お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

文字の大きさ
358 / 437

第358話 現行音声通信技術の問題点

しおりを挟む

「紹介します。妻のフランソワです――」

 クリストファー自身は、そう自然と口にできている自分を少し誇らしげに思えた。

 今は遠く離れているが、やはり、自分にとっての「メストリル」は故郷であり、心の拠り所であると強く感じる。
 3年もの間音信不通だったにもかかわらず、まるで昨日まで一緒にいたかのような親近感と安心感が沸き起こっているのを感じているからだ。
 そして、その友人たちに対してなんの後ろめたさも感じることなく、フランソワを「妻」であると宣言できたのは、自身の心が正直に彼女を受け入れていることの証でもある。

「フランソワ・エル・ヴェラーニです。皆さま、初めまして。今後ともよろしくお願いいたします――」

 そう、フランソワが会釈する。

「――本日は夫の晴れ舞台に、遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」
と、続けた。

「フランソワはそのう、元王女で……」
と、クリストファーが言いかけるのを、
「クリストファー、大丈夫だ。皆よく知っているぜ? しかし、今はすでに下野してお前の妻なのだ。出自などそれほど大した問題ではないのさ。それは今フランソワ自身が宣言したではないか――。俺たちにはお前の妻、フランソワで充分なのさ。それとも彼女は自身の過去の立場をひけらかして俺たちに接するような方なのか?」
と、英雄王が制する。

 フランソワは自身の妻だと宣言したに過ぎない。彼女自身が「王女」であることを敢えて宣言しなかったのは、その必要がないからだと、英雄王は言っているのだろう。

「――そう、ですね。陛下、このクリストファー、未だに自身にわだかまりがあるようで恥ずかしい限りです。私自身がもっと彼女の夫としてふさわしくあろうと身構えているのかもしれません」
と、英雄王に返す。

「あら、陛下って存外ぞんがい意地悪いじわるなお方なのですね? そういうところは過去の自分を未だに引きずっておいでからなのかしら?」
と、フランソワがずぶりと突き刺すような言い回しを投げかける。

「く、ははは。むしろ俺は立場が変わってるつもりがないからなぁ。俺は今でも一介の冒険者のつもりだぜ? 成り行きで今は国王という役を演じているにすぎんさ」
と、一笑に付す英雄王の器の大きさ。クリストファーは、ああ、そういう方だったなと改めて認識する。


「ところでクリス。わざわざ私たちと時間を取っているってことは、なにか伝えたいことがあるからでしょう? そうではなくて?」
と、エリザベスが問いかけてくる。

 そうだ。本題はフランソワには悪いが、彼女のことではない。

 今回発表した「音声通信技術」の欠陥と今後の展望について話しておこうと思ったからだ。
 いまこのお披露目会場のなかでは、監視の目もすこし遠ざかる。さすがに国家の重鎮たちがわんさかいる中を諜報員がクリストファーと各人とのやり取り一つ一つを張り付いて盗み聞きすることは難しい。
 このような時間を取ったのは、重要なことを「技術の説明として」それとなく伝えることができるのは今が千載一遇のチャンスだと考えてのことだ。

「ああ、そうでした――」 
と、クリストファーはようやく本題に入る。

 クリストファーは「音声通信技術」の現在地点について滔々と語った。

 まず第一に、発信されたものは「シングル・バンド」であるがため、全ての通信施設で傍受できるということを伝えた。そして、おそらく近い将来「マルチ・バンド」の技術も開発されるようになるだろうということも伝えた。
 そうなった場合、通信内容の秘匿性は格段に向上することになる。傍受自体は可能であるが、チャンネルを都度変えて発信されると、追いかけるのが非常に困難になるからだ。
 例えば数秒ごとにチャンネルを変えることを何らかの方法で伝えておき、通信の途中でその順にチャンネルを変えて発信すれば、次のチャンネルが分かっているものはすぐに切り替えて聞くことができるが、そうでないものは、行先を探し当てるのに少なくとも数分以上の「ラグ」が発生することになるだろう。

 そして第二に、電力不足だ。
 実はこの「通信装置」を動かすのに必要な電力エネルギーがかなり大きい。
 現在クリストファーが改良した大型発電機をもってしても、一台当たり、4基の発電機を使用する必要があるのだという。
 おそらくこの音声通信技術や街灯の設置が各国に普及してゆけば、現在の発電機では追い付かなくなる可能性が生じるだろうということだ。

 最後にこれが現状としては一番の問題なのだが、「アンテナ」の感度の問題だ。
 現行アンテナの伝播でんぱ距離は、半径約100キロメートルだ。おそらくだが、本来電波の伝播距離というのは無限であると思われる。ただ、あくまでもそれは条件が揃えばという前提でだ。残念ながら、今の技術ではこれ以上距離が離れた場合、電波が微弱になりすぎて拾いきれない。
 その為、これから各地に設置することになる「アンテナ」には、自動発信装置が組み込まれている。受けた信号を再発信する機能を標準装備してあるというのだ。
 これによって、半径200キロごとにアンテナが設置されていれば、遠く離れていても通信が可能となるわけだが――。

「つまり、世界中にアンテナが建造されないと、通信ができない地域が生まれるというわけね――」

 エリザベスはそこに潜む問題点に気が付いてくれたようだ。さすがは、わが師、である。

「はい。通信脆弱ぜいじゃく地域の発生は、新たな国際問題の火種になりかねません。その為、僕たちは各国に支援金や労働力を提供しても世界各地にアンテナ設置を成し遂げなければと考えています」
 
 クリストファーはその言葉を発した時、ああ、まだメストリルに戻ることはできないなと、胸にチクリと痛みが走るのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

処理中です...