んでもらえたようで、頬が少し上気する美人さんは目に毒なほどだ。
 頭に刻み込むように何度も繰り返し呟いている。
 大輪のユリの花のような笑顔は、この世の春とでもいうような華やかさ。

 そこまで喜んでもらえると……面倒で適当に思い出した名前をパクって決めたのが申し訳なくなるので、その辺で落ち着いてほしい。
 それにしても、転生先のご両親が別の名前をつけることはないのかな?そうなったら絶対わかんない自信がある。




 鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌な天帝さんは、この部屋に案内してくれた時のように、自然に私の手を掬い上げ、元の寝室の方に導く。

 部屋に入るとベッドに入るよう促し、自分はベッドに腰かけて、寝かしつけるように私の頭をゆっくり撫でる。



「じゃあ、少しだけお別れだね」
「……てんていさん、」
オーディンが会いに行くから、ちゃんと待っててね」


 すぐに眠気が襲ってきて、ゆっくり瞼が落ちていく。




 目を閉じる最後の瞬間に見えたのは、私の髪を一房掬い取って口づける、甘い微笑みの天帝さん。






 …人生最期の瞬間より、余程心臓に悪い最後だったな…。






*転生前の愛瑠視点はここでおしまいです。
 天帝さん視点で閑話を挟んでから、転生後のお話になります。

  
 
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