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犯人
しおりを挟む葉山が発見した生首は作家、河西芳紀のものであることが確認された。
また、その胴体は先日、八ヶ岳の山火事の後から発見された首なし死体のものであることも判明した。
「またお前さんか」
所沢署で事情聴取を受けているときに警視庁の大曽根刑事と井川刑事がやってきた。
「どうしてあなたがここに?」
「お前さんは西山殺しの重要参考人だ。そのお前さんが生首を発見したとあっちゃあ、ほっとくわけにはいかんだろう」
「まだそんな事を言ってるのか」
葉山は溜息をついた。
「今度の動機は何だ? どうして河西芳紀を殺した」
「オレには西山殺しの動機もないんだぞ」
当初、ビルから飛び降りて自殺したと見られていたサッカー選手、西山智之。
「だが、お前さんは誰も知りもしないような河西芳紀という無名の作家の家を訪ねた。それは何故だ?」
「それは……」
「そこで偶然、生首を発見しただと? そんな戯言が通用するか」
「エニグマを辿ったんだよ」
「なに?」
「西山が死ぬ直前に発した〝エニグマ〟という言葉。それを探っていたら河西芳紀に辿り着いた」
「どういう事だ」
葉山はエニグマ叡智保存協会について説明した。
「西山がエニグマ叡智保存協会の会員だったって言うのか?」
「確証はないけど、そう考えると殺された理由が見つかるかもしれないと思って。つまり西山はエニグマ叡智保存協会の秘密を暴露しようとして消された」
「考えすぎだ」
「だけどエニグマ叡智保存協会を追っていたら、また死者が出た」
葉山は今度は殺された河西芳紀がエニグマ叡智保存協会の会員だったということを大曽根に教えた。
「ふむ」
大曽根は考えこんだ。
「河西芳紀もエニグマ叡智保存協会の会員だったのか?」
「ああ。そして河西芳紀もエニグマ叡智保存協会の秘密を暴露しようとして殺されたと考えれば辻褄は合う」
「どうして同じ時期に秘密を暴露しようなんて会員が二人も出たんだ?」
「エニグマ叡智保存協会の内部で何かが起きようとしているのかもしれない」
「何が?」
「それは判らない。だけど人を殺してでも内密にしなければならないほどの重大事だろうな」
「重大事ねえ」
「西山は自分の口から〝エニグマ〟と言ったんだ。普通の人間だったらエニグマ叡智保存協会の存在すら知らないはずだ。そして殺された河西芳紀はエニグマ叡智保存協会の会員だった。二人の死にエニグマ叡智保存協会が絡んでいたと考えて不都合なところがあるか?」
大曽根は考えこんだ。
ドアが開いた。茄子のような顔をした井川刑事が顔を出す。
「いま取調中だ」
「目撃者が現れました」
井川が小声で大曽根に告げる。
「何の目撃者だ」
「西山が死んだときの目撃者です」
大曽根は目を剥いた。
「若造二人のことか」
「いえ。被害者の目撃ではなく犯人と思われる人物を目撃した人物です」
「なんだと」
葉山が井川の言葉を注意深く聞いている。
「あんな時間に?」
「ええ。マンションに住む男性で早朝ゴルフに出かけるために、まだ暗いうちに家を出たそうです」
井川は大曽根の耳に自分の口を近づけ葉山に聞こえないようにしている。
「そいつは何を見た」
だが大曽根の声が大きく井川の話を推測されてしまいそうだ。
「マンションから立ち去る人物です。ハッキリと見たそうです」
「どんな野郎だ、マンションから立ち去ったのは」
「女です」
「女?」
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「そうか」
大曽根の顔が引き締まった。
「モンタージュが作れますね」
「それも美人のな」
大曽根は立ちあがった。
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