お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

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第263話 夏休みといえば、アレです

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 クルシュ暦368年8月初旬――。
 日差しがきつくなり夏も本番を迎えている。

 前期試験をようやく終えた学生たちは、ここからようやく夏季休暇が始まるというわけだ。
 メストリル王立大学をはじめ、この世界の大学のほとんどがほぼ同じ日程で動いており、夏季休暇は8月の初めから9月の末までの2カ月間にも及ぶ。
 
 去年の夏季休暇中は何かと忙しかったなと、キールは思い返していた。
 そう言えば初めて『火炎』に会ったのが去年の夏だったのか、と、ふと思う。シルヴィオさんとの対決が起きて、『シュニマルダ』の解体に至ったのもその時だ。
 バレリア遺跡に初めて行ったのも去年の夏だった。
 ん? そう言えば『疾風』との邂逅もそうだったな。

 一昨年の夏は、カインズベルクにいた。そういえばケリー農園の人たちや、メイリンさんは元気にしてるのだろうか? あ、あの下宿宿の二人、もう卒業したのかな? えっとぉ、たしかデジムとセフィだったな。デジムは当時4年だったけど、卒業とは無縁そうだったからまだ学生でいるのかもしれないな。セフィはたしか僕と同じ法科だって聞いてたけど、確か3年だったから、順調に行ってればすでに卒業してるはずだ。

 思えばこの大学に入った1年生の夏が一番穏やかな日々を過ごしていたのかもしれない。春にミリアに自分が魔術師であるという事を勘付かれてから、その夏は魔法書の類を読み漁った記憶がある。本当に毎日毎日ひたすらにそればかりやっていた。
 当時は必死で大変な思いをしたと思っていたが、今思えば、あの日々の方が実は一番穏やかだったのだと思える。

 そんなことを考えながら、ポーッとしていると、少し離れたところから女の子の声がした。

「キールさん、お待たせしました~。じゃ~ん! どうです? かわいいでしょ? 遠慮せずにじっくり見ていいんですよぉ? ――ん? あれ? ミリアさん、何してるんですか、私の後ろに隠れて――」
「わ、私はいいのよ!」

「何言ってるんですか!? 何のためにわざわざ昨日一日かけて選んだと思ってるんです? あえて『敵に塩を送る』のを承知で付き合ってあげた私の気持ちを無駄にするつもりですかぁ!?」
そう言って、後ろに隠れるミリアを無理やり引っ張り出した。
「ほら――ミリアさん?」

「え? ああ……。どう、かな、キール――?」
そう言ってややうつむき加減におずおずとキールの前に現れたミリアを目にしたキールはさすがに目のやり場に困って、視線を目の前のプールの方へと移し、
「い、いいんじゃないかな……? よ、良く分からないけど、その、二人ともよく似合ってる、と思う、よ?」
と、たどたどしく応える。

 こういう時、アイツクリストファーがいれば、さも普通に気のいた言葉をすらすらと言ってのけるのだろうなぁとふとキールは思う。
 
 3人は今、アステリッドの邸宅にやってきていた。
 話の発端はアステリッドの一昨日の話だ。
 アステリッドの邸宅に新しく、「プール」ができたと言う。実はキールは前世の記憶があるから「プール」が何かという事を知っているのだが、この世界でそう言えば「プール」の話は聞いたことがなかった。

 アステリッドの発案で、邸宅のテラスに「プール」を新築したという事だった。どうやら父君にうまく申し出たらしい。他の邸宅にはないものを作ってお披露目パーティでもしてみたら、アステリッド家の名を売るのに一役買ってもらえるんじゃない? その場合、王城にもないものを作って、英雄王もお招きになればどうですか、と。
 
「わたくし、したのです――」

と、アステリッドはそう話したらしい。

 その「プール」の話を聞いたアステリッドの父君はたいそう驚いていたが、面白いかもしれない、と、話に乗ってきたという事だった。

 で、このほどそれが完成し、お披露目パーティまで数日という段になっている。つまり、今は完全に3人だけの貸し切り状態だ。

 テラスに設置された「ビーチテーブル」に腰かけ、一足先にあてがわれた「水着」に着替えて待っていたキールは、邸宅の使用人らしき人が運んできてくれた、「トロピカルフルーツジュース」を飲んでいたところに、二人が現れたというわけだ。

 アステリッドの水着は、上下セパレートタイプのいわゆる「ビキニスタイル」で、下の方にはひらひらとフリルが付いている。アステリッドの活発な感じが良く現れていて、その先に延びるすらりとした脚がさらに際立たされている。

 ミリアの方も同じく「セパレートタイプ」ではあるが、こちらは下にフリルの代わりにストールが巻かれていて、上の方にフレアが付いている。これはこれで、ミリアの貴族令嬢的な高貴さを感じさせ、露出のわりに清楚な趣さを醸し出している。

 と言っても、二人ともお腹が丸見えで、足も肩も首も、そして胸や尻も、薄布一枚で隠されているだけであることには違いない。

 前世の記憶のなかにもこう言った女性の水着姿と言うものはあるだろうが、さすがに普段一緒に過ごしている女性のこう言った姿というのは、なんとも、表現のしにくい感情が沸き起こるものだ。

「え~? それだけですかぁ? ほら、見てくださいよ、ここ。キールさん、気づいてました?」
そう言って、アステリッドが背中を向けて、お尻の上あたりを指さす。
「ね? ここ、穴が開いてるでしょ? これが私お気に入りなんですよぉ。かわいいでしょ?」

 いやいや、そんな穴より、少し下のふくらみに目が行ってしまうんですが――。

「ミリアさんの方は――ここ!」
そう言ってアステリッドがミリアをくるりと回転させ後ろを向かせる。
「背中がわは、こうなってるんですよ? ね、可愛いですよね~」

 見ると、トップスの背中側の布はほとんどなくて、上端と下端の二本のひもでつながっているだけとなっている。
 つまり、背中はほぼ丸見えだと言っていい。
 ちなみに、この世界に「水着」はまだ店で売ってはいない。キールのも含めて3人のものはすべて、アステリッドの邸宅の使用人による仕立て物だ。

 キールは何とも表現のしようのない気持ちでこの先数時間過ごすのかと思うと、すこし眩暈めまいがしてきたような気がしていた。
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