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黒沢ゆいなが元カレと個室に入る
しおりを挟む黒沢ゆいなは葉山基樹と池袋の個室ダイニングバーで落ちあい情報交換をしていた。
「わけが判らないよ」
葉山は盗聴した〈よろこび党〉宇田川聖美党首と浦郡万作の会話の内容をゆいなに告げた。今日のゆいなは黒いミニのワンピースを着ている。
「宇田川聖美がデリラ、浦郡がサムソンって呼ばれてた。まるで何か悪い夢を見ているみたいだ」
葉山は水割りを一口飲む。
「それにエニグマ叡智保存協会って〈よろこび党〉と、どういう繋がりがあるんだ?」
「もしかしたら葉山さんは、とんでもない日本の闇を聞いてしまったのかもしれないわね」
葉山の腕がブルッと震えた。
「どういう事だよ」
「まず葉山さんが教えてくれたエニグマ叡智保存協会幹部の人員構成について」
ペテロ、シスター、クルス、ムーンという幹部の名前。
「ペテロの名前は宇田川聖美と浦郡にも出てきたな」
「つまり〈よろこび党〉の宇田川聖美と浦郡万作がエニグマ叡智保存協会の会員だという事じゃない?」
葉山はゴクリと唾を飲みこんだ。
「そう考えるしかないわよ。それも幹部でしょうね。そんな名前がついているところをみると」
「驚いたな」
「〈喜びの子供たち〉の幹部構成をもう一度、考えてみて」
教祖に湯野陽光。その下に三人の若い女性幹部。
尼ヶ崎優華。十文字真生子。広崎レナ。
「これはエニグマ叡智保存協会の幹部構成と極似しているのよ」
「え?」
教祖のペテロ。その下に若い三人の女性幹部。
シスター。クルス。ムーン。
「まさか……」
「〈喜びの子供たち〉というのはエニグマ叡智保存協会の隠れ蓑なんだわ」
葉山は絶句した。
「そう考えれば辻褄が合うわ」
「どう合うっていうんだ?」
葉山はようやく言葉を絞りだした。
「エニグマ叡智保存協会は本当の意味での秘密結社よ。自分たちの存在が知られることを極端に嫌っている。だけど組織が大きくなれば本部が必要になってくる。それを入れる器、建物も。つまり隠れ蓑が必要になってくるってこと」
「それが〈喜びの子供たち〉だって言うのか?」
ペテロが湯野陽光。
シスターは尼ヶ崎優華。
クルスが十文字真生子。
ムーンが広崎レナ。
「うん。実は〝神の子〟というのはエニグマ叡智保存協会の重要なモチーフでもあるの」
「じゃあ森原みらいは〈喜びの子供たち〉じゃなくてエニグマ叡智保存協会の本部にいるっていうのか?」
ゆいなは頷いた。
「〈喜びの子供たち〉は何かと問題のある宗教よ。いまに〈よろこび党〉も〈喜びの子供たち〉を見放すかもしれないわ」
「〈喜びの子供たち〉を見放すってエニグマ叡智保存協会をも見放すってことか?」
「いえ。〈よろこび党〉はイコール、エニグマ叡智保存協会でしょ? つまりエニグマ叡智保存協会は隠れ蓑を〈喜びの子供たち〉から〈よろこび党〉に移し替えようとしているんじゃないかしら」
「ちょっと待て。〈よろこび党〉は近い将来、与党になるぞ」
「だとしたら日本がエニグマ叡智保存協会に乗っ取られる」
葉山はグラスを持つ手を宙に止めゆいなを見つめた。
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