神様の転生のお供に選ばれまして ~異世界転生したら溺愛されるなんて聞いてません~

ものぽりー

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閑話*陛下視点

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「いやぁ…疲れたのぅ……」
「そうですわね…」


 オーディンとアイル嬢が退室した後、部屋に残った儂は后と一緒につい大きな溜息をついてしまった。

 侍女が淹れ直した温かい紅茶。……今だけはマナーを忘れ、落ち着くために暖をとろうと両手で包み持つ。
 



 アイル嬢の最初の印象は、先だって宰相ドラムに聞いていた通り、至って『普通の子』だった。

 飛びぬけて優れた容姿とは言えぬが、可憐で柔らかな雰囲気がある。
 マナーは学び出したばかりゆえにまだ未熟な点も多いが、考え方が大人びているというか、あの子も精神面の成長が早そうであった。
 なによりオーディンに対してのあの態度。儂らに対しては怯えているような様子があるというのに、息子に対しては欠片も遠慮がない。きっと王族だと思っていない。それにしても子爵令嬢が王族の足を蹴り飛ばし、床に引きずりおろして怒鳴りつけ反省させようとは……正気を疑った。しかも相手があの・・オーディンとなれば、誠、死すら恐れぬ真のごうの者よ。
 だが当の本人オーディンがそんな対応すら非常に嬉しそうに受け入れていたので、この子はこの歳で変な性癖に目覚めてしまったのかと戦慄してしまった。

 が、アイル嬢だけが特別のようだ。
 儂らには相も変わらず塩対応だった。


「アイル嬢はオーディンの番と考えて良いのだろうな…」
「あれは間違いないでしょう。アイル嬢の前……いえ、アイル嬢が視界のどこかに少しでも入っている時だけ、別人のようでしたわ。視界から外れた途端に目が死んでました」
「目が死んだ魚のようだというのに、見慣れたオーディンに戻ったと安心する自分がいたぞ」
「別人過ぎて直視に耐えませんでしたからね」


 人格が変わるというより、人格も表情も言動も全て崩壊していたからな。


「しかし子爵令嬢か……正妃とするには、身分がなぁ…」
「番とはいえ身分の釣り合いがとれないことで、納得しない貴族たちは多いでしょうね」
「だが身分の高い家から正妃を選び、アイル嬢を側妃とするのは、オーディンが認めんだろ………う?」


 急に部屋の中が暗くなる。
 先ほどまでは天候も良く、温かな陽気だったというのに…。



 空を見上げると、王宮の上空にだけぶ厚い雷雲が立ち込めている。

 急に雨が窓を打ち付けだし、ゴロゴロと雷鳴が聞こえ、風も強くなり窓がガタガタと軋みだした。




 こ、これは……。



「だ、だが、オーディンの手綱をうまく取り、魔王を賢帝へと変えられるのはアイル嬢だけであろうな!」
「そ、そうですわね、国を滅ぼさないために、身分よりも大事なものがありますわよね!」
「そなたたちもそうは思わんか!アイル嬢、いい子だったなぁ⁉」
「「「「その通りです(わ)!!」」」」



 周囲の者たちも巻き込み『アイル嬢万歳!』と叫ぶと、途端に雷雲が消え、日が差しはじめた。



「………オーディンは、アイル嬢と部屋に帰ったんじゃなかったか……?」
「………聞こえてはいないはずですわ…。いないはず、なのですが…何かを察知したのでしょうか……」
「「………オーディン……恐ろしい子……!!」」



 すっかり晴れ渡った空を見上げ、后と共に身震いした。



 アイル嬢には申し訳ないが、人身御供とさせてもらおう。
 だって儂らの息子、怖すぎるんじゃ。




 息子は素質は十分なのに何事にも興味関心がなさ過ぎて、きっと王にはなれないだろうと思っていた。
 しかしアイル嬢次第で、あの子は誰よりも立派な王にも、世界を滅ぼす魔王にもなるだろう。

 かくなる上は、




「アイル嬢じゃ。アイル嬢を王宮一丸となって良識ある正しき者の道に導くのじゃ!」
「将を射んとする者はまず馬を射よですわね。オーディンを何とかするのは不可能です。アイル嬢を何としてでも立派な淑女として育てましょう!」
「滅びか繫栄か、すべてはアイル嬢にかかっておる!誰かここに宰相を呼べぃ!緊急会議じゃ!」
「「「「「はいっ!」」」」」



 世界の存亡をまだ幼き一人の少女に託すため、いかにオーディンの手から守るかという一大プロジェクトがここに開始された。




 
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